買い物と水着とファッションショー
おまたす
さて、街中での情報収集は良くも悪くもそこそこと言ったところか。
最初に向かったのはプトレマイオスの冒険者組合だが、例の島の調査に関わった冒険者は留守にしていて会うことは出来なかった。
代わりに職員さんに話を聴くことは出来はしたのだが、得られた情報は多くはなく。
というか、そもそも情報は全て神殿にも伝えられており、それらの情報はこちらにも回って来ているのだから当たり前か。
一応、魔力壁の情報も聞くことは出来たので、やはりとーまくんの言った通りイベントの仕様だったと見てよさそうだ。
「転送先は先遣隊の打ち込んだ座標が中心。ただし多少のブレはあって、十二分割エリアのうちの一つの中でランダム転移っていうのは、当たりの情報かしらね」
「転送時に手を繋いだりしておけば同じ場所に転移出来るっていうのもだね」
「パーティー組んでてもそれぞればらばらに飛ばされるってのは結構いい性格してると思うわ」
送ってくれた馬車は既に戻っており、アリシエルが言うには指定の時間に指定の場所に迎えに来るよう言ってあるから安心とのこと。
なので、現在の移動手段は徒歩。
アリシエルの手にした日傘の下で並んで歩き、気になった店とか露店とかを気ままに覗いてみたり、買い物をしたりと自由に散策という二度目の観光を楽しんでいる真っ最中。
キサラちゃんは私の影の中だし、ミリアちゃんは腕の本体と同化して休んでいるし、スピリア達はダイアリーの中でなにやら熱心に励んでいるようで。
首筋に触れるひんやりとしたサビクの体温が陽射しで火照る私の身体を癒してくれている。
「ああ、そうだ。ミリア、キサラ、ちょっといいかしら?」
「……呼んだ?」
「……?」
にゅるん、と腕からは獣人ばーじょんのミリアちゃん、影からはひょっこりとキサラちゃんが顔を出し、それぞれアリシエルを見上げて首を傾げる。
うん、ちょうどすれ違おうとした人が眼を丸くしてるから頭だけ出すのはやめようか、特にミリアちゃん。
祭服の袖から頭がにょきっと生えているのは流石にシュールだ。
「ええ、呼んだわ。で、そこの店に入るわよ。どうせなら、貴女達のも用意しておかないとね……私達のぶんしか用意しなかったのは失敗だったわね」
「うん、服屋……じゃないね。水着屋?」
「ええ。この後、海に行くわよ。どうも、島の方ではゆっくりもしてられそうにないし……今のうちに、ね」
アリシエルに連れられて、水着の専門らしい店舗に入って、ミリアちゃんとキサラちゃんの為の水着をあれやこれやと選び始めたアリシエル。
彼女、私の事を着せ替えして遊ぶのが好きなのであるが、当然と言うべきか私でなくとも可愛い女の子を着せ替えさせるのは大好きなのだ。
鼻息荒くお店の中を物色、二人を並べて水着を当ててはこれじゃないあれじゃないとアリサ節が始まって。
次第に店員さんまで加わって、さらには他に居たお客さんも混ざってファッションショーのようになったりもして。
「騒がしくしてすまないね」
「いえいえ。これも仕事ですし、売り上げには期待が出来そうですからね」
「あー、ミラ・ムフロンの名前で神殿に請求を送っておいてくれればいい。あそこのメンバー全員分、私が持とう」
「聖女様の御用達となると、これ以上に光栄な事はありませんね、はは」
店舗内に置かれたテーブルセットに腰をおろして私と話しているのはこの店の支配人さんで、私と同じ羊さん。
流石に祭服とヴェールの意味は知っていて、一人でぼーっとしていた私に声をかけ、相手をしてくれていた。
支配人さんが店員さんの一人を呼びつけ、何かを耳打ちすれば店員さんはファッションショー会場へと駆けていき、その直後には大歓声。
支払いは私が持つと言ったのを伝えに行ったのだろう。
こちらをちらりと見たアリシエルにひらひらと手を振れば、二人は最高に可愛くしてあげるから任せておけとのアイコンタクトを頂いた。
「聖女様は何かお探しですか?」
「いや、あの二人のぶんだけでいいかな。他に探していると言うなら……情報、かな?」
「それは、新たに発見されたと言う島の調査関連でしょうか?」
「流石、話が早くて助かるね。それの調査で来たんだけど、何か知ってる事はあるかな?」
「……おい、何か書くものを!」
口頭では言えない、何か貴重な情報……そう捉えてしまっても、いいのかな?
店の裏から姿を現した店員さんが持ってきた紙とペンにすらすらと何やら書き記し、何度か確認した後。それを店員さんの用意した封筒へと仕舞い、私へと差し出す支配人さん。
「こちらをお持ちください。可能な限り、他の人には見られない場所でご覧いただければと」
「ふむ……この中の情報は、神殿には?」
「おそらく、まだ伝わっていないかと」
「私から伝わるかもしれないよ?」
「それはそれで、構いませんよ。隠したい訳ではありませんからね。しかし、聖女様に恩を売るという意味では、商売人としては最高の利益でございます故に」
「いいね、嫌いじゃない。有り難く、売られておこう」
「ヘメルス商会は、他にも色々と支店など展開しておりますので、レオニスにお戻りの際にもご贔屓いただければ、光栄でございます」
そう言って、追加で手渡されたのは一枚のカード。
黒いカードに金の文字でヘメルス商会優待券と記されたそれを受け取り、支配人さん……改めて。
「私、ヘメルスの商会長をつとめさせていただいております、パーンと申します。どうぞ、お見知り置きを」
「それじゃあ早速一つ、用意して貰いたいものがあるんだけれど……頼めるかな?」
「お聞き致しましょう」
それからファッションショーが終わるまでの一時間ほどをパーンさんと商談やら世間話やらで過ごし、大量の水着の購入をして。
支払いに関しては別にその場で払ってもよかったのだけれども、頼んだ物も含めて神殿に請求を送るからと言うのでお言葉に甘えさせて貰った。
そして、水着を抱えた女性客達に代わる代わるお礼を言われながらアリシエルと店を出た。
「キサラちゃん、ミリアちゃん、いいのはあった?」
「……きぃ、疲れた。しぃは、強引。みりぃも、大変」
「……」
心なしかでろーんとなっているミリアちゃんと、人に囲まれてのファッションショーで疲れたのかのそのそと影に潜っていくキサラちゃん。
対照的に、肌をツヤツヤさせたアリシエルがご機嫌で水着の入っているであろう袋を手に笑顔を浮かべている。
「ミリアちゃんも、休む?」
「……っ」
左手を差し出してあげれば、アリシエルから逃げるように飛び付いてきたミリアちゃんが同化して。
再び二人になって、二人で歩く。
アリシエルはアリシエルでお客さん達から色々と話を聞いてくれていて、私からはパーンさんとお近づきになれた事を報告しあって。
またしばらく歩いた先には見慣れた馬車が止まっており、馬車の前で待機しているのも見慣れた顔で。
「お待たせ、スヴィータ」
「お待ちしておりました、お嬢様、アリシエル。もうお買い物はよろしいのですか?」
「よくてよ。それよりも、さっさと次へ行くわ」
「なんだっけ、これから海に行くんだっけ?」
「ええ。神殿関係者用のプライヴェート・ビーチの利用許可は取ってあるわ」
「向こうでレオリシェルテ様もお待ちで御座いますよ」
御者はスヴィータがつとめるようで、私とアリシエルだけが馬車へと乗り込みスヴィータは御者台へ。
カタコトと静かに動き始めた馬車の中で、改めてキサラちゃんとミリアちゃんを呼び出したアリシエルがそれぞれにそれぞれの水着を渡して。
どんなものを買ったのか聞いても、三人揃って秘密にされて、ちょっぴり残念に思ったりもして。
「あ、あの犬は呼んでないわよ」
「あれ、そうなの?」
「当たり前よ。シエルは一応、いちおう、一国の王女なんだし。男に素肌晒させる訳にはいかないじゃない?」
「本音は?」
「生でミーリャの水着を見る権利を男は持っていないの」
「だと思った」
生で、というのは、私が現実の方でやっている仕事に関係しているからだね。
ともあれ、情報は集まったし……あとは、イベントの開始を待つだけだろう。
ビーチをおもいっきり楽しんで英気を養い、備えておくことにしよう。
次回、水着描写回(予定は未定)