目覚めと依頼と微かな疑問
おまたす
ぐっすり眠って起きれば早朝。
なんか色々とすっ飛ばしてしまった気がしなくもないが、目覚めた場所は知らない部屋で。
とはいえ、スヴィータは側に居たし、他の面々も各自部屋を与えられて自由に過ごしていたらしい。
知らない部屋こと現在地はプトレマイオス連邦の神殿、水瓶座の女神様のおわす場所。
他の聖女が訪ねて来たときに利用される専用の客間らしく。
でっかいアクアリウムとかあった、とても豪華。
私が寝ている間に情報収集などに走っていたとーまくんやアリシエルからはメッセージによる報告がいくつか届いており、現在の状況等は一応把握している。
未開の島の調査のための詳細な打ち合わせに関しては昼食後を予定しているとはスヴィータから聞かされ、当の調査開始の日程は今から二日後。
それまでに集まって、女神像を起動したプレイヤー及び住民達を一斉に転移させる……というのがイベント開始の方法になるらしいとはとーまくん談。
同じようなイベントの時にそんな感じで移動したとかなんとか。
そして、あっという間にお昼が過ぎて、キクノスさんに案内されたのは枢機卿猊下の待つ客間である。
お昼ご飯も勿論海産物だった。
「――白牛の聖女様?」
「はい。依頼した島の調査に加えて、例の島に向かったきり連絡の無い白牛の聖女様の捜索をお願いしたいのです」
客間に居るのは私とシエルさんに、キクノスさん。
そして、この神殿のトップである枢機卿猊下。
名前をイラノス様。白い羽毛に黒がアクセントな翼をもった、鶴の鳥人さんである。
ほっそりとした美人さんで、とても穏やかそうな印象な女の人だ。
「それは、我々個人への依頼……という事? 他の冒険者達には?」
「他の冒険者達には、島の調査のみの依頼になります。白牛の聖女様の件は極秘裏に……といいますか、話を聞いた彼女が独断で向かってしまったので、公にしようにも出来ないのですよ」
真剣な眼差しで問うシエルさんに、困ったように笑うイラノス様。
キクノスさんはと言えばせっせとお茶を用意したりお菓子を並べたりと給仕に勤しんでいる。
「白牛の聖女……エルナ様と言うのですが、彼女は我らが水瓶の聖女様とは友人でして。お顔を見にいらしたところ、島の話を聞いて、止める間もなく向かわれてしまったのです」
「水瓶の聖女は……確か、今も?」
「はい。未だ目覚めてはおりません。それで、護衛も連れずに向かってしまったエルナ様を見つけて、戻るように伝えていただければと。それに、ですね。こう言うと悪く聞こえるやもしれませんが、真に信用のおけない有象無象に聖女様の捜索など依頼できる筈もないのです」
「まあ、確かに。それで困っていたところに、私たちが来た」
「その通りです」
もぐもぐと羊羮を食べながら二人の話を聞きながら情報を整理する。
元々伝えられていた島の調査依頼に加えて、イラノス様が私とシエルさんに頼んできたのは、白牛の聖女様の捜索と伝言。
別に連れて帰れと言うわけではなく、あくまで見つけたら帰るように伝えるだけでいいらしい。
どうにも好奇心旺盛な人らしく、研究熱心。
名前はエルナ・タウラロス・ソルシエール様。白牛の聖女だけあって種族は牛の女の人。
外見は白い髪に空色の瞳で、片目を髪で隠し、さらに包帯を巻き付けているので会えばすぐにわかるのだとか。
そして気になったのは名前のソルシエール。
話を聞けばニーナさんと同じく魔女の称号を持つ人物で、付与魔術のエキスパートなのだとか。
「もちろん、引き受けていただけるのでしたら別途報酬はお支払い致しますし、必要になりそうな物資も提供させていただきます」
「……ミラは、どう思う?」
「うん? 私は受けてもいいと思うよ、シエルさん。そのエルナ様にも、個人的に会ってみたいし」
私の持っているスキル……元魔法装填、現魔術刻印になっている、魔法を装備に入れておくこれらは付与魔法及び付与魔術の一種らしいし。
みそぎちゃんの術符も同じタイプの技術なので、一度詳しい人に会って教えを乞いたいと思っていたのである。
「そっちでも、多少は調査はしているんでしょう?」
「はい。あまり多くは判明しておりませんが、非公開情報も含めてそちらにお渡し致します」
「危険度はどの程度?」
「出現する魔物に関しては、さほど恐れる必要はないかと思います。種別としては、スケルトンのようなものが多く見られたとか」
「ただのスケルトン、ではなく?」
「はい。どうも、リザードマンのスケルトンのようなものが多数、と報告を受けております。その他の魔物も生息しているようですが、パーティーのように連携して戦闘を行うそれらスケルトンリザードマンを多く確認したとのことです」
また骨なのか、と思ってしまうのは仕方がないと思うのだがどうだろう。
後で骨のプロフェッショナルに話を聞くとして、今は話を聞くことに注力しよう。
基本的にシエルさんが主体になってくれるので、私は気になった事を質問するだけにしている。
シエルさんも了承済みというよりかは、シエルさんからそうするようにと言われているのである。
「島の外周部の調査と、拠点になりうる地点の確保を主眼にした派兵でしたので。ご存知とは思いますが、恥ずかしい事に直接戦闘が得意な者が少ない故島の内部へと踏み込んだ調査には至れていないのです」
「まあ、それが出来るなら王国に依頼はしない……か」
シエルさんの言葉にイラノスさんが頷き、キクノスさんに指示を出して私たちの囲むテーブルの上に地図のようなものを広げる。
記された地形はいびつで、調査が殆ど進んでいないということだけは理解が出来るもので。
「かなり広い島のようで、どうにも島の内部にも魔力壁が存在しているようです。魔核の存在までは確認できておりませんが、おそらくは」
「これは、魔力壁で囲まれているということ?」
「外周部はほぼ安全だと思われますので、海に沿って移動して調査し、判明した地図がこれです。魔力壁と魔力壁の位置と角度からして、島が円形であると推測するならば……」
「ちょうど、十二分割できそう……かな?」
本当に円形なのかはわからないけれども。
そうだね、バームクーヘンをちょうど十二分割したようなかたちの地形が描かれているんだよね。
ここから内側に陸地が続くとしても、海岸の曲がり具合からしてちょうど同じものを十二個並べれば円になる。
雑に推測するとしても、魔力壁でエリア分けされた巨大な島……ということになりそうだ。
「これは、うん。プトレマイオスだけじゃ、無理。さらに、人捜し?」
「こちらからも人員を出せれば良いのですが、天秤の聖女様は出払っておりまして。それに、国の守りも考えれてしまえばかなり厳しくあるのです」
「まあ、島の調査自体は問題ない。それなりの数の戦力が依頼を受けているし、結果は出せると思う。白牛の聖女の捜索は運頼りになるけれど……引き受けたし、出来る限りの事をするのは約束する」
ちらりと、それでいい? と視線で訴えてきたシエルさんに頷いて返す。
それを見て、安心したように息を吐いたイラノスさんに、キクノスさん。
彼女らにとって、白牛の聖女様は大事な人なのだろう。私も、出来るだけ意識してそれっぽい人を捜して見ることにしよう。
「調査開始は、二日後……であっている?」
「はい、その日の正午、数回に分けて転移を行う予定ですし、民にもそう告知を出しております」
「了解した。物資の補給を依頼する」
「なんなりとお申し付けください」
話は纏まって、多少の雑談の後に解散した。
部屋の外で待機していたスヴィータとアリシエルの二人と合流し、四人で神殿の廊下を抜けて。
そのまま、シエルさんに促されて彼女に与えられた部屋に全員で移動し扉を閉めたところで、彼女が口を開く。
「……魔力壁の情報は、調査を依頼してきた時の詳細には入っていなかった。あえて隠した意味が、わからない」
彼女が口にするのは疑問。
「白牛の聖女については、情報を出せないのは理解できる。でも、魔力壁については判明していた筈」
あの場で突っ込まなかったのは、シエルさんの判断だ。
相手の思惑がわからない以上、敵対する可能性は無くすべきだから。
「少し、きな臭い。ミラ、絶対に、油断しないで。港の偽聖女の事といい、この調査依頼……一筋縄では、終わらなそう」
アリシエルとスヴィータの眼光が妖しく光った……ような気がした。