海と船と再会と
夜間に差し掛かった頃に港町へと到着し、馬車のまま町へと入る。
どうにも事前に連絡がされていたらしく、神殿所属の馬車と言うだけでチェックなども特に受けることなく門を潜れ、向かった先は一件の屋敷。
こちらも連絡がされていたのか真っ直ぐに案内されて、たどり着いたのは周囲一帯の偉い人の家らしい。
下手な宿に泊める訳にもいかないとやらで、何故かお屋敷でお世話になる事になった。
目的の船はと言えば、流石に夜間は運航していないし、プトレマイオスにたどり着くにも時間はかかるのでありがたく泊めて貰うことにして。
なぜだか歓迎のパーティーやら晩餐会やらに招待もされたが、その辺は現実で慣れているので特に問題もなく。
唯一縁の無さそうなとーまくんもそこそこ堂々と立ち振る舞っていて、感心すると共に惚れ直したりもした。
しかしまあ、男性諸君に言い寄られ集られるのはいつも通りアリシエルの方で、私は専らホストの領主様とお話をしていたんだけどね。
どうも、私の為だけでもなく、他にお客さんが滞在しているのだとか。
そのお客様と会うことは無かった。
そして、一夜が明けて。
「これが……海」
「キサラちゃんは海、初めて?」
「ん」
『ぴぴぴぴっ!』
『きゅきゅきゅきゅっ!』
『すごーい! 水がすごーい!』
『ほら、あまり騒がないの。他の乗客もいるんですから、私たちは大人しくしておきますよ』
『……?』
「プトレマイオスまでは……ソウですね、このペースなら一日もあれば到着するカト。依頼の指定日にはまだ時間もありマスし、大丈夫でショウ」
現在、プトレマイオスへと向かう船の甲板にて。
若干興奮気味のキサラちゃんと一緒に海を眺めていると、つられてサビクやフィアールカも出て来てハイテンションに。
ティムが飛び回ろうとするのをメサルが咎め、くず餅モードのミリアちゃんが私の足に絡み付いて、人間モードのレクスが隣で私に日傘を差している。
「水着持ってきて正解だったわね。スヴィータ」
「左様でございますね。アリシエルも、傘を。貴女、一応アンデッドでしょう?」
「あら、心配してくれるの? 平気って言えば平気なんだけど、そうね」
巫女服でも騎士服でもなく、白いワンピースに麦わら帽子と完全にラフな格好をしたアリシエルと、いつものメイド服なスヴィータが甲板の手刷りに身体を寄せつつそんなやり取りをする。
私の服装も今はアイギスを外して、涼しげなワンピースドレスに変えてある。
つばの広く、顔が隠れるタイプの帽子とヴェールはいつも通りだけれど、船旅くらいは楽な服装で過ごしたいしね。
代わりにと言う程では無いがとーま君は完全装備だし、ヴォルフも常に一緒で周囲を警戒。
キサラちゃんもキサラちゃんで装備は戦闘用だし、ミリアちゃんは片時も離れようとしないので護衛は完璧。
船が壊されでもしない限りは安全が保証されていると言ってもいいだろう。
「そういえば、大型のモンスターってのはもう討伐されたの?」
「ええ。プレイヤーのパーティーによって既に倒されたと聞いています。船の運航にも問題は起きていないようですね、既にプトレマイオスへは多数のプレイヤーが移動しているとのことです」
「イベントの参加の条件がプトレマイオスに到着して、首都の女神像を起動させておく……だったかしら?」
「はい。とはいえこの連絡船が到着するのが目当ての首都ですが。首都アクエーリア、十二国家の中の一つ、水瓶座を擁する国で、聖女も存在しています」
「他はなんだっけ。魚座と天秤座もプトレマイオスの一部よね?」
「ええ。その三つが連邦参加国です。魚座の国家は海の中に存在しているので、行くのは難しいそうですが」
サビクとフィアールカが甲板で遊んでいるのを眺めながら、アリシエルとスヴィータの話に耳を傾ける。
私が聞いているのをわかっていて、私への説明もかねて話をしてくれているので盗み聞きと言う訳ではない。
手刷りに背中を預けて、空を仰ぐ。
雲一つない蒼天。
遠くにはうっすらと浮かぶ白い月。
船の上空には鳥の群れが編隊を組み、共に移動しているように見える。
潮風が頬を撫でる。
パシャリと、水面を魚が跳ねたような音が耳に届く。
至極、ゆったりとした時間を楽しみながら、スヴィータが用意し差し出してくれたティーカップを受け取り口をつける。
照り付ける日差しで渇いた喉を冷たいお茶が通り抜けて、一息ついた。
「ミーリャ!」
のんびりと景色を楽しんでいた所に、私の名前を呼ぶ声が聞こえた。
どこかで聞いた覚えのある声にそちらを見れば、とーまくんとヴォルフに行く手を遮られている人影が一つ。
フード付きのローブを纏って全身を隠した、それなりに背丈のある謎の人物。
その視線は確実に私を捉えていて、アリシエルとスヴィータも気付いたのかその人を見る。
キサラちゃんは暑さに慣れていないのかへばってしまったようで、甲板に寝転がってひんやりしたサビクを顔に乗せていた。
当のサビクは何が楽しいのかキサラちゃんの顔の上でうねうねとダンスを披露している。
フィアールカには大ウケであった。
「……邪魔。ミラ、アリシエル。スヴィータも、久しぶり?」
「あら」
「おや」
「もしかして?」
謎の人がかぶっていたフードの胸の辺りを掴み、一気に引き抜き脱ぎ捨てる。
真っ先に視線を奪ったのは金色の髪。
頭に生える耳と、先が黒い尻尾。
ドレスアーマーと言えばいいのだろうか。
スカートと、身体のラインにそって散りばめられた白銀の部分鎧と、グリーブにガントレット。
たてがみを思わせる長い金髪が重力に引かれるように落ちて、キラキラ光る。
いつぶりかの再会だろうか。
「やっほー、お姉ちゃんです」
固まってしまったとーまくんをよそに、ひらひらと手を振って見せるその人。
レオニス王国第一王女にして次期女王と名高い国一番の女騎士(みそぎちゃん談)。
レキシファーとの戦い以降も何かと気にかけてくれて、頻繁にお手紙をくれていたりする、レオリシェルテ・レオニス様がそこにいたのであった。
「我が姫、我が姫。ワタシ、今から引っ込んでも構いませんカね?」
「だめです」
「これは、手厳シイ」
うん。
再会は嬉しいし、ハグもいいんだけどね。
鎧のまま抱き締めるのはやめてほしいかな。
固いし。
短めですまんの