狐と名前と襲撃者?
ボスの熊さんをやっつけてから、再び馬車……馬がひいてないけど、まあ馬車でいいよね。
うん、馬車に乗り込み、移動を再開。
今回同乗しているのはキサラちゃんだけで、アリシエルは少し稼いでくるわ等とのたまい外を元気に駆け回ってはモンスターを虐殺している。
彼女、レキシファーから受け継いだ死霊術もそこそこ気に入っているらしく、でっかい鎧さん以外にも様々なアンデッドを支配下に置いているらしい。
稼いでくるとは、その材料集めである。
『それで、ミラ様? 先程の方はどなたなのですか?』
『狐ちゃん!』
『ぴー』
『……?』
『我々、出発の直前まで側に居ませんでしタからネ』
ふよふよと私の膝に舞い降りて、見上げてそう問うたのはメサル。
それを皮切りにティムが乗っかり、レクスが対面の椅子で姿を獣人に変えて腰かける。
ぱぱ! とキサラちゃんが彼の膝に飛び乗るのは一瞬でした。
「まあ、さっきも言った通り私も今朝出会ったんだけどね」
言いながら取り出すのは大太刀、雷光九尾。
薄紫の鞘に納まるそれの鯉口を切り、刃を軽く覗かせれば紫電が弾け。
そして。
『きゅー!』
ぴょこんと。
一瞬の稲光と共に飛び出したのは、小さな菫色の子狐ちゃん。
空中でくるりと回り、器用にメサルを避けつつ私の膝の上に着地する。
驚いたメサルが飛び上がり、チカチカと身体を点滅させながらティムの元に戻ると、レクスが眼を見開いて。
「成る程、魔剣の類いですカ」
「うん、正確には妖刀。武器に見えるし、武器として装備も出来るけど……この刀、立派なモンスターらしいよ?」
朝起きたらミリアちゃんと一緒に布団の中に居たのがこの子狐ちゃん。
雷光九尾の名の如く、稲妻を纏う九尾の狐を模した刀の化身……と鑑定さんは言っていた。
神楽さんが言っていた、私になら抜けるだろうっていうのはこの子が認めるかどうかって事らしい。
で、この子が認める条件っていうのは雷のように速く動ける者のみって事で、今まで誰にも抜けない刀だったと言うのは、この子狐ちゃん自身が教えてくれた。
言葉は翻訳してもらったけれどね。うに、便利。
『きゅ?』
『かわいー! ティムはねー、ティムだよー!』
『きゅ!』
『狐さん、お名前はー?』
『きゅう?』
雷光九尾が名前と言えば名前だが、それは種族名みたいなものだからなぁ。
ティム達をスピリアと呼ぶのと同じだし、こうなったからにはやはり名前をつけてあげるべきだろう。
気持ちしょんぼりとした子狐ちゃんの頭をなでつつ、人差し指を顎に添えて小首を傾げて思案する。
ちらりと視線を向けた対面の座席ではイケメンと幼女が戯れていた。
「そうだね。それじゃあ、君の名前はフィアールカにしようか」
『きゅ!?』
『フィアールカ! ふぃーちゃんだね!』
『とても良いお名前ですね、フィアールカ』
『きゅきゅ!』
ちなみにフィアールカはロシア語で菫を意味しているよ。うん、そのままなんだね、本人喜んで跳び跳ねてるから良しとしておこう。
私の座る右隣にフィアールカ……フィーが膝から降りて、スピリア二人と遊び始める。
入れ替わるように膝に乗ってきたのはくず餅なミリアちゃん。
ぷるぷると震えれば小さな女の子へとその姿を変えて、向かい合わせに抱き着いてくる。
『ぴー?』
「うんうん、ミリアちゃんもいい子いい子。サビクも、いい子だね」
『……!』
『ぴ!』
首に巻き付いているサビクが頬を舐めるので頭を撫でて、ミリアちゃんも片腕を使って抱き締め返す。
本当に賑やかで、大所帯になったもんだよね。
ここに禊ちゃんが居たらもっと賑やかで、騒々しくも楽しくあったのだろうが彼女は王都だ。
火影姉妹と一緒に通っている魔法学校の卒業式があると言っていたけれど、魔法学校という響きには少し惹かれるものがあるから一度は行ってみたいと思うんだ。
『まーっだかなーまーだっかなー!』
『きゅーっきゅっきゅきゅー!』
『こら、ティムも、フィアールカも、静かにしてなさい!』
『はーい!』
『きゅー!』
フィアールカとティム達は随分と打ち解けたようで、一安心。
ミリアちゃんも、サビクもなんとなくだが受け入れてくれているみたいだし、特に問題はないだろう。
メリアリスさんに預けてきた那由多と刹那にも、帰ったら紹介してあげないといけないね。
そういえば、従魔とか住人を入れる場合のパーティー枠とかどうなってるのかと気になったからとーまくんに聞いてみたら教えてくれたんだけども。
基本はパーティー枠は五人。
そこに他のプレイヤーとか住人とかを参加させる訳なんだけど、使い魔とか召喚系のモンスターはプレイヤー一人につき一枠、拡張パーティー枠と言うものが与えられるらしい。
つまるところ五人でパーティーを組んでも五匹の使い魔は同時にパーティーを組めるようになるって事らしいけど、じゃあ二匹以上の使い魔は一緒に連れていけないのかって言うとそうでもないとか。
方法としてはいくつかあるけれど、一つは簡単、そのまま本来のパーティー枠を消費して使い魔をパーティーに入れる事。
二つはスキルを使って使い魔枠を拡張する事。
スキル枠を使うし経験値も頭割りになるけれど、基本的にはみんな後者の使い魔枠を増やすらしい
とーまくんを始めにアリシエルもそれ専用のスキルを使って狼さんや鎧さん達を使役しているらしい。
そして、私。
調べてみたら、私も持ってたよ拡張用のスキル。
どうも、アリエティスの権能に含まれていたらしい。
その効果はなんと、私の眷属に限り無制限。
双子の権能が鏡の属性を持っているように、金羊の権能は群体の属性を持つが故の能力らしい。
神獣達はもちろん、ミリアちゃんも私の眷属になってるらしいし、さらに言えばみそぎちゃんとキサラちゃんも直下の眷属だから拡張枠の範囲内だっていうからびっくりだよね。
今は普通に人数が足りてるからキサラちゃんだけはパーティーメンバーの枠を使っているけれどね。
ちなみにティムやメサル、レクス達スピリアも枠は使わないらしい。
戦闘に参加する事があっても枠の消費は無し。私みたいに複数使役してても大丈夫だと思うとはレクス談。
そもそも、もし枠を使うとなっても、スピリアも私の眷属みたいなもんだし問題ないとは思うんだけどね。
「あふ……」
『ミラちゃん、おねむ?』
カタンコトンと揺れる馬車。
僅かな振動が心地よく身体を揺すり、段々と瞼が重くなるのは必然の事だろうか。
うとうとと船を漕いで、周囲から音が消えて行く。
身体にかかっているミリアちゃんの重みがさらに睡魔を押し上げて、私が眠るのに時間はいらず。
完全に意識が落ちようとした所で、衝撃と轟音が馬車を揺らして停止した。
「ふぉあっ!?」
『きゅみゃっ!?』
『なに、なにー!?』
『て、敵襲ですか!?』
「ママは、ここに居て」
「我々が見てきまショウ。ミリア、サビク。我が姫は任せまシタ」
『……!』
『ぴっ!』
ミリアちゃんがへばりついて居たので座席から投げ出される事は無かったが、隣で遊んでいたフィアールカとティムは床にひっくり反って眼をまんまるにしていたのは見なかったことにして。
慌ただしく馬車からレクスとキサラちゃんが飛び出して行き、ミリアちゃんがくず餅モードに変わって薄く身体を伸ばし、私達を包むように広がりドーム状にかたちを変える。
窓から外を確認しようにも広がるのは草原と遠くに見える山と川。
夕焼けが広がる空に雲だけで、他には何も映さない。その視界もミリアちゃんが黒一色に変わって塞がれ、外から中を見られないように隠すのは事前の指示(ノアさん案)通りに。
外の音を頼りにしようにも何も聞こえて来ることはなく、かえって不気味に感じてしまう。
「ふむ」
『ミラ様、ここでお待ち下さいね?』
「流石に、飛び出したりはしないよ。敵襲だとしても、アリシエルやとーまくん、スヴィータもいるんだ、私が出るまでもない」
『一応、準備しておくからね!』
『きゅきゅ!』
ティムがダイアリーに飛び込んで、フィアールカが雷光九尾へ戻って行く。
同じくメサルもダイアリーに入り込み、サビクが首から右の二の腕へ移動する。
緊張が馬車の中を包む中、刻一刻と時間は過ぎて、何十分と経ったかに思われた頃。
馬車の扉をコンコンと叩くノックの音と、呼び掛けるとーまくんの声。
「ミラさん、無事ですか?」
「ミリアちゃん、もう戻っていいよ。とーまくん、何があったんだい?」
「あー、フィールドボスってやつです。でっかいモグラで、頭を出したのがちょうど目の前で驚きました」
ぽよんとくず餅に戻ったミリアちゃんを受け止めて膝に下ろし、窓を開ける。
とーま君と、キサラちゃんの姿を確認して一安心した後に馬車を降りると、とーまくんの言ったとおりにでっかいもぐらが仰向けに倒れていて、そのもぐらにアリシエルが何やら魔法をかけている光景が視界に映る。
ぐるりと見回せば、周囲を警戒しているスヴィータやレクスの姿があって、馬車をひいていてくれていたわんこも無事のようで。
「アレが出てくるってことは、もう港町はすぐそこですよ、ミラさん」
「それは楽しみだね。で、アリシエルはあれ、何してるの?」
「なんか、配下に加えられないか試すとか言ってましたね」
「……ボスって配下に出来るの?」
「さあ?」
ついでにこのまま小休憩を取ることにして、数分ほど。
アリシエルの頑張りも虚しくもぐらがキラキラ輝く粒子になって消えた頃、再び馬車へと乗り込み旅路を再開して。
一時間ほど経ったころ、私たちは目的地の町へと到着したのだった。
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