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最強vs最凶

三人称の書き方全くわからんマン





 風が駆け抜ける。

 夜空には星、照らし出すは月明かり。

 森の中にぽっかりと開いた空間には二人。


「こんばんわ」

「はい、こんばんわ」


 桜色の兎と、黒衣の狼。

 兎は細剣を手に。狼は自動弓を手に。

 対峙し、互いを見る。

 眼光は仲間同士と言うには遠く。


「まさか、切り裂き兎が復帰しているとは思ってなかったですよ」

「そうですか。用件はそれだけなら、私はこれで」

「やだなあ、そんなわけ無いじゃないですか」


 放たれるのは鉄の矢、弾き返すのは神剣リベルタ。

 ご挨拶とばかりに一本、続けて二本。

 夜の森に響き、消える。

 刃が閃き、空を斬る。

 下がり、自動弓に矢を装填しながら狼が跳ぶ。


「危険なPKが知り合いと一緒にいたもので、心配になったんですよ」

「私以上に殺している癖に、どの口が?」

「だってほら、ぼく、魔王ですし?」


 三本立て続けに放たれた矢が地面を穿ち、爆発を起こす。

 疾走。爆発を潜り抜けた兎が狼に肉薄、突進するままに突きを。

 刃が届く瞬間に、兎が跳んで、巨大な牙が閉じる。

 狼の足元、影から覗くは巨大な赤い、六つの瞳。


「ありす」

『はあい』


 溢れるように、影から湧き出す無数の獣。

 呼び掛けに応え現れるは鏡の兎。

 手を繋いで、それぞれに細剣を。

 殺到する獣の群れをくるりくるりと打ち払う。


「カムイ、ラン、ガロ」

「厄介ですね」

『数の暴力にも程がありますねぇ?』


 六百と六十の獣の中心で、ゆっくりと身体を持ち上げるのは巨大な三つ首の獣。

 ケルベロスと呼ばれる地獄の番犬に酷似した、三色の焔の吐息を吐く巨獣。

 その背には黒衣の狼が立ち、さらに三匹の獣を呼ぶ。


「ヴォルフ、ハティ、スコル」

『ご命令を』

「兎狩り」

『御意に』


 灰色の女と、左右に二匹、金と銀の新たな獣。

 ケルベロスの背から飛び降り、六百と六十を率いて三匹が駆ける。

 自動弓を仕舞い、取り出すのは漆黒の長弓。

 槍と見粉うほどに大きく、長い矢に似た何かをつがえて、引き絞る。

 眼鏡に映るのは二匹の兎。


「錬成、アンガーソード」

『再錬成、スラッシュリッパーでぇす』


 大地が変成し巨大な剣へ。

 巨大な剣は無数の丸鋸へ。

 六百六十と三つを迎え撃つように刃が走る。

 風切り音と共に、槍が飛ぶ。

 左右へ別れて跳んだ兎と、大地を抉りながら虚空を穿った巨大な矢。


「ありす」

『はぁい』


 パリンと鏡が割れて、兎が消える。

 次の瞬間には二人が四人に。四人が八人に増えて、十六人。

 倍々ゲームのように兎は増えて、六百と二十四。


「数には数でって訳ですか」

「ありすイン・ザ・ワンダーワールド」

『ありすと不思議な鏡の世界へご招待しまぁす』

「ケルベロス」


 三つ首の巨獣がその口を開く。

 蒼と紅と黒の炎が大地を舐める。

 獣達をすり抜けて、無数の兎だけを焼き尽くす。


 鏡に映るのは、燃え尽きる狼の群れ。



「反射ですか。小細工が得意なんですね」

「手下に守られながらちまちまと攻撃している貴方の方ですよ」

『自己紹介ですかぁ?』

「ははは、見ての通り遠距離型ですからね」


 黒衣の狼は巨獣の背を蹴り、背後へ飛ぶ。

 射ち出されるように巨獣が飛び出し、殺意を滾らせ兎の群れへと飛び込み、その牙を振るう。

 無数の兎が巨獣に刃を突き立て、剛毛にて弾いた刃をそのまま喰らう。


『ハティ、スコル』

『貴女達の相手は私でぇす』


 灰と金と銀が桜に迫り、藤色がそれを阻む。

 すり抜けるように、桜色は前へ。

 三匹の獣が反応するよりも早く、刃が走る。

 牙を弾き、爪を逸らし、拳を避ける。

 返礼とばかりに放たれる刃は空を斬り、また鏡が割れて兎が増える。

 大地が無数の槍へと変わり、桜の兎を追う道を封鎖する。


「どういうからくりですか、それ」

「教える必要が?」

「まあ、無いですけど」


 最初と同じ、一対一で対峙する。

 片や、桜色の血濡れの兎

 片や、黒衣纏う魔を統べる王。


 長弓から放たれた剛射を避けて、刃を一閃。

 半身で避けながらまた一射、跳んで避ければ地面がはぜる。

 片手で自動弓を引き抜き、獲物を狙う。

 自動弓が狼の手から離れ、大きく弧を描いて地面に落ちる。


「ノクト」

「させません」


 掬い上げるように、下から上へと振り抜き自動弓を弾いた細剣をそのまま放る。

 狼の胸から飛び出した黒の精霊が光を放つ。

 それよりも疾く、兎が振りかざすのは三枚刃のチェーンソウ。

 足が地面を弾き、横っ飛び。

 振り下ろされた凶器は肉を斬り裂き、黒い狼の右腕を千切る。

 狼のHPゲージが真っ赤に染まり、ミリを残して止まる。


「私は、精霊の姫の護り手として。双子の聖女の片割れとして、あの子の隣に立ちます」

「他のプレイヤー達がどう思うか、わかってるんですか?」

「勝手に、何も知らずに、私の狩りを邪魔していただけの他人でしょう?」

「まあ、今回はぼくの負けにしておきますよ。でも――」

「イベントに参加するつもりはありません。他の用事もありますし」


 返す刃が黒衣を断つ。


「……ミラさんは、全部知って受け入れてるんですよね?」

「ええ、貴方と違って」

「ははは。全く、どんだけレアな記憶引いたんですかね、あの人は」

「冥界の先の深淵の王より貴重な記憶なんて、そう無いと思いますよ?」

「それは、確かに」


 ゲージが黒く染まり、砕けて消える。

 黒衣の狼の姿が薄れ、地面へ倒れて粒子に変わる。

 兎が見下ろし、狼が口を開く。


「今のところ、目的は同じみたいですし」

「ええ、停戦と協力を」

「仕方ないですし、負けましたしそういう事で。……ていうかぼく、神殿騎士なんですよね、一応」

「……始末書で済みます?」

「まあ、黙ってればばれない、かなあ?」

「貸し一つですね」



 風が駆け抜ける。

 夜空には星、照らし出すは月明かり。

 森の中にぽっかりと開いた空間には一人。


 無数に居た獣も、巨獣も、兎も消えて。

 ただ一人佇むのは桜の兎。

 手にしたチェーンソウを放り投げて、背伸びを一つ。


「帰りましょうか、ありす」

『結局、何がしたかったんですかぁ、あのわんちゃん』

「さあ……案外、ただの嫉妬かもしれませんよ?」

『ダサダサですねぇ』


 鏡が割れて、砕けて消える。

 そこにはもう何も残らず、戦いの残滓も無く。



 ただ一つ、夜空の月明かりだけが、存在を主張した。




 十章・了







次はたぶん久々の掲示板(予定は未定

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― 新着の感想 ―
[良い点] 魔王様には悪いけどありすさん強い、かっこいい。 [一言] 多対多だ!!!
[一言] 記憶は別として 何で 聖女と神殿騎士が殺しあってんの⁉ 役職的に不味いよね❗ ばれたら騎士追放になるよね❗
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