ガチャと虹色と包囲網?
とりあえず図書館を出て、とーま君と並んで歩く。
無意味に目立つ気は無いので、メサルとティムには肩に乗って貰って髪の毛に隠れてもらう。
長くてボリュームのある髪で助けられるね。手入れにもそれなりに時間も手間もかけている自慢の髪だ。
「そういえば、眼鏡をしていないとーま君を見るのって、久しぶりだよね。初めて会った時を思い出すよ」
「そういえばそうですね。まあ、伊達眼鏡なんで必要を感じて無いっていうのもありますが」
「生徒会に入ってからだっけ、眼鏡にしたの。何か理由があるのかな」
「まあ、色々あるんですよ」
他愛ない話をしながらてくてく歩く。
図書館からなら中央広場よりもガチャ屋さんの方が近いとの事で、まずはそちらへと向かっている。
とりあえず街にいる間にやっておいた方がいいことは先に聞いておいた。
まずは、中央広場で復活地点の登録。同じ女神様の像に触れると街同士のワープ地点の解放が出来る。
新しい拠点についたら、まずは女神像が基本らしい。
次に、冒険者組合とかいう組織への登録。
クエストというのが受けられるようになり、お金やアイテムの預け入れとかも出来るから得はしても損は無し、と。
組合を介してアイテムの委託販売とかも出来るとか。
「とーま君は弓を持ってるけど、遠距離型なのかい?」
「どちらかと言うと、ぼくは使役系ですね。弓なのはそのついでです」
「使役系?」
「はい。大まかに二つあって、召喚系と従魔系があります。ぼくのはその中間みたいな物です。召喚系は必要な時に応じて契約したモンスターを呼び出して戦う系統で、従魔系は仲間にしたモンスターを連れ歩いてパーティーメンバーとして戦闘に参加させる事ができます」
「んー。前者はパーティーメンバー枠は取らないけどその都度MPが必要で、後者はパーティーメンバー枠を取るけどMPはいらない?」
「正解です……と、ここですね、ガチャ屋。正確には違うんですけど、プレイヤーの間ではガチャ屋で通ってます」
「次元召喚屋……名前からじゃ全くわからないね」
「なので、通称ガチャ屋です」
とーま君が次元召喚屋……ガチャ屋に入って行くのを追いかける。
店の外見は普通の店舗だったけど、果たして中身はどうなっているんだろう。
うん、普通? だった。入ってすぐに店員がいるカウンターがあって、カウンターの横にはカーテンで仕切られた奥へ続いていそうな空間。
他には特に何もない、シンプルな構造だった。
「イラッシャイマセー」
「特典ガチャの利用お願いします。二名で」
「特典ガチャアリガトゴザイマース、奥へドウゾー」
店員はバニーガールで、なぜかカタコトだった。
しかも兎の獣人じゃなくて猫の獣人がバニースーツにウサギ耳のカチューシャをしているとかいう意味不明さだ。
思わずとーま君を見上げるが、苦笑いをしているだけで驚いている様子はない。
ベータでも同じだったのだろうか。
「オジョーサンはハジメテデスカー?」
「あっはい」
「セツメイはイリマスカー? 奥ハ個人スペースデスカラネー」
「えーと、とーま君?」
「中に入ったら魔法陣がある部屋に出ますから、その魔法陣の真ん中にガチャチケットを置けばいいだけですよ」
「オキャクサーン、ワタシノシゴトヨー?」
「仕事取られたくないなら普通に喋ってください」
「それは無理」
「喋れてるじゃないですか。さ、行きましょう、ミラさん」
「えーと。それじゃあ、お仕事頑張って?」
「オジョーサンにサチアレー」
なんというか、濃い店員だったね。
とーま君にくっついてカーテンで仕切られた奥へと進む。
この先は一人一人専用の空間に繋がっていて、誰かに覗き見されたり何を手に入れたかわからないようになっているんだとかなんとか。
カーテンを潜った瞬間に妙な違和感が身体を包み、気づけば先を歩いていたとーま君の姿は無くなっている。
代わりに薄暗く窓のない部屋と、その部屋の真ん中でぼんやりと光を放つ幾何学模様の魔法陣。
インベントリから特典ガチャチケットを取り出してみる。
『なにがでるかなー?』
『ミラ様ですから、きっと良いものが手に入りますよ』
「うーん、昔からくじ運は強い方だけれどね。まあ、やってみようか」
誰もいないので、ここぞとばかりに飛び出した精霊二人を引き連れて、ガチャチケットを魔法陣の真ん中に置く。
魔法陣全体が淡く輝き、沈むようにチケットが魔法陣の中に消えるのを見届けて、ひょいと魔法陣の外へと出た。
そして、待つこと数秒。
ぱんぱかぱーんと気の抜けるファンファーレ。
魔法陣が激しく輝き、金色の光とともに魔法陣の真ん中に何かが出現して、そのまま消える。
おや、と首を傾げる。
はずれかな? と、思ったところで、ティムが視界へと飛び込んできた。
『えっとねー、スナイパーグラスっていうのを手に入れたよー。直接インベントリに入ったみたいだねっ』
「成る程、だから消えたんだね。取り出してくれる?」
『はーい!』
差し出した手のひらに、ティムがぽとりとアイテムを落とす 。
見た感じは普通の眼鏡だった。
見たところ装備品だよね、鑑定さんのお仕事です。
[装備品]スナイパーグラス/アクセサリー
レアリティ:R
遠距離武器による攻撃の射程上昇(小)
遠距離武器による攻撃のクリティカル上昇(小)
Dex上昇(微)
決して曇らず、濡れず、視界を確保する狙撃手の為の魔法の眼鏡。
……うん、私には全く必要ないけれど、丁度欲しいと思っていた物でもあるので私はやはり運がいいね。
精霊二人にも鑑定結果を見せてやれば、私の考えてる事がわかったのか同じように喜んでくれた。
それじゃあ、外に出てとーま君と合流しようかなと思った所で、ぱんぱかぱーん。
〈システムメッセージ:当たりが出たのでもう一回!〉
「……えーと?」
『ミラちゃん、当たりだって! やったね!』
『流石ミラ様ですね。次はご自身の為の物を引きましょう』
「えー。まあ、いいか。どうすればいいんだろ?」
とか言ってたら勝手に魔法陣が起動し、今度は虹色の光を放つ。
さっきは金色だったけど、光の色で何か違うのかな。
同じように光が消えて、出たアイテムがインベントリの中へ入る。
ちらりとティムを見る。
『えっとねー、虹のスキルスクロールだってー。使ったらスキルが覚えられる奴だよー』
『スキルスクロールですか。流石ミラ様、良いものを引き当てましたね』
「よくわからないけど、二人がそこまで言うからにはいいものなんだね」
取り出して鑑定しておこう。
[消耗品]虹のスキルスクロール
レアリティ:SR
取引不可能。
使用すると上位スキルの内からランダムに一つ取得する。
うん、シンプル。
取引不可能って事は自分で使うしかなさそうだね。
上位スキルっていうのは……とーま君に聞いてみようかな。
とりあえず外に出よう。
「あ、ミラさん、どうでした?」
カーテンを潜ると、既にとーま君が待っていた。
店員さんは他の客の案内をしているみたいだったので、会釈だけして店内の隅っこへ移動する。
「んー、スナイパーグラスって言うのと、スキルスクロールが出たよ。当たりが出たからもう一回なんてのがあった」
「当たりですか、流石ミラさんですね。五百分の一くらいの確率で出るらしいですよ、当たり。スナイパーグラスは……ミラさんには必要なさそうですね。組合の委託に出しておけば良い値段に――」
「という訳で、これはとーま君にあげよう」
取り出したままにしておいた眼鏡をとーま君に手渡す。
パーティーメンバーでなら、取引可能なアイテムならそのまま渡すこともできるとティムに教えてもらったから問題はないはずだ。
あとはとーま君が受けとれば取引完了になる。
受けとるまで渡し続けるし、彼もそれはわかっているだろうけども。
「いやいや、流石に悪いですよ、会長」
「しかし、私は使わないからね、それ。それに、こっちでも眼鏡とーま君が見れるなら私としては損はないし。装備の性能的にも君向きだろう?」
「うーん。……わかりました、有り難くいただいておきます。代わりに、会長にはこれを差し上げましょう。ぼくも、自分では使わない物がでましたからね」
眼鏡と交換でとーま君に渡されたのは、真っ白なシンプルな指輪。
受け取り、一度インベントリにしまって取引を完了させてから、もう一度インベントリから取り出して鑑定を使ってみる。
[装備品]魔力糸のリング/アクセサリー:暗器
レアリティ:R+
魔力変換:糸
魔力を糸に変換して生成する指輪。
主に暗器として使用される。
「操糸スキルがないと意味がないアイテムですから、必要なかったらお金にでもしちゃってください」
「いや、むしろナイスだよとーま君。あるんだよね、操糸」
「……流石会長」
「何が流石なのかはわからないけど、これは装備させてもらうね」
「ええ、無駄にならなくて良かったです」
くるりと踵を返し、一旦とーま君に背中を向ける。
にやけそうになる顔をどうにかするのに限界が来た。
とーま君から指輪を貰ってしまいました、どうしようか。
どこの指にはめようか。や、やっぱり、左手の……その、薬指がいいと思うんだけども。
でも、とーま君に見られて、勘違いした変な女に見られるのも嫌だなあ。
ううむ、悩む、悩んでしまう。
『ミラちゃん、なにしてるのー?』
『ミラ様? どうかなさいましたか?』
「なんでもないよ、なんでもない。うん、なんでもないっ!」
暫く悩んで右手の薬指に指輪をはめて、また身体を回転させる。
「会長、スキルスクロールの色って何色でした……どうかしました? なんか、顔が赤いですよ?」
「気のせいだよ気のせい。このゲーム、そんな所まで表現出来るんだね……スキルスクロールの色は確か、虹だったよ」
「虹って事は、上位スキルですか。ランダムですけど、会長ならいいの引けそうですね」
「あ、そうだ。その上位スキルっていうのは普通のスキルとは違うのかい?」
「ええと、上位スキルっていうのはですね」
上位スキルとは。
基礎スキルのレベルを上げて強化し最大レベルにすると、スキルが進化する。
例えば、敏捷強化。
今は私の敏捷強化はパッシブスキルとしてAgi補正(小)というのがあるのだが、これが中、大と、レベルが一定の数上がる度に補正が大きくなっていく。
で、補正が最大になり、レベルが上がらなくなったスキルを進化させる事ができて、さらに強力な上位スキルという物にできるのだ。
そして、この虹のスキルスクロールを使用すると、この進化の過程をすっ飛ばしていきなり上位スキルを手に入れられるんだね。
「これ、すぐに使った方がいいのかな?」
「そうですね。パッシブ系が引けるかもしれませんし、スキルレベルの事も考えれば早めに使っておいて損はないですよ」
「じゃあさっさと使ってしまおうかな。ティム、お願い」
『はーい。虹のスキルスクロールを使用しまーす。……えっとねー、スキル:魔法装填を取得しましたー』
「……なにそれ?」
手帳を取り出して、スキルの頁を開く。
魔法装填。聞いただけだと意味がよくわからないスキルだね。
魔法を何かに詰め込むのかな?
魔法装填 :Lv1
┗魔法装填:武器/アクティブ(武器に魔法を装填し、待機させる。一度に装填できる魔法数は1+スキルレベル5毎に1。待機させた魔法は任意のタイミングで解放、発動が可能)
「……よくわからないね。強いのかな、これ。とーま君はどう思う?」
「魔法装填? エンチャントとはまた違いますよねこれ……って、会長、スキルは相手に教えたら駄目ですって」
「とーま君なら問題ないよ。言いふらしたりしないだろう?」
「それはまあ、当たり前ですけどね。しかし、気になるスキルですね。復活地点の登録をしたら、外に出て軽く狩りでもしましょうか」
「それはいいね。私のかっこいいとこをとーま君に見せてあげるよ」
「会長が短剣で戦う姿は想像出来ませんけどね」
「マタノゴリヨウをオマチシテオリマース」
用は済んだのでさっさと退散して次へ行こう。
キャットバニーガールに別れを告げて、店を出る。
指にはめた白いリングを撫でながら、とーま君について扉を潜る。
とんと、ぶつかる。何事かと顔を上げるととーま君の背中があった。
そして、その向こう。
「金の髪の羊族の娘……報告にあった通りだな。スピリアの姿は見えんが、我々に同行してもらおう」
「会長、下がっててくださいね……兵隊さんが、この人に何か用ですか?」
「無駄な抵抗はしない方がいいぞ、狼の少年。我らは獣王直属の近衛である」
とーま君の向こう側には、店から出た私達を取り囲んでいる、全員同じ鎧を身に纏った兵隊さんっぽい一団で。
当然のように身体で庇ってくれたとーま君にときめきつつも、私は兵隊さんに囲まれるような事をしただろうかと思考をめぐらせる。
特に思い当たらないけど、向こうは私を知っているみたいだし。
「ガチャで当たり引いたの、悪かった?」
『間違いなく、それは原因ではないと思います』
耳元でメサルから突っ込みを受けて、すこしくすぐったかった。
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