和室と弁解とお姉ちゃん
「本当に、目少しでもを離すと何かやらかすんだから。ミーリャ、貴女、自覚はある?」
「なくもない」
「全く……一緒に行こうって約束してた私の村、私が居ない間に見つけた挙げ句にお姉ちゃんにも会って、他にも色々と言いたいけれど。それらに関しては、なにか言い訳はあるかしら?」
「……ないね」
笑っているのに目が笑っていないアーシャ……アリシエルに連れられて、場所は彼女に与えられたのだという部屋に。
なんと私付きの神殿騎士になって、部屋までもぎ取ったらしい。
そんなアリシエルの部屋の内装は畳張りの和室で、炬燵も完備。
前々から、現実の部屋を和風にしたいと言っていたが、囲炉裏まであるのはどういう事なのか。
彼女の和風への拘りはよくわからないが、アーシャだからで納得しておこう。
「あまり、一人で行動しないで欲しいのだけどね。あの犬も、本当に使えない。スヴィータも間が悪いし……まったく、もう」
「ははは。まあ、代わりと言うか、得るものは沢山あったんだよ?」
「そんなこと、わかってるわよ。貴女がやらかして、何か得られなかった事がまずないでしょうに。なんの成果もありませんでしたなんて言ったら、揉みしだくわ」
むにむにと、アリシエルの手によって私のほっぺたがかたちを変える。
ちなみに、現状の私のポジションはアリシエルの足の間に挟まって、抱き抱えられるようにして炬燵に入っているのだけどね、うん。
ご機嫌取りの為の多少のスキンシップなら必要経費という奴だ。
ちなみにキサラちゃんは右側でみかんを貪っており、みそぎちゃんは正面で何やら一心不乱に筆を走らせている。
ミリアちゃんはくず餅状態でうにとその辺を跳ね回って遊んでいるけれど、仲良くなったようで結構なこと。
ノクトはいつの間にか居なくなっていたのだけれど、いつからだろう?
「クリミナ」
『……お呼びですか?』
「おー?」
アリシエルの声に思考が引き戻されて、意識を戻す。
彼女の呼び掛けに応え姿を現したのは、一匹のスピリア。
無色透明の、どこかで見た。そして、聞いたことのある声。
ふわふわ浮いた無色のスピリアは、クリスタルのように光を反射して、輝いて見えた。
「ミーリャ、クリミナよ。私のスピリア」
『初めまして……ではありませんか。お久しぶりです、ミラ様。夢でお会いして以来ですね』
「夢……? ああ、最初の、あの時の?」
はて、と首を傾げて少々思案。
記憶をたどれば、思い返すのは簡単だった。
そう、このゲームにインした最初の空間。
始まりの夢で、キャラ作りとかを手伝ってくれたスピリアが無色透明で、こんな声だった気がするよ。
そう思うとなんだか懐かしさを感じなくもない。
「……あれ?」
「なぁに?」
『如何なさいましたか』
私の目の前で羽ばたくスピリア、クリミナを見てから、アリシエルを見上げて、首を傾げる。
他の人がスピリアと一緒に居るところは殆ど見ないし、メリアリスさんとありすはなんとなく理由はわかるんだけども。
「アリシエルは、スピリアの言葉がわかるのかい?」
「……? ああ、成る程。ええ、わかるわよ」
『アリシエル様は、屍人形を死霊術で操っているだけで、本質は死霊……高純度な魂の集合体で、スピリアに似た類いの魔法生物でございますので』
「この世界では一度死んでるしね、私。で、ミーリャのスピリアは?」
「理屈はよくわかんないけど、アリシエルがスピリアと話せるって事はわかった。私のスピリアはみんなで秘密の特訓をしてるらしいよ」
「……主から離れて活動出来るものなの?」
『短時間であれば……いえ、はい。ミラ様のなさることですから』
「それもそうね」
うん、なんかとっても失礼な意思疏通を感じたのだけどどうなんだろうね。
抗議代わりにほっぺたをむにむにし返そうと体の向きを変えようとしたのだけれど、両腕でしっかりキャッチされて失敗に終った。
解せぬ。
「なの。ミラママのスピリアじゃないけど、みそぎはけんぞくなの。むすめなの」
「ん、きぃも、同じく。紹介、求む」
「……!」
『う!』
「……ミーリャの、娘?」
炬燵に白紙のお札を広げてなにやら作業していたみそぎちゃんが唐突に顔を上げて、そうのたもうた。
それに続くように、指先をみかんで黄色くしたキサラちゃんが視線を向ける。
なぜかミリアちゃんとうにまでぴょんぴょん飛び跳ねて炬燵に飛び乗って。
頭上から、説明なさい? と無言で訴えられている。
「あー、うん。とりあえず、何があったか話すところからかなぁ」
「そうね。洗いざらい吐きなさい?」
「長くなるよ?」
まあ、とはいえ。
この話は、既にノアさんやスヴィータにもしたものだからね。
みそぎちゃんと出会った事から、こっちに帰ってくるまでの事を、可能な限り。
途中でレキシファーが出てきたところでアリシエルが微妙な表情をしていたのが印象的だったね。
あと、ついでにと言ってはなんだがジークフリートさんの事も伝えておいた。
男性であることに不満そうだったけれど、恋人が二人もいるんだよと付け加えればそれならと機嫌を直したのもアリシエルらしい。
「……とまあ、そんなこんなで、元獣人、現天使の私が居るわけだね」
「ミーリャマジ天使ってやつね」
「ミラママはマジ天使なの」
「ん、えんじぇー」
「……!」
『うっ!』
「そこで君らの息が合う理由がわからないね?」
あ、もちろんミリアちゃんの事や、うにの事も話したよ。
神獣になったスライムなんだよって言ったら何か諦めたような目をしながら頭を撫でられたけれども。
クリミナはめっちゃびびってた。ノクトもそうだけど、カミハミはスピリアを食べるのかな?
もしそうなら後でスピリアは食べちゃダメって言っておかないといけないね。
「……予想の斜め上どころか、全方位に限界突破してるわね、貴女」
「それほどでもない」
「全く褒めていないのだけれど。貴女、私が神殿騎士とやらになっている間に、どこまで先を行ってくれるのかしらね?」
「むに、わはひもまひゃかひょひょまひぇとはほもってなひゃっひゃんらにょ?」
「問答無用。ああ、ミソギと、キサラだったかしら? 私は、アリシエル。この子のお姉ちゃん。アーシャお姉ちゃんと呼びなさい?」
「なの、あーしゃねーねなの」
「あー姉」
「……?」
『う!』
不可抗力だと訴えようとするも、ほっぺむにむにで阻まれる。
若干意味不明な言語で喋る私をよそに、みそぎちゃんとキサラちゃんに自己紹介するマイペースっぷりは流石だね。
ミリアちゃんとうにに関してはなに言ってるかわからん。
「ま、お説教はこれくらいにしておきましょうか。それで、ミーリャ。私に何か用があったんでしょう?」
「うん、そう。今度、プトレマイオス連邦の方でイベントがあるから、それに参加しようと思ってるんだけどさ」
むにむに地獄から解放されて、アリシエルの足の間のベストポジションを探りつつ彼女の身体に背中を預けてそのまま見上げる。
みそぎはいけないのーと嘆く狐っ娘の肩をキサラちゃんがぽんぽん叩いているのを視界の端に、アリシエルの反応を見る。
続けなさいと、視線で先を促されたので続けて口を開く。
「で、クラン単位で参加できるらしくてさ。メイファちゃんとランファちゃん達……さっき話した子達ね。その子達も一緒に、新しいクランを立ち上げようって話が出てたから、どうせなら今のうちに作って、そのクランで参加しようかなって話になってるんだよね」
「イベントは、知っているわ。日程的には、たぶん大丈夫よ。ていうか、ミーリャが参加するなら無理矢理にでも空けるわ」
「だろうね。それで、今クランに誘う予定の人のところを回ってたってのが、さっきまでの私けど――」
「参加するわ。クランマスターはもちろん、貴女でしょう? ていうか、それ以外は認めないのだけれど」
「それは、一回全員で集まってから話し合いでいいと思うけどね。それじゃあ、アリシエルはオッケーなんだね?」
「ええ、問題ないわ。ようやく、貴女とちゃんと冒険らしい事が出来るのだもの」
「そうだね。あ、キサラちゃんも、参加してくれるよね?」
「ん、おーる、おっけー」
まあ、断られるとは思っていなかったけど、これで一安心かつ一段落だね。
あと話を通しておかなきゃなのは、メリアリスさんかな?
組合に行くついでに、アーシャと街を見て回るのもいいかもしれないね。
「それじゃあ、アーシャ。お母様に報告して、許可を貰って、街に出よう?」
「あら、デートのお誘い?」
「そうとも言うかもしれないね」
二人きりという訳には――
「みそぎも!」
「護衛は、必要?」
「……?」
「う!」
行きそうにないだろうけどね。
動きが少ないと文字数が伸びない不具合