ごはんとノクトと忠誠の槍
「さて、まずは誰の所から行こうかな?」
「?」
食休みのティータイムを終えて、ノアさんも仕事に戻って私とミリアちゃんだけになった部屋。
うにはうにうにと食器類の片付けやらでうろついているが、まあ人数に数える必要もないだろう。
『聖女の言っていた、神殿に滞在しておる留守にしていたメンバーとやらに会いに行くのはどうだ?』
「成る程。新しいのを作るにしても、話はしておかないと……って、ノクト?」
『うむ、我だ。トーマの奴にくっついていても面白味はなさそうだからな、暫くおぬしと共に在ろうぞ』
おぬしと居た方が面白そうだからな、と豪快に笑う黒いスピリアが、どこに隠れていたのかぴょこんと現れ私の目線の高さで飛び回る。
ミリアちゃんが興味深そうに目線で追いかけているが、気のせいでなければほんのり涎をたらしているように見えるがこれいかに。
「ミリアちゃん……お腹減ったの?」
「……?」
『はっはっは、流石に喰われてやる訳にはいかんのでな。おぬしの主人に魔力を……否、この場合は神力か。そっちを与えて貰うがいい、カミハミよ』
「うん、神力?」
ミリアちゃんから逃れるように私の頭の上に移動したノクトを気にしつつ、ミリアちゃんの頭を撫でる。
同時に、ノクトの言う聞きなれない言葉をそのまま尋ね返した。
ちなみに、ミリアちゃんのご飯は魔力を与えてあげればいいらしい。
ミリアちゃんの本体(魔核を持ってるほう)に触れていればミリアちゃんが勝手に吸収してくれると教えて貰った。
うにに。
『うむ。おぬし、天使……否、既に神の一柱に類する者か。それらの持つ、魔力よりも純度の高い光輝なる力よ。我らスピリアの放つ光の根源でもある。まあ、普通なれば目にする事もなかろう』
「ふーん……ミリアちゃん、食べられそう?」
「……♪」
ぎゅーっと私の腕を抱えるように抱きつくミリアちゃん。
同時に、何かしら身体から抜け落ちて行くような感覚があるが、これがミリアちゃんのご飯と言うわけだ。
ちなみにサビクや刹那、那由多達は私の余剰魔力とやらをご飯にしているらしい。
あの子達にも神力とやらをあげたほうがいいのかな?
「……!」
「あれ、もういいの?」
『おぬし、カミハミを満足させる量か、もとい、質か。それほどの力を内包しておるのか……ふうむ、これは、これは』
「よくわかんないけど、そろそろ行こうか?」
『まあ、よいであろ』
「……?」
テーブルの上に備え付けられた鈴をチリンと軽く鳴らせば、うにが一匹うにうに言いながら寄ってくる。
立ち上がり、ミリアちゃんと手を繋ぎながら部屋の出口まで進めば、待機していたうに達が扉を開いてくれる。
「メイファちゃん達のクランメンバーが滞在してる部屋……その前にメイファちゃん達と合流かな? 案内頼むよ」
『う!』
『おぬし、随分と扱いになれておるな?』
「まあ、向こうでも同じような環境で過ごしているからね」
『成る程。これは、また。釣り合わん程に大物を狙っておるようだな、我が主は』
「……なんの事?」
『我の独り言よ』
部屋を出て、私達の先をぴょんぴょこ跳ねながら進むうにについていく。
イベントの話をしておくべき、新たなクランメンバー候補は九人。
私を抜いて、とーまくん、スヴィータ、アリシエル、メリアリスさん、みそぎちゃん、キサラちゃん、メイファちゃん、ランファちゃん、そしてみそぎちゃん達のクランの残りの一人だ。
このうちとーまくんとは話はしているし、スヴィータは否応なしについてくるだろうから、残り七人。
クランの結成の事もあるし、やはりメイファちゃん達のクランメンバーの人を最初にしておくべきだろう。
「なの、ミラママなの」
「おや、みそぎちゃん。一人かい?」
「なの、めーふぁたちのところにいくの。ミラママはどこにいくのー?」
「奇遇だね、私もさ。正しくは、メイファちゃん達のクランメンバーの人が滞在してると聞いてね」
「なるほどなの。そいつならめーふぁたちといるはずなの。いっしょにいくの」
『う!』
廊下を歩いていると、みそぎちゃんとばったり出くわしてそのまま合流。
彼女も目的地は同じだったらしいついでに、目的の人物はメイファちゃん達と一緒に居るらしいから都合がいいね。
ミリアちゃんとは逆の腕にみそぎちゃんが抱きついて、再び歩みを進める。
「クランメンバーの人って、どんな人なの? そう言えば名前とか含めて、何も聞いてないんだよね」
「なの。めーふぁとらんふぁのかれしなの、でっかいやつなの。きんぴかなの」
「あ、男の子なんだ?」
「なの。つよさだけはほしょーするの。みそぎをいつもこどもあつかいするふてーやつなの」
「うん、きみまだ子供だよね?」
「なのー」
いくつか階段を上下して、随分と歩いたところでうにの歩みが止まり、こちらへと振り返る。
うにが指し示すのは一つの扉の前で、来客用の部屋がある区画の一室だ。
こちらを見上げるうにに頷いて返せば、ぴょこんと扉をすり抜けてうにが室内へと消える。
何やら中から慌てたようなメイファちゃんの声やらガタガタと物音やらが聞こえてくるがまあ、気にしない。
しかし、メイファちゃんとランファちゃんのかれしって、彼氏って事だよね。
最近の子は現実でも仮想でも進んでるんだなあと、少しばかり感心してしまうね。
「なの、はいらないの?」
「順序ってのがあるからね。今うにが私の来訪を知らせてくれてるよ」
「なの。ふつーにはいっちゃだめなの?」
「お友達同士なら構わないんだろうけど、一応相手は客人で、私は聖女の娘だからね。本来なら、先触れやら事前に何時何時この時間に訪れるって伝えておくか……もしくは、向こうから来て貰うものなんだよ」
「よくわかんないの」
「みそぎちゃんならすぐわかるよ」
「なの」
『……う!』
と、そこまで話した所でうにが戻って来た。
一旦二人に手を離してもらい、身嗜みを整える。
今はいつもの祭服での聖女スタイルだ。
ヴェールを付けて、ミトラを頭へ。
頭の上にいたノクトには肩に移動してもらう。
「ミラ様、お待たせしてしまい申し訳ありません」
「構いませんよ。突然押し掛けたのはこちらですからね」
カチャリと静かに扉が開き、ランファちゃんが姿を見せる。
割烹着スタイルではなく、普通にワンピース姿なのは珍しいね。
とりあえず意識を聖女モードへ切り替えて、出迎えたランファちゃんに笑みで返す。
どうぞと招き入れてくれた部屋へとミリアちゃんとみそぎちゃんを連れて入り、部屋の中。立ち上がって出迎えてくれた二人に視線が向かう。
「ミラ様!」
一人は当然メイファちゃん。
メイファちゃんは何故か空色の浴衣を着ていて、案外似合っていて可愛らしい。
私の姿を見るや否や、今にも駆け出してきそうなくらいに目で喜びを表現してくれていた。
そして、その隣。
「呼んで戴ければ、こちらから出向いたのですが。わざわざ労を取らせてしまい、申し訳ありません、次期聖女様」
見上げるほどに大きな、金の髪の男性が一人。
メイファちゃんと並んでいるからか、それとも普通に大きいのか。
とーまくんより遥かに背の高いその人は私の前まで進み出て、その場で床に片膝をついて頭を下げる。
メイファちゃんとランファちゃんがそんな彼の両脇に控え、同じように頭を下げた。
「構いません。頭を上げてください」
「はっ」
男の子というか、男の人だった。
なんというか、凄く体格のいい、大人の男性。
現実の父にも負けないくらいに大柄だ。
いや、身長差カップルと言っても加減があるのではなかろうか。
「俺……私は、ジークフリート・ルーゲナートと申します。メイファ達がお世話になったと聞き及んでおります」
「いいえ。私も彼女達には随分助けられましたから。それと、普段通りの口調でお話しくださって結構ですからね」
「アホトカゲ、ミラママ、とりあえずすわるの」
「……アホトカゲ?」
「こら、みそぎ!」
「でもまあ、ミラ様を立たせておくのも何ですから、ね?」
「……そうだな。申し訳ない、次期聖女様」
「いいえ。……うん、私の事はミラで構わないよ。みそぎちゃんや、メイファちゃん、ランファちゃんの仲間なら、私にとっても仲間だからね」
『……うっ!』
『ふむ、竜とはまた』
うにが鳴いて、ティーセットが用意されたテーブルに全員が注目して。
私とみそぎちゃんとミリアちゃんが先にソファへ腰掛け、対面にジークフリートさんとメイファちゃん、ランファちゃんが腰を下ろす。
全員が落ち着き、お茶で唇を湿らせたところで、改めて男性が口を開く。
「……カーミラ・アリエティス姫。私……いいか。俺は、ジークフリート・ルーゲナート。金竜の鱗人で、君を護り、とある場所へ案内するという命令を受けている。依頼を抜きにしても、我々がカーミラ姫を護るのは神命にして使命。これより、貴女の騎士竜として、この槍、この忠誠を捧げる事を誓おう。詳細は、ここにある書面に目を通して欲しい」
「ええと?」
「なに言ってんの、ジーク?」
「あたまでもおかしくなったの、アホトカゲ」
「みそぎちゃん、メイファちゃん、少し黙ってましょうね?」
初対面の男性に本名を告げられて、忠誠を誓われた。
鱗人だとかルーゲナートとか色々と聞き覚えはあるし色々と気にはなるのだけれども。
とりあえず、なんだ。
……また色々と始まりそうな予感をびしびし感じるね?