告知と予定と連邦国家
「……公式イベント?」
「まあ、お知らせ見ていないと思ったのでこうして伝えてるんですけどね……お知らせ、見ましょう?」
「ははは、どうにもまだ慣れていなくてね」
さて、あれから一度ログアウトした、翌日の事。
ゲームの中では少しばかり日が空いた事になるのかな。
いつも通りベッドで起床して、一緒に寝ていたミリアちゃんと挨拶代わりのハグを交わして、続いて部屋に現れたノアさんとハグ。
そのまま流れで食事を共にした後の、食休みのティータイム。
私と、ミリアちゃんとノアさん三人で談笑していた所に扉がノックされ、姿を現したのはなんだか久しぶりにも思えるとーまくんの姿だった。
「どうも、東の方のプトレマイオス連邦でイベントをするらしいですね。概要を見たところ、多人数でのサバイバル宝探しみたいな感じです」
「プトレマイオス連邦って、海洋連合都市群……だっけ?」
「海の上の小さな島々にある国や集落が寄り合って一つの大きな国家を形成しているのが、プトレマイオス連邦ね。東に港町があるのは知ってるでしょう? そこから船に乗れば行けるのよ」
私の言葉を補足するように頭の上から落ちてきたのはノアさんの言葉。
ノアさんの膝の上に私が座っていて、その隣にミリアちゃん。
対面にとーまくんが座っている。
「多人数サバイバル宝探しねえ」
「その話なら、こちらにも来ているわよ。正しくは、プトレマイオス連邦からレオニス王国への依頼って話だけど」
「うん? どういうこと?」
「……?」
私がこてりと首を傾げると、真似するようにミリアちゃんも首を傾げて見せて、ノアさんを悶えさせた。
ゲームの公式イベントって事は、こう、レキシファーの時みたいな物ではなく、運営が意図的に発生させるイベントって事だろう。
それをノアさん……神殿が把握していて、さらには連邦からの依頼とはどういう事なのだろう。
「それは、僕から言いましょう……というか、ミラさんみたいなプレイヤーへの配慮みたいな物ですよ」
「うん、私?」
「ええ。NPCに扮したプレイヤーでも参加できるように、このゲームの公式イベントはNPCでも自由に参加できるんですよ。プレイヤーと一緒にパーティーを組んでもいいし、NPC同士でも参加できます。ベータからそうでしたよ」
「まあ、私は聖女だからある程度の事情はわかってるからいいのだけどね。祈り人は神の啓示を受けられるけれど、一般の冒険者達はそうじゃないでしょう? だから、国家からの依頼として組合へ連絡がされる事で、そういった冒険者達やミラちゃんみたいな祈り人も自然に参加できるようになっているの」
成る程。
「個人、パーティー、クランで参加可能で、参加する場合は組合で依頼を受けるか、もしくは直接東から船でプトレマイオス連邦まで行けばいいみたいですね。組合に登録していないプレイヤーでも参加は出来ますが、依頼を通すと報酬があるのでおいしいです。通さない場合のプレイヤーはまあ、通せない理由がある奴らって事ですね」
「ああ、貴女達の新しいクランについての立ち上げだけど、メイファちゃん達のクランの居なかった一人も戻って来ていると言うか、今ここに滞在しているから後で話に行きなさいね?」
「ん、わかったよお母様。クランの立ち上げって言われてもあまりピンと来ないんだけどね」
「ま、その話は追々しましょう。はい、僕がいない間にあった事は聞いていますし、後でたっぷりお話しましょうね、会長?」
「だが断る」
うにがうにうに言いながら用意した茶菓子をミリアちゃんにあーんしながらそっぽを向く。
とーまくんのお説教は長いからね、仕方ないね。
それよりも、今はそのイベントの話に戻して欲しい。
「全く……それで、僕もざっと見た限りですけど。概要としては、プトレマイオス連邦の周囲に点在する魔力嵐の一つが突然消滅、そこには記録にない島があったとのことです。ですがプトレマイオス連邦は島々の集合体で、レオニス王国のように冒険者や陸戦を得意とする戦力の数が少ないんですよ」
「それで、そういう新しい島が見つかった時なんかで戦力が必要な場合の要請を行われるのは珍しい事じゃあないし、こちらとしても調査の情報や報酬もあるから断る理由もないしで、大々的に告知されるのね」
「で、今回はそれがイベントとして扱われるって事か」
そうですね、と。とーまくんが一拍置いて、視線を宙空に滑らせる。
とーまくんはダイアリーを使わない派らしくて、かそうういんどーとやらを好んで使うらしい。
私の頭の上で寛いでいるとーまくんのスピリア、ノクトが教えてくれたのだが……うちのスピリア達は今日も今日とて、こっそり何かを行っているらしい。
出掛ける時以外は自由にしていていいんだけど、こう連日だと寂しくもあるね。
「依頼内容は島の内部の調査。生態系や植物、遺跡等の有無、有れば内部の調査。そこで得た情報を記録して、連邦に持ち帰って報告し、報酬を貰うと言った形ですね。なお、魔力嵐は完全に消えた訳ではなく、空間の湾曲はまだ残っているようで。万が一中で死亡しても空間湾曲の影響外に放り出されるだけで済むようですね」
「なんだい、その魔力嵐と空間湾曲ってのは」
「魔力嵐は、この世界の至る場所で発生する空間の歪み……と、言うべきかしら。そこからモンスターや瘴気が発生しているとも言われているわね」
「で、空間湾曲っていうのは……そうですね、僕たちプレイヤーが使える決闘機能の拡大版って言えばいいですかね?」
「つまりそれもあれか、住人が参加して万が一死んでも安全にする為の配慮か」
「はい。あとはやっぱりミラさんみたいに、住人に扮したプレイヤーが死に戻りしてもおかしくないようにするためですね」
「随分とお優しい事だね」
んまあ、イベントがあります。でも住人でも参加できるし、死んでも外に放り出されるだけで済むから安心してねって事か。
「で、ミラさん、どうします?」
「どうします、とは?」
「イベントに参加するかどうかですね。期間は……向こうで言えば週末ですね。イベントフィールド……空間湾曲内では時間の進みが普通とは違っていて、外の一時間が一日に引き伸ばされます。その上で、五日間の調査期間ですね」
「ふむ。予定によるけれど、私の記憶ではその日は空いていたと思うよ」
詩乃さんが居ないので確証はないけれども。
「参加するなら、神殿からの派遣で通しておくわよ、ミラちゃん。冒険者として行くよりはこっちのほうが安全だと思うし、騎士トーマもその方がやりやすいでしょう」
「助かります、ノワイエ様。なので、ミラさん。その新クランのメンバー予定の人達に声を掛けておいて貰えますか? 僕は必要なアイテム等の準備をしておきますので」
「そういう事なら、任されよう。……人数の制限とかってあるのかい?」
「クラン単位ならほぼ無いようなものですよ。多人数で参加するデメリットとしては得られる情報が共有なので、対応する報酬もそれだけになって旨味が少ない程度の事ですから」
「攻略、調査するなら多人数が進めやすいけど、少人数なら報酬を独り占めできるって差か」
「そういう事です」
それじゃあ、後は任せますのでと残し、部屋から去っていったとーまくんを見送り、なんとなくノアさんを見上げてみる。
「どうせなら、プトレマイオス連邦の観光でもしていらっしゃい、ミラちゃん。貴女、まだ他の街にも行っていないし、次期聖女としての実績作りにもなるからね」
ぎゅうと、少しだけ強く抱き締めながら、私の事は気にしないでとそう言い笑うノアさん。
まだイベントまで時間はあるが、ネックはそう、参加するにはプトレマイオス連邦まで辿り着かなくてはならないという前提が引っかかってしまった事を、ノアさんも理解したのだろう。
「……帰ってきたら、お出かけしようね」
「ええ、勿論よ」
さて。
まずは誰から声を掛けに行くべきかな?
たまにはゲームパートも必要なのでは?(?