神化と杯とげろりんすねーく
『カミハミ……神食み、デスか』
とりあえずありのまま起きたことを話してみた。
呆れたような声でそう繰り返したのはレキシファー。
今では光りも収まり、ただ膝の上に鎮座するクリーム色のくず餅の周囲を漂って様子を見ているようで。
『亜神を喰らって進化したスライムとは、いやはや。長い間生きていますガ……いえ、実際には死んでマスけどモ。人生で初めてデス』
「ちなみに進化して神獣になったらしいよ?」
『oh……』
膝の上のクリームくず餅ことスライムモードのミリアちゃんをつんつんとつついてみる。
見た目的には進化……神化する前と違いは見当たらないのだけれど、ステータス的にはキチンと変更されていて先程確認した時よりも色々と変更されていたので、インフォメーションさんの言うとおりにしっかり神獣になっていた。
『ぴ!』
『カァ!』
『かぁ?』
『……!』
ぽとりと首元からサビクが落っこちて、ミリアちゃんの上へ着地する。
ぽよりんと弾みながら私の膝へとさらに降り立ち、なにやらミリアちゃんに話しかけているらしい。
刹那と那由多もソファまで下りてきて、一声鳴く。
「……はぁ、間に合って良かった」
「なの。間一髪なの」
「えーと、お疲れ様?」
『やらかす時は事前に言ってくださぁい?』
「そんな無茶な」
そして、対面のソファへ戻ってくるのはメリアリスさんとみそぎちゃんに、ありすさん。
ナイスタイミングでうに達がお茶を用意して、三人揃って一息ついてから言葉を続ける。
「きぃ達と、近くなった」
「なの。ミラママ感が増したの」
「私感とは」
あれかな、みそぎちゃんやキサラちゃんと同じように私の羽根を与えたからかな?
私の元腕の結晶で神化した事と言い、ミリアちゃんも眷属みたいな物なのだろうか。
ぴっぴぴっぴと鳴きながら何やら話しかけているサビクに意識を向けるが、これ会話は成立しているのかね。
「ところでミラちゃん。亜神って?」
「あれ、言ってなかったっけ?」
『あじん? なにそれ……ミラちゃん獣人やめたの!?』
『馬鹿おっしゃい、そんな事……ミラ様!?』
上から順に、メリアリスさん、私、ティムからメサルと。
そういえばこの子達居なかったし言ってなかったなあとか思いつつ顔を上げる。
ひっくり返りそうな勢いで羽根を羽ばたかせているメサルティムに、なんの事やらと首をかしげるみそぎちゃんとキサラちゃん。
なんかさらに呆れを増したようにため息を吐くありすさんを肩に乗せて、メリアリスさんが項垂れていた。
『まあ、精霊としては最高位の天使、それも熾天使が神竜の力を取り込んだのですから、神にも成りますヨ。正式な、かつ突然変異のようなものデスから、亜神なのでショウネ』
鏡が割れたような音と共に、スピリアの姿だったレキシファーの姿が消えて、山羊角の男性が現れる。
彼曰く、ありすさんと同じくアニマスピリアとしての姿らしい。
スピリアになったその瞬間からアニマスピリアだったらしい彼はいつの間にやら用意された黒板の前に立ち、いつかと同じようにキサラちゃんを側に教鞭を取った。
ちなみに移動式黒板を用意したのはうに達である。
『さテ』
ピシリと鞭を鳴らし、レキシファーが全員の意識を集める。
白衣にモノクルと言った装いの教師然とした男は、メサルとティムが落ち着くのを待って言葉を切り出す。
『まず、当然とシテ。亜神がどうこうは、完全に口外無用デスし、今後口にしないコト。我が姫は情報遮断のヴェールは常に着けておきなサイ』
全員を見回し、各々が頷いたところで私へ一言。
今は寝起きだったし、安全な部屋と言うこともあってヴェールとかその辺は外しているが。
彼が言うにはあの黒いヴェールを常に着けておけという事か。
しかし、アレ。天使化した時に白い祭服と融合して何か別の物に変化したんだよね。
『ぴ!』
「うん?」
『おとど、け!』
「サビ……うわあ!?」
ミリアちゃんとのお話を終えたらしいサビクが机に移動し、私を呼ぶから何事かとそちらを見れば、お届けとの事。
さらになんのこっちゃと全員がサビクに注目すれば、げろりんと。
小さな蛇の身体から一体何をどうすればそうなるのかと突っ込みたい衝動に襲われながら目にしたのは、サビクの口から吐き出されて行く装備一式らしい衣装の数々。
全員呆気に取られながら十数秒、最後にぺろりんとヴェールが吐き出された後、満足そうにサビクが一鳴き。
『あすぴ、おとどけ! ぴ、ほめて!』
「ふむ。ありがとうね、サビク。いい子いい子」
『ぴ!』
ふんすと胸(?)を張るサビクの頭を撫でてやれば、伸ばした身体をくねくね揺らして喜びを表現する子蛇ちゃん。
彼女が一通り満足するまで撫でてやってから、サビクの吐き出した装備を回収する。
そういえば、アスクレピオスが装備を贈るとか言っていた気がするね。
送り方はもうちょっと考えて欲しい、心臓に悪い。
『我が姫?』
「ああ、うん。お父様……アスクレピオスからの荷物らしい、よ?」
「そういえば、サビクちゃんは神様の化身でしたっけ……というか、今の装備からジェミア様の力も感じたんですけど」
「……あの二人、どういう関係なんだろうね、そういえば」
なんかさらっと一緒に居たけれど、そこんとこどうなんだろうね、あの二人……三人か。
とりあえずインベントリに放り込んだ装備一式の詳細を表示してみる……うん、片腕だとちょっとやりにくいね。
『お任せください、ミラ様』
とか思っていたらメサルが飛んできて、取り出したダイアリーの中へ。
ぱらぱらと自動的に頁が捲られ……ふと、首をかしげた。
「ねえ、メサル」
『はい?』
「なんか今、見慣れない頁があったよ?」
『……ふむ、そういえば』
ダイアリーの頁の途中。
見慣れたものとは違う、文字だけがびっしりと書き込まれた頁が目に入った。
メサルに言って、そこまで頁を戻して貰う。
自分も手伝うと言ってダイアリーに入って行ったティム以外の全員が見守る中、目的の頁が視界に広がる。
開かれた頁は、目次で言うとスキル欄の見出し辺りかな?
びっしりと埋め尽くされた文字の殆どは意味不明で理解できない文字だったのだけれど、一番上……題名だけは読み取れる。
「Bowl of Hygieia?」
「直訳で、ヒュギエイアの杯ですね」
「ヒュギエイアって、ええと……ギリシャ神話の女神だっけ。確か、健康の維持や衛生を司る、薬学の神様で。一匹の蛇を従え、杯を携えた……医神、アスクレピオスの娘、かな?」
「ミラちゃん、物知りですね」
「まあ、色々と雑多な知識を収集するのも趣味だからさ……しかし、またピンポイントに突いてきたなあ」
題名以外は読み取れないのだが、題名から読み取れた物がもうひとつある。
どうやら、今のダイアリーの前身。元になっている、ニーナさんに貰った黒い本。
あれのタイトルが、先程のBowl of Hygieiaらしいのだ。
つまり、なんだ。
ニーナさん……ニトゥレスト・ソルシエール。
やはり彼女は最初から全て知っていて、あの時声を掛けてきて、私に調薬……薬学を教え、この本を渡したと言う事か。
本が読めるようになったらまたおいでと言っていたのを思い出しながら、今後の予定に一つ追加する。
『ヒュギエイアの杯、最高峰の医術書でアリ、魔導書デスね。本物は初めて見ましタ』
「ある人に貰ったんだけどね。まあ、今思い出して見ればお父様の言っていた事も理解できたね」
私が会ったことのある鱗人。
十中八九、ニーナさんだったんだろうね。
「オーケー、本来の目的に戻ろう、メサル、ティム。インベントリよろしく」
『畏まりました』
『はーい!』
ぱらりと頁が捲れ、インベントリへ。
新たに仲間入りした装備達表示すれば、あれだけあった装備は四種類のみ。
ヴェールとアクセサリー二つに、衣装一式だった。
それぞれが当然と言わんばかりに神装属性を持っていて、アスクレピオスと連名でジェミア様の加護まで盛られている、ノアさんが見たらひっくり返りそうな代物で。
アクセサリーは指輪が二つ。
そしてヴェールは単体で装備できるようにと言ったところか。
前の黒い祭服の時とは違って、ミトラは無いらしい。
「うん。まあ、色々とまた言いたい事は増えたんだけどもね?」
「ミラちゃん?」
「これ、装備一式の名前が神装・アイギスとか書いてあるんだよねえ」
アイギスと言えば、これまたギリシャ神話に出てくる防具だったか。
持ち主はゼウスでありアテナであり。
胸当てや楯として知られているけれど……これはどう見ても服なんだけどもね。
ああ、後はアテナとアイギスと言えば、眼を合わせるだけで相手を石化させる怪物、メドゥーサとか有名だよね。
『ぴ?』
そういえば居たわ、神獣メドゥサ。
あの蛇神様、どこからどこまでわかっててやってるのかわかんなくなってきたね。
感想返信とかはついったーの方でやってたりしたりするよ。
なろうでやらない理由は常に全部に返信出来るわけじゃないからです。
感想自体は全部見てますウレシイヤッター!