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秘密と秘匿とさよなら図書館

 

 

 

 それから数分経って。


 本棚から戻ってきたとーま君が対面に座り、ようやく、本当の本当に腰を落ち着けられたといえる。


「それじゃあ、ちゃんと通じてるかどうかの確認がてらお話しますね」

「了解だよとーま君」


 言葉が通じるって素晴らしいね。

 向こうに居た時から日本語は叩き込まれていたから言葉の壁と言う物に困った事はなかったが、実際に直面すると不便でしかない。

 これがゲームでなければ身ぶり手振りでしかコミュニケーションが取れないのだ、考えただけで寒気がする。

 あと数ヵ国語くらい覚えてみようかな……現実の方でね、現実の。



「まず最初に聞いておきたい事があるんですが、いいですか? 嫌なら答えなくてもいいですので」

「うん? 何でも聞いてくれていいよ?」

「えーとですね。まず前提として、このゲームでは記憶の内容とか、この世界での立場とかの情報は秘匿される傾向があります。特に記憶有りの場合、ベータテストの時に記憶が原因でひどい事件があったので。スキルは目に見える物もあるから仕方ないのですが、記憶に関してはぼくにも話さないでくださいね」

「別に、君になら教えてもいいんだけど……わかったよ。それで、その言い方ってことはとーま君が知りたいのはスキルなのかな?」

「はい。その、スピリアを二体連れているプレイヤーって、ベータでは居なかったんですよ」

「あー、そうだね。あ、もしかして門番さんが変な顔してたのって、それもあったのかな?」

『……失念しておりましたね』

『あわわわわわわ』

『合流した時点で我を呼ばんかったトーマの落ち度よな』


 左右の肩にメサルとティム。

 なぜか私の頭の上にノクトが乗っていて、机を挟んで男女でわかれている。

 男性は唯一とーま君、ハーレムだねハーレム。

 ……そういえば、精霊魔法を使えるのって私だけとかメサルが言っていた気がする。

 んで、スピリアを増やすスキルが精霊魔法にしかないって言うのなら……うーん、やらかしたのかなあ?

 でも、流石に他のプレイヤーにはわかりっこないだろうし、問題があるとも思えないけどね。


「んー。固有スキルが、精霊魔法。レベル次第でスピリアを増やせるらしいよ。あとは……」

『ミラ様、その先はいけません』

『うん、ダメだよ』

『我も賛成だ。教えるのは使役だけに留めておくがよい』

「……あとは、さっき本を読んだら古代神獣語ってのを取得しちゃったなーって」


 スピリアと意思の疎通ができるよと続けようとしたのを、精霊三人に止められる。

 その声色はティムまでが真剣で、思わず言葉を飲み込んだ。

 とーま君のスピリアである筈のノクトすら止めるのは何故だろう。

 ……早速役に立ったね、古代神獣語。



「本って、さっきの最上級の奴ですか? 後でぼくも読んでみますね……本題に戻ります。会長は、スピリアを待機状態にさせておくつもりは?」


 とーま君が真っ直ぐに私を見る。

 彼が言いたいのは、どっちかだけでも待機状態にしておいて、連れて歩くのは一人にしておかないかという、私の為の言葉だろう。

 だがしかし。


「絶対にないね。二人だろーが三人になろーが閉じ込めておくつもりはないよ」

『嗚呼……アリエティス様、カーミラ様は、やはり素晴らしいお方です!』

『ミラちゃん大好きー! ティム、もっと頑張るからねー!』

『古代神獣語……か。伝えるのもそれだけじゃ、ついてきたスキルに関しては言うでないぞ』

「えーっと?」


 何故かメサルが感極まったように泣き出して、ティムが胸元に飛び込んできて、そのまま胸の間に挟まった。

 ノクトはノクトで更に釘を刺してくるし、私は一体全体何をしでかしているんだろうか。

 精霊魔法にしても神獣契約にしても、ただのスキルと考える訳には行かないのかもしれない。

 精霊魔法は固有スキルだから普通ではないか。


「ですよね……まあ、スピリアの事を聞かれたら、スキルとだけ答えて、スキル名とか内容は言わないようにしてください。固有スキルって言うのもダメですよ」

「ん、わかった」

『ああ、そこの銀精霊がそうなっておるのはそのまんま喜んでおるのだ。どうにも、ヒトの中と言うのは窮屈でな。おぬしに関しては同居人がわんさか増えそうであるからな、うむ。中には生涯スピリアを外に出さぬような者もおるのだ』

『アリエティス様も、我々を常に連れてくださっておいででした。その、カーミラ様もそうしてくださると思うと……お見苦しい所を見せてしまいました』

『ミラちゃんの中、ティムは好きだよー。ぽかぽかあったかくて、眠たくなるのー』


 とーま君に向かって頷きながら、精霊達の言葉にも耳を傾ける。

 どうやら、本当に感動していたらしい。

 ティムはもぞもぞと首もとから胸の谷間に潜り込んで……寝息を立て始めた。そこはベッドじゃありません。

 とーま君が口を開く。


「とりあえず……スピリアに関しては、スキルで通す。精霊語は使わない。そして、このゲーム独自のプレイヤー間での暗黙の了解を教えておきます」

「うん、そういうのは大事だよね」

「一つ、ステータスの構成や、スキル、記憶など、自分でしか確認できない事柄は基本的に秘匿する。公開されるのは、初期選択にあったスキルの後天的な取得方法などです。珍しそうなスキルやらなんやらは、確実に秘匿されますし、共有するとしてもギルド内だけとか、身内の間だけです」

「なんか、珍しい気もするね。なんでそんなに閉鎖的なのかな」


 一度だけ、他のゲームの掲示板を覗いてみたことがあるけれど、そこにはどんなスキルを見つけたとか、こんなアイテムをどこどこで手に入れたとか、色々と情報に溢れていた気がする。

 私は……その、調べられなかったというか、彼に教えてもらいたくて、このゲームに関してはあえて避けていたと言うか。

 本当に、突っ込んだ事やベータテストの時の情報などは調べられていなかったりする。


「だいたいは、記憶のせいですね。軽い気持ちで固有スキルと記憶の内容を掲示板に書き込んだプレイヤーがいたんですが、その。ぼくたちプレイヤーもこの世界で今まで生きてきた存在であるっていうのは、キャラクリで聞きましたよね? 当然、誰かの記憶と誰かの記憶に関連性がある事も珍しくなくてですね」

「なにか、記憶の内容でトラブルがあった?」

「はい、それはもう。話すと長くなりそうで結論だけ言いますと……内容を書き込んだプレイヤーは、関連性がある記憶を持ったプレイヤーの執拗なプレイヤーキルが原因でゲームを辞めました」

「……運営は動かなかったのかい?」

「このゲームの運営は記憶関係に関しては完全にノータッチなんですよ。その他の部分では結構ユーザー目線のいい運営なんですけどね」


 どんな内容の記憶だったんだろう。

 人を、引退まで追い込む程の理由があったのだろうか。

 たかがゲームで? と、思うかもしれないが、私には、それを否定できないと考えてしまう。

 私だって、あの記憶の意味を知って、もしもそれに荷担したプレイヤーがいたのだとしたら……一発くらいは、手が出てしまうと思うから。


「普通に覚えられるスキルと、その派生系は普通に公開されてますし、生産アイテムとか作った装備なんかも公開されるのは他のゲームと同じです。イベントアイテムとか、それに関係しそうな物は勿論秘匿されますけどね」


 鏡華さん、また秘密が増えてしまったよ。アリエティスの指輪とか、完全に教えたらアウトな奴だよねこれ。

 装備するのもやめておいた方がよさそうだ。


「あ、そうだとーま君、アイテムで思い出したんだけどさ。特典ガチャチケットって何に使うんだい?」

「ああ、そういえばそれもありましたね。ぼくも持っていますよ。王都にある施設で、それを使ってガチャが引けるんです。課金とかではなくゲーム内で多数入手手段がある、色んな意味でのエンドコンテンツですね」

「えーと。ガチャって、なに?」

「あ、はい。簡単に言うと、決められた確率で何かが貰えるギャンブルみたいな物です」

「くじ引き?」

「そうですね。そのガチャチケットを使うと、普通のとは違う特殊なガチャが引けるんですよ。なんなら、今から行ってみます?」

「いいね。でも、話はもういいのかい?」

「歩きながら、チャットででも話しましょう。街の案内もしたいですしね」

「了解だよとーま君。それでは、ガチャとやらをやりにいこう」


 無事に言葉の壁は突破して、色々な事も知れた。

 気になっている事が一つあってそれは聞きそびれてしまったが、機会はいくらでもあるだろう。

 獣人語最上級、上下巻を手に席を立つとーま君に続いて立ち上がる。

 どうやらあの二冊は借りるつもりなのか、そのまま手にして歩き始めたとーま君。

 すやすや寝息を立てるティムを引っこ抜いて肩に乗せ、そこにティムを支えるようにメサルが移動する。

 ノクトはいつの間にかとーま君の頭の上に戻っていた。


「ついでに復活地点の登録もしておきましょう。街の中心にある広場に、復活地点と街同士の転移に使う、この世界の女神様の像があるんですよ」

「へえ。そういえば、街の外から開始して街にたどり着く前にモンスターに負けたりしたらどうなるの?」

「その場合は最初に居た場所が復活地点になるらしいですよ」


 うーん。街の復活地点を登録するまでは、死なないようにしないといけないね。

 下手したら一生地面の下になってしまう気がする。




 

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