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プロローグ「とある少年の決意」

初投稿です(´・ω・`)


 

 

 

 まだ生徒がいないような早朝。

 いつもの時間、静かな校舎の中を歩く。

 ジリジリと暑くなってくる夏の日、一週間後には夏期休暇を控えていて、生徒達はみんな浮き足立っている事だろう。

 中にはぼくみたいな例外もいるけれど。


「暑いなぁ……会長、来てるといいんだけど」


 廊下を進み、階段を上がり、目的の部屋へとたどり着いた。

 扉の前で立ち止まり、一呼吸置いて身嗜みを整える。

 生徒会室と書かれたプレートが示す、一般生徒には全く縁の無い場所。

 コンコンとノックを鳴らし、失礼しますと声をかけてから返事は待たずに扉を引く。

 鍵は空いている。僕の心配を余所に、目的の人物は既に中に居るようだ。


 入室し、後ろ手に扉を閉めて視線を廻らせる。

 部屋の中には机とテーブル、書類の詰まった本棚が多数。

 壁にかかった時計は午前六時と三十分を少し過ぎたばかりを刻んでいる。

 そして、その時計の真下の机に彼女はいた。


「おはようございます、会長」


 窓からの日射しでキラキラと輝くのは黄金色の長い髪。

 椅子に深く腰かけ、目の前の机には大量の書類が広がっているのはいつものことだ。

 真面目で勤勉、教師からの信頼は厚い。

 この部屋の主であり、二年生にして生徒会会長を務める優等生。御影鏡華(みかげきょうか)さん、一つ上のぼくの先輩だ。


「……会長?」


 俯いて、書類とにらめっこしている彼女へもう一度声をかける。

 普段ならすぐに返事を返してくれるのだが、どうしたのだろう。

 自分用にと割り振られている机に一度荷物を置いて、そのまま会長の側へと近寄る。

 ここまで近付いても気付かないなんて普段の彼女からすればありえない事で、一つの可能性が頭に浮かぶ。


「会長、起きてくださいよ。また寝てるんですか?」

「……む、むぅ?」


 なんとなく、シャツの裾で手を拭ってから俯く彼女の肩を軽く揺らす。

 小さな彼女の身体はぐにゃりと揺れる。

 声をかけながらもう一度揺らせば、聞きなれた声と共にゆっくりと彼女の頭が動いた。


「お昼寝するには早いですし、二度寝にしては遅いですよ、会長?」

「む……寝ていないぞ、うん。おはようとーま君、今日も良い天気だね」

「はい、おはようございます、会長。でも、誰が来るかわからないんですから、家以外で寝るのはやめてくださいね」

「寝てないよ、寝てない。ところで今何時だい?」


 バレバレの嘘を口にしながら、目元を擦る小さな少女。

 言いながら小さく欠伸をしているのだから自分で寝てたと言っているようなものじゃないだろうか。

 彼女の机に広がった書類をまとめながら六時半を過ぎたくらいですと返し、まとめ終えた書類を片付けてから自分の机に戻り椅子を引く。


 また小さく口を開けて欠伸を洩らす彼女の様子を眺めながら、少しばかりの静けさが部屋に満ちる。

 腰まであるウェーブがかった長い金の髪に、少し……どころではない、幼い顔立ち。

 中学生と見間違うほどの身長とかんばせながら、その体躯にみあわない、巨大な一部分に視線が――いかんいかん、自重するんだ、ぼく。


「ところでとーま君、今日の活動は無かったはずだけど、何か用事があるのかな?」

「あ、はい。会長に用事がありまして。確実に会長に会えるならこの時間のここかな、と」

「私に?」

「はい、会長にです」


 こてんと首を傾げてぼくを見る会長に、鼓動が早くなるのを感じる。

 常に眠たげにしている彼女から目をそらし、通学用の鞄とは別に持ってきた紙袋を持ち上げて見せる。

 一度落ち着いて深呼吸する。

 頑張れ、ぼく。


「会長は、夏期休暇の予定って何かありますか?」

「うん? 夏期休暇か……両親は国外だから、うん。今のところ用事はないよ」

「それじゃあですね、会長。その、夏期休暇を使って、ゲーム……やりませんか?」

「げーむ?」


 椅子から腰を上げて、紙袋を手に会長の元へと歩く。

 頭の上に疑問符を浮かべてぼくを見上げる会長の机に、持参した紙袋を置いて一歩離れた。


「少し前に、とあるゲームのベータテストに参加しまして。そのゲーム内のイベントで入賞した特典に、製品版の優先購入権を貰ったんですよ」

「ふむふむ。たまに他の子と話していた奴かな?」

「はい。それでですね。その優先購入権で購入出来るのが二つ分で、どうせならと二つ買ったんです。で、一緒にベータに参加してた友人に譲る予定だったんですが……そいつ、懸賞で当てたから、必要ないって言われて。一つ余っちゃったんですよね」


 興味深そうに紙袋を眺める会長に、中を見るように促してみる。

 ぼくの許可を待っていたのか、すぐさま紙袋を開いて中の物を取り出した会長。

 紙袋から出した二十センチほどの長方形の箱を両手で持って、彼女の視線がパッケージに書かれたロゴをなぞる。


「アニマスピリアオンライン?」

「はい。VRMMORPGって奴ですね。サービス開始は一週間後……夏休みの初日に合わせてスタートします」

「私、ゲームはそんなに詳しくないよ?」

「そこは大丈夫だと思います。このゲーム、VRMMO初心者にはかなり優しい仕様がいくつかありますから。それで、会長がよければですけど、それ貰ってくれませんか?」


 彼女にとっては珍しいのだろう。パッケージを裏返したり、様々な角度から観察している彼女。

 さらには振ったり、軽く叩いたりしている様子を眺め、彼女の返事を静かに待つ。

 断られるかもしれないけれど、大丈夫だ。知り合いに教えてもらった、確実に誘う事ができるであろう切り札はある。


「んー。君が言うなら大丈夫なんだろうけど……他に欲しいお友達とかもいるんじゃないのかな? 私が貰っちゃっていいの?」

「はい、会長に貰って欲しくて持ってきたので」

「うーん。でも、こういうのやったことないし、時間も――」

「あ、それとですね会長。このゲーム、今はそんなに珍しくもないですけどゲーム内時間加速機能が使われてまして。現実の一日……二十四時間が三倍に引き伸ばされているんですよ。つまりですね、ゲーム内でお昼寝し放題です」

「――時間が無いなんてことないしね。うん、せっかく誘って貰ったんだし、是非ともやらせてもらおうかな!」


 内心でガッツポーズをしつつ、もう返さないぞと言わんばかりにゲームのパッケージを抱き締める彼女の様子に頬を緩める。

 ……三度の飯より寝るのが好きと自分で言う彼女への切り札は、やっぱり効果が抜群だった。

 そして、そんなアドバイスをくれた彼女の友人先輩には改めて感謝する事にしよう。


「とーま君、このゲームやるのに必要なものって何があるのかな? そのままポンと出来る物でもないと思うし。お姉さんに教えてくださいな!」

「そうですね。それじゃあメモしますんで、少し待ってくださいね」

「よろしくお願いします!」



 ――第一関門は突破できた。

 

 ぼくこと、楠木冬馬(くすのきとうま)はこの夏、このゲーム……アニマスピリアオンラインを通して。

 想い人である彼女、御影鏡華さんとの関係を少しでも進展させようと思う。


 そして、この曖昧な距離を少しでも近付ける為に、変化させる為に。

 この夏期休暇中に、彼女に告白しようと決意しているのだ。


 ……会長、既に恋人とか、好きな人がいるなんて事、無いよね?

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