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第6話 蜜と2つの唐辛子

「……くしゅん!」


千秋の豊かな胸の谷間から、絵美の可愛いくしゃみが聞こえた。


「大丈夫……?寒くない、絵美ちゃん?」

「はい……ご、ごめんなさい。私……千秋先輩に……」

「いいのよ、気にしないで……。ちょっとびっくりしたけど……」


胸元の絵美の頭をいたわるように撫でてやる。

すると子猫のように谷間に顔を押し付けてきた。


(可愛い……。絵美ちゃんといると、何だか胸の中がぽかぽかするなあ……)


絵美がとても愛おしい、と千秋は感じた。


ぐきゅるるる〜。


「あはは……お腹すいたね、絵美ちゃん」

「途中でしたね。千秋先輩。続き、作りましょうよ」


隠すことなくお腹を鳴らし、クスクス笑う千秋。


(はうぅ……優しいなあ、千秋先輩。それに何だか子どもっぽいし……すごく可愛い……)


思わず頬が緩んでしまう絵美。


こうやって接する前は、近寄りがたい憧れの人だった千秋。

そんな彼女が、こんなにも素直で可愛い人だったなんて……。

千秋を好きになってよかったと、絵美は内心ホッとした。


ようやく脱ぎ散らかした制服を着なおして、2人は夕食の支度にとりかかった。


***


「千秋先輩……。どうですか?お味……」


おそるおそる絵美は料理の出来を尋ねてみた。


「わあ。美味しい!  絵美ちゃん、凄いね」


 絵美が作った料理は、千秋にとっては凄いご馳走だった。

普段、千秋が食べているものと言えば、カップ麺やコンビニ弁当だったからだ。


絵美の手料理を『美味しい、美味しい』と、次々と食べる千秋。


(わああ〜。こんなに喜んでもらえるなんてっ!良かったあ)


 家での手伝いや、これまで付き合ってた男には、自分の料理を褒めてもらうなんてことはなかった。

自分が好きだって言った人に、喜んで食べてもらってる……。


絵美は心の中が、何か暖かいもので満たされていくような気がした。


***


 食事も終わって、一緒に片付けている時、それまでの余韻を味わうかのように、千秋も絵美もあまり話さなかった。


たまに手が触れ合うと、静かにお互いを見つめあう。

そんな光景を四十雀は微笑ましく眺めていた。


『お嬢様、絵美様をご自宅までお送りされないのですか?』

(……ん?絵美ちゃんが望むならそうするよ)


「絵美ちゃん? 家まで送ろうか?」

「うん。千秋先輩と一緒に居られる時間が増えるから嬉しい」


恥ずかしそうに少し頬を紅潮させながら、微笑む絵美。


千秋はそんな絵美がすごく魅力的で可愛く思えた。

そっと絵美の頬に手をあて、彼女の唇にそっとキスをした。


「じゃ……送るね……絵美ちゃん」

「……うん」


絵美を送る時、どちらからともなく、自然と2人は手を繋いでいた。


***


「おはようございます、千秋先輩!」

「おはよう、絵美ちゃん」


 翌朝、2人は何事もなかったかのように、校門前の並木道で挨拶を交わした。


 今日もバレー部の朝練がある。

だから同じ時間に一緒に行こうって、話しあっていたのだ。

 

 知らず知らずのうちに、2人は自然と指と指を絡ませ、手を繋いでいた。


(絵美ちゃんの手……あったかいな……気持ちいい……)

(……千秋先輩……柔らかい手……放したくないな)


「千秋、絵美!どうしたの?手なんか繋いじゃって?」


お互い握ってた手を放したくなくって、思わず2人で後ろに隠そうとした。


「か、和美……。おはよ。こ、これはね、勉強教えてたら仲良くなって……それで……」

「……そ、そうなんです……。 部長。いろいろお世話になってるので……」


千秋も絵美も、自然と消え入るような声で言い訳をする。


目を細めて訝しげに、2人をジロジロ見る和美。

そんな和美を目の前にして、2人とも繋いだ手を後ろに隠すようにした。


「ふうん……。千秋、昼休み、ちょっと時間いいよね?」

「……え、ええ」


(ええっ! 絵美ちゃんと屋上でお昼、一緒に食べる予定だったのにっ!)


千秋と絵美は顔を見合わせた。

千秋はウインクして、『またね』と絵美に伝えた。


「ん? 千秋? 絵美と昼飯、一緒に食べるつもりだったの?」

「……い、いや。 大丈夫!大丈夫だから!」


ふと、和美は腕時計を見た。

あと5分で、朝練がはじまる時間だった。


(げっ!タイムオーバーだわ……。いいわ。後で千秋から聞くし!)


「千秋も絵美も朝練、間に合わないよ!」


2人にそう告げると、慌てて一緒に駆けていった。


***


『……お嬢様……。ちょっといいですか?』

(何よ? 四十雀……。 ちょっと機嫌悪いから、短めに!)


『リリス様からお呼びがあったので、私が参りたいと思います』

(はん! あのババア……。 どうせ文句でしょ? いってらっしゃい!)

『……行ってまいります』


 絵美との時間を邪魔されて、不機嫌なご主人様の塩対応に、ため息をつく四十雀。

この呼び出しが、千秋にとって良くないことだと、四十雀は薄々感じていた。


彼はこっそり淫魔界への扉を開くと、リリスの元へ向かった。


***

 

 四十雀の開いた扉の先は淫魔界だ。

そこはサキュバスたちだけがいる世界……。


四十雀の目の間には、その淫魔界の女王リリスがいた。

 

 光り輝く美しい肌……。漆黒を思わせる艶やかな黒髪。

豊満で形の整った美しい胸の双丘……。よくくびれた腰に続く綺麗な臀部。


もし、神々や悪魔全部の美人コンテストがあるなら、間違いなくトップの実力を持つ女性。

そして、淫魔界の創造主でもあり、全てのサキュバスの母。


それがリリスだった。 


「四十雀……久しいですね。 でもどうして、貴方、小鳥の格好のままなの?」

「いえ、滅相もございません。 リリス様。私なぞ、これで充分でございます」

「あら? そう? もったいないこと……」

「で、ご用とおっしゃいますのは……?」


四十雀は、とぼけてこの淫魔の女王に尋ねた。


(たぶん、千秋が絵美と関係を持ってしまったことだ……)


「……わかってるでしょうに……。四十雀。 千秋は人間の女を隷属させたわね?」

「……はあ。それは事実ではありますが、事故かと……」

「その娘をサキュバスにするか、奴隷にするかの二択なのは知ってるでしょう……?」


(そうきたか……。でもなあ……お嬢様がサキュバスであることを打ち明けないと……)


「四十雀? お返事は?」

「はあ……。それは帰ってから、お嬢様とご相談と言うことでよろしいですか?」

「……まあ、いいわ……早急にね!」


(お優しい配慮かもな……。待ってくださるのだから)


リリスとの接見が終わると、四十雀はため息をついた。


サキュバスとしての千秋の行動は、正直、良くない。

でも、友達もいなかった千秋が、あんなに生き生きとしているのだ。


(うむ、やっぱり私はお嬢様の考えを尊重しますよ。リリス様)


そう、四十雀は決心し、主の元へ戻っていった。


***


お昼休みが終わろうとしていた頃、屋上で千秋と和美が睨み合っていった。


「千秋さあ? 絵美となんかあったでしょ?」

「え、べ、勉強教えてるから、仲良くなったんだよ。和美……」


(サキュバスとして、《吸精》して《魅了》しました、とか言えないじゃない!)


サキュバスとして、人間に能力を示すのは可能だ。


でも、自分がサキュバスなんてことがわかったら、和美や絵美は……。

きっと千秋を化け物扱いしてしまうだろう。


(きっとそんな目で見られたら耐えられない……)


どうしたらいいかわからなくなって、千秋は和美から目を背ける。


「ねえ?最近、やたら2人でベタベタしてるよね?おかしくない?」


(私と絵美が、お付き合いしてるって言えないよ…… 絶対、和美に変な目で見られるっ……)


千秋はもう泣きそうになった。


(絵美は……大好きっ!あの子のためなら、何でもできそうな気がするんだ。

和美は……大親友だ。でも本当のことを話したら……私、私……)


「友達でしょ?千秋……。ちゃんと答えてよ!」

「……ごめん……」


パンっ!


乾いた音が屋上に響く。

和美が千秋の頬を叩いたのだ。


(……私のばか!ほんとは私も千秋が好きだからって言おうとしたのに……)


和美にとって千秋は憧れだし、目標でもあった。

その上、自分にだけ心を開いてくれていたと思っていた。


でも、絵美が……。きっと彼女と千秋は付き合ってる。

和美の直感がそう告げていたのだ。


(だったら……)


叩いた和美はうっすらと瞳に涙を浮かべた。

そして千秋から逃げるように、屋上の扉を開けて階下へと降りていく。


屋上に1人残された千秋は、叩かれた頬に手を当てていた。

その両目にいっぱい涙を溜めて。

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