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第17話 千秋と佳之のデート・前編

「え? わ、私?」

「そ。千秋さん以外の誰を誘うって言うの?」

「え? え〰〰」


 たった今、千秋はデートに誘われたのだ。 

 2年生の時から憧れだった佳之くんにだ。


 真っ赤になったり青白くなったりと、忙しく顔色が変わる千秋をみて佳之は苦笑する。

 クラスではクールビューティなイメージで通っている千秋だったが、このときばかりは鳥のように両手をパタパタさせ、全身で動揺を伝えている。


 そんな千秋の様子をクラスメイトたちは生暖かく見守っていた。 

 和美もクラスの中で慌てる千秋をみるのは初めてだったので、パタパタしている彼女の様子を面白がって眺めていた。 


 突然千秋の方から助け船を出された。


「ど、どうしよう……。どうすればいい? 和美?」

「はあ? あんた、何で友達にデートしたらいいか聞いてるの? イヤミ?」 


 少しムッとした表情で千秋に応える和美。 

「え? え、だってだってぇ〰〰」 


 子どものように駄々をこねる千秋。


「だってじゃないでしょう?」


 眉を吊り上げてる和美。

 そんな彼女の様子をみて千秋はしょげた。

千秋にしてみれば、人生の中でも最重要な一大事なのだが……。


「何だか大変そうだけど、よかったら土曜日、駅前の噴水で10時に待ってるから……」


 2人の様子をみて苦笑しながら、佳之は待ち合わせ場所を告げると、その場を去った。


(……今更、妙だわね……。この間も急に地区大会に応援にくるし……)


 和美にしてみれば、2年生の頃から佳之は一緒だったのだから、興味があるなら一番千秋が活躍していた去年のうちに、地区大会にきた方が自然なのだ。

 今年はもう引退間近だ。主戦力も1年や2年生なのに……。それにしても変だ。違和感がある。 


「……千秋? 浮かれてるのはいいけどさ、佳之くん、変じゃない?」

「へ? 何でそんなこというの?」


千秋はムッとした顔で和美に言った。


「何でっていわれても……今更、デートっておかしいって思わないの?千秋」

「そんなこと言われても……。たまたま忙しかっただけよっ」

「ふ~ん。2年生からのクラスメイトだったのに? それに千秋が一番部活で輝いていたのは去年の夏じゃない。有名になったのも去年の今頃だったし」


 千秋はちょっと考えてみる。


(たしかに去年の夏くらいが一番活躍してたわ。秋頃からさぼり癖がついちゃったけれど。

でも、あの佳之くんからの誘いよ! この機会を逃すわけにはいかないわ)


「和美、変に勘ぐりすぎじゃない? だって佳之くんからの誘いだよ」


 妙に目を輝かせている彼女をみて、和美はため息をついた。結局、同意して欲しいのだ。

 

「土曜日、部活もないからいいんじゃない〰〰?」


しかたなく和美は面倒くさそうに応えた。

 

 そのときの千秋の顔……。まるで子どもがプレゼントをもらったときのように、満面の笑みで瞳をキラキラとさせていた。


***


運命の土曜日。


 午前9時50分、千秋は待ち合わせ場所である駅前の噴水に来ていた。

 キョロキョロと見渡してみるが、まだ佳之は来ていない。


 ここはみんながよく待ち合わせに使うところだ。そのせいか家族連れやカップルでごった返していた。手を繋いで仲良く二人連れをみて、これから。


  一方、彼女にバレないよう、和美や絵美はデートの様子を見ていた。


「部長……こんな単純な変装でバレないですか?」

「大丈夫! だってさっき千秋の目の前を横切ったけど、気がつかなかったわよ?」


 不安そうに野球帽をさらに深くかぶる絵美に、和美はサングラスをしているだけの変装とはいえない変装だった。


 実は昨夜、和美と絵美は『デート潜入作戦』と称して、千秋たちをデートを覗く、じゃなくって、監視しようって話をしたのだった。


「ほんとに千秋先輩、大丈夫ですかね? 私も部長が言ってたように、急に千秋先輩に接近してくるのっておかしいと思うから、こうやって来たんですよ?」

「……ほんとは千秋と佳之がくっつくのをジャマしようと考えてたんでしょ?」

「えへへ、お見通しでしたか……」


 あははっと笑う絵美を和美はジト目でにらんだ。

  

「でも……」

「でも何? 絵美ちゃん」

「部長だって、千秋先輩を男になんかとられたくないんでしょ?」

「図星。それにあの男の挙動がおかしいのよ、どう考えても……」

「……」 


***

 

 絵美は昨夜のことを思い出した。


 昨夜、和美から聞かされていたのだ。佳之と後藤先生の妙な動きを……。

 

 生徒会副会長の伊藤さんからの情報だが、と前置きしたうえで部長は話してくれた。伊藤さんが例の恋愛相談室の件を教職員へ伝えたところ、激しく反対したのが担任の後藤先生だったという。それに賛同してか、佳之が恋愛相談室を訪ねてきた女子生徒たちに、千秋たちの様子を聞いたということを。それもしつこく……。


「……というわけなのよ。四十雀ちゃん、どう思う?」 


 一気に裏事情を話す和美。


 彼女の胸元には小鳥――四十雀がいた。

彼は和美の胸の双丘の感触を味わいながらも応えた。

 

「確かに妙ですねえ。それからリリス様から妙な話も聞いてますから、用心に越したことはないかと思いますよ」

「妙な話って?」 絵美が身を乗り出してくる。

「最近、サキュバスを標的にしている退魔士が出没してるとか……」

「退魔士って何よ?」 

「まあ、我々サキュバスを退治する人です。人間界にとってみれば我々は悪魔なんですよ……残念ながら。悪者なんです」

「ええっ〰〰。千秋先輩も四十雀ちゃんも、悪魔だなんて言ってないじゃない!」


 口をとんがらせて不服そうな絵美。


「まあまあ。実際には我々サキュバスはお話ししたように、元上級天使ですよ。訳あって天界から離れただけですし。人間に危害を加えた事なんてないですよ」

「じゃあ、なんで私たちが悪者扱いなのよっ」 


 和美ににらみつけられた四十雀は、ブルッと羽根を震わせてから応えた。


「それはたぶんリリス様が人間界を離れた理由にあるかと……」

「何よっ! じれったいわね。私たちだってひよっこだけどサキュバスでしょ? 知っておく必要はあるんじゃない?」


 四十雀は迷った。

 和美の言うことは間違っていないし、むしろ知っておくべきことだった。でもそれを話してしまうと、リリス様の威厳が薄れてしまうかも……と。


「こらっ! 話しなさいっ! こうしちゃうわよ?」


 胸元にいた四十雀をさらに豊かなバストに押しつける。


「ぶっはっ! ちょ、い、息があぁ――」

「ほれほれっ! おっぱい地獄に落とすわよっ」

「…………は、は、話しますっ! お話しさせていただきますっ!」


 ハアハア、ゼイゼイと小さな胸で呼吸する四十雀でだった。やがて彼が落ち着くと理由を話しはじめた。


「……きっかけはリリス様がまだ若かった頃のことです。神様に言われて、最初の人間アダムと結婚したのですが、夜の営みが上手くいかなったのですよ」

「何それ、どっちが悪かったの?」 


 興味ありげに絵美が乗身を乗り出してきた。


「えっと、聞くところではリリス様が上に乗ってエッチをしようとしたのですが、アダムがそういうのは嫌だって断ったのが最初だったようです」

「……それ、体位が気にくわないってことじゃない。男の身勝手よ」


 唇を尖らせて和美が不服そうな顔で言った。まあ、彼女からしてみれば当然だろうなと四十雀はちょっと思ったが、そこは黙っておくことにした。


「まあ……なんていうか、今風に言えば『性の不一致』ですねえ。それでリリス様はアダムと離婚されたのですし」

「……」 


 絵美も和美も複雑そうな表情をしていた。『性の不一致』といわれても、二人ともそれほど性経験が豊富というわけではないし、結婚経験もあるわけじゃないからだ。


「平たく言えば相性が悪かったのですよ」 

「……でもお二人の相性が悪かったからって、私たちが悪者扱いされるいわれはないわ」

 

 言い直した四十雀に和美がつっかかってくる。


「ま、まあ。そうなんですけどね。離婚した腹いせにアダムと神様が、リリス様に悪い噂を流したからなんですよ」

「とんでないわ! いい迷惑だわ! 神様とアダムに抗議よっ!」

「アダムはもういらっしゃらないし、神様だって事情は知ってるんですよ……」

「……じゃ、誰に文句言えばいいのよっ! 理不尽じゃない?」


 いきりたつ和美に四十雀はため息をついた。

 理不尽なことは百も承知。でも悪い噂はあっという間に広がるのだ。今さらあれこれ言ったところで遅いし、意味がないのだ。


「……和美様。わかってるんですよ。でもね、悪い噂ほど広まるし、尾ひれがつく……そんなものなのですよ」

「じゃ、どうすんのよ! 四十雀! 絵美もなんか言ったらどうなの?」


 突然、自分自身に意見を求められて、眉をひそめた絵美。瞳をくるくるとさせたかと思ったら、四十雀が思いもしなかった答えを返してきた。

 

「……えっと……。私たちサキュバスがいいことをしてくしかないんじゃない?」

「いいことって……あっ! そっか! 恋愛相談室もそうだねっ!」


(へえ〰〰。絵美様……たいしたものだな。我々が何千年もかかって出した答えを、瞬時に出されたぞ……。千秋お嬢様が好きになるのも当然か……。和美様もすぐ具体例が出てくるあたり……ひょっとしたら、このトリオは淫魔界最強の組み合わせかもしれない……)


 手を取り合って、意気投合している2人を眺めながら、四十雀はこの先のことを考えると楽しくなってくるのだった。

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