表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/21

第16話 バレーボール地区大会

風邪ひいて熱出てました……。

原稿、遅延ぎみです

「……さて。 そういえば今度の土曜は地区大会があるんだったな」


 暗い並木道を歩きながら、男はブツブツ言いながら手帳をめくった。


「しょうがない……。ああ言っちゃった手前、実力を確かめに行くか……。 ほんとは用事があるんだけどなあ……」


 そう言いながら手帳に何か書き込んで、彼は足早にその場を去って行った。

 

***


 今日はいよいよ宿敵・富士見高校との対戦だ。


 市民体育館のギャラリーで、千秋たちは前の試合が終わるのを待っていた。


「やあ……。お前たち。いよいよ永遠のライバルと対決だな」

「あれ? 後藤先生? 顧問でもないのに、どうしてこんな処に来たんですか?」


 千秋は驚いて後藤に尋ねた。

 まさか担任が地区大会を見に来るとは思いも寄らなかったからだ。


「おまえら……。あのな。これでも俺は担任だぞ? 伝統ある女子バレー部のエース達が3人もいるクラスのな!」

「ええ〰〰。 負けてもクラスのみんなにバラさないでくださいよっ」


 思いっきり不服そうにほっぺたを膨らませる千秋。


「くすくす……。 千秋さんも可愛いとこあるんだね」

「え? え? 佳之くんまで……」


 佳之に可愛いと言われて、思わず千秋は赤面してしまった。

ほんのつい最近まで好きだった人に言われれば、悪い気はしない。

 

(あれ? 私、佳之くんに声かけられて、ドキドキしてる……)


「ん? 佳之くん、珍しいじゃない?」


 にやにやしながら和美が千秋の脇腹を突いてくる。


「なんせ、千秋さんたちも今年が高校最後じゃないか……。 2年の時からおんなじクラスだったんだし、応援しないと……ね」

「で? 佳之くん自身はどうなのよ? 県大会あるでしょ?」


 そう。彼自身も剣道の大会があって、今は忙しいはず。

 こんな時期に応援しに来てくれたのは嬉しかったが、唐突すぎた。


「ん……。 僕の方は、ま、何とかなるでしょう……」


 曖昧に返答する佳之に和美は違和感を持った。


(なんか変な感じ……。 千秋は……浮かれてるわね)


 未だに顔を紅潮させて、後藤先生や佳之くんと話している千秋……。

まあしかたないかなと、和美は思った。


***


「きゃあ――――!」


 バシン! とコーナーの際にスパイクが決まる。


 すでに千秋たちは1セットとられ、2セット目も10点ほど先取されていた。

高校バレーは3セットマッチなので、もう後はなかった。


「千秋! ほら、そっちにボール行ったわよっ!」

「あ、千秋先輩…… それ、まずいよ」


 千秋のレシーブで、ボールがあらぬ方向へ飛んでしまう。

慌てた絵美がボールを追いかけ、球を何とか相手コートへと返した。

 不安定な状態から返したボールは、いい餌食になる。


スバ――ン! 


 再びスパイクを打ち込まれてしまう。


 千秋は攻防の要であり、司令塔だった。

その司令塔が集中力を欠いてるのでは負けてしまう。


「タイム!」 和美が審判にタイムアウトを宣言した。


はっはっはっ……。 メンバーの息が息が上がっている。


「…………千秋、いったいどうしたの? 貴女らしくないじゃない?」

「……わかんないよ、和美……」


(最近の和美って……輝いてるんだよね。 私なんかには……)


 思ったよりも身体を動かせない自分が、千秋は悔しく思った。

 

「どうする? 千秋」 

 

 さらに問い詰めるかのように和美が迫ってきたように感じられる。


(いやだ、そんな目でみないで和美……。)


 思わず千秋はその場で頭を掻きむしりたくなった。

 

 ここのところ、ずっと千秋が不安に思っていたもの。 


 それは焦り――― 焦燥だった。

 

(絵美も和美もサキュバスにしたのはいいけれど……。 なんで……。

 なんで私だけ、サキュバスの力が伸びないの……?)


 なにか黒いモヤモヤしたものが、千秋に覆い被さってくるように感じられた。

 押しつぶされそう……。


「千秋先輩?」 


 絵美の声かけにも応えずに、千秋は頭を抱えてしまっていた。

絵美が肩をすくめると、見かねた四十雀が念話でそっと声をかけた。


『お嬢様……? 何に困っておいでなのですか? 和美様も絵美様も困ってますよ?』

(…………るさい…………。)

『…………お嬢様』

(うっるさい! っるさい! うるさい! どうせ私なんか何もできないわよ!)

『いったい何をおっしゃってるのですか?』


 強烈な千秋の念話は血の盟約を結んだ絵美や和美にも聞こえた。

 

「………………どうかしたんですか? 千秋先輩……」


 絵美は千秋の両肩を掴んで揺さぶった。


「千秋先輩っ! しっかりしてくださいよっ! 今は試合中ですよっ!」

「…………そう……私、何もできないし…………最弱だから」

「そうじゃないですよ! 約束したじゃないですかっ! 私たちとっ!」

「約束…………?」

「…………もうっ!」


 絵美はそっと千秋を抱き締めて、耳元に優しく囁いた。


「千秋さん…………。 ずっと3人一緒だって約束したじゃないですか……」

「…………」


(そうだったわね。でも私……置いてきぼりだ)


 少し両手をほどいて、絵美は千秋の瞳を見つめた。


 千秋の瞳には目の前の絵美が映っていなかった。 

きっと何も……千秋自身すら見えてないのかもしれないと、絵美は思った。 


(先輩、千秋さん……。 ううん。私の千秋……。 

 何を苦しんでるか聞かないけど、苦しむのも一緒だよ)


 絵美は意を決して、苦しんでいる千秋の頬を優しく撫でた。

 そしてそのまま千秋の唇に自分の唇を重ね合わせた。


「ん……んっ――」


 不意に絵美から唇を奪われて、何が起きたかわかかずにきょとんとしている千秋。

 

「きゃ――――!キスしてるっ」

「レズよっ! あの2人レズよっ!」

「え〰〰。気持ち悪い〰〰」

「お、女の子同士で〰〰」

「あの2人、できてるわっ」


 近くで見ていた部員達から、悲鳴やら非難やら罵倒やらが聞こえてきた。

でも絵美はそんなのは気にしなかった。


  彼女にとっては目の前にいる千秋が全てだ。


「千秋さん……? 試合に負けたら、私と一緒にいる時間減っちゃうよ? 私、そんなの嫌だよ……。 ね? 一緒にいるために頑張ろうよ……」

 

(そうだ……。 この試合に負けたら、私、バレー部を引退しちゃうんだ)


 千秋は思い出す。

 1年の頃に、和美に強引に誘われた日を。 

人間界に降りて、最初にやったスポーツ……。 それがバレーボールだった。

やりはじめた時はボールも取れなくって、和美と特訓したことを……。

2年の時には嬉しかったこともあった。 それは地区一番の名セッターと言われたこと。

 

 千秋は思い出す。

 絵美から告白された時のことを。

和美に頬を打たれたことを。

……そして、3人で永遠に一緒にいることができるように、と盟約を結んだことを。


「千秋さん……。 一緒にいようね♡」


 最大級の愛情が込められた、絵美のたった一言。

 その一言で、千秋は目の前が明るくなった、気がした。

 

(ああ、私、忘れてたよ……。 恥ずかしい……何を血迷ってたの? 絵美や和美たちを今助けないでどうするの? 私っ) 


 そう。私はセッターだ。

ここで私が頑張らなきゃ、和美や絵美、付き合ってくれた部員達に悪い……。

 

「絵美……。ありがと♡ 目が覚めたよ」


 千秋は絵美の頬に軽く接吻した。


千秋が見据える瞳の向こうには、富士見高校の選手達が立っていた。

 

***


 佐久間学園の逆転劇で市民体育館は沸き立っていた。

 

 相手に1ポイントも許さない守備と正確無比な攻撃。

千秋本来の―― サキュバス本来の機敏な動きが、大逆転に繋がっていたのだ。

 

「……さっきの強烈な念話。 発生源は芳村千秋だね……」

「そのようだ。 反応したのは2年の一条絵美と部長の宮脇和美か……」

「この念話はサキュバス特有だね。 この3人で決まりだね……」

「排除しますか……」

「もちろん。 手伝ってくれよ」

「はい。承知しました」


 大逆転劇が目の前で繰り広げられている最中、彼は誰にも気がつかれることなく体育館から、そっと出て行った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ