第15話 嵐の前ぶれ
少し短めですが、区切りが良いので……。
「さあ! 明日はいよいよ、富士見高校との対戦だよ。 みんな一丸となって頑張ろうっ!」
「お——!」
部活の終わり際に、和美がバレー部部長らしく部員たちに声をかけた。
いよいよ明日は宿敵・富士見高校と対決だ。みんな明日の試合のために頑張ってきたのだ。
千秋も明日に向けて、英気を養おうといそいそと帰り支度をしていた時。
「おおい。 千秋、ちょっと……」
「何よ? 和美。 前祝いにスタバでも行く気なの?」
「ん——。 それも魅力的だけどさ、ま、ちょっと……」
いつになく歯切れの悪い和美。
所在無さげにチラチラと、千秋に視線を送っている。
「ちょっとって何よ? 和美……きになるんだけど?」
「え、えっと……さ。 今日、『特殊訓練』しない? ほら、この子たちも一緒に……」
和美が『ほら』と促すと、後ろから北村さんと2年の荒木さんが顔を見せた。
「え? や、やよいさん……。 部長の言う『特殊訓練』って、何するかわかってます?」
北村やよいは千秋と同じクラスだ。
長い黒髪でスタイルもよく、メガネをかけているが美人だ。 成績もいい。
ただ…… 割と大人しめなタイプなので、過激な『特殊訓練』はいかがなものかと……。
「も、もちろん。和美さんから聞いてますし……大丈夫……です」
「はい!千秋先輩っ、 私たちも是非お願いしますっ!」
か細く答える北村さんと、正反対に元気よく答える荒木さん。
「あ、この2人、大丈夫だよ?」
「大丈夫って和美……。 うちらの事、バレちゃうじゃない」
千秋は目の前にいる2人に聞こえないよう、和美の耳元で文句を言った。
「ほんと大丈夫だって…。だって私が結構前に2人とも教えたんだから……」
「……教えたって……まさか!」
「大丈夫大丈夫。私が教えたのは”女の園”の方……」
元から和美が女の子が好きだってことを、千秋は忘れていたのだ。
思わず呆気にとられてしまった。
「…………和美……」
「だってさ、私たちも精もらえるし、彼女たちにも少しだけどパワーあげられるんでしょ? エッチすると……」
千秋の耳元に甘い吐息をかけながら、そんな提案をしてくる。
「それはそうなんだけどさ、和美。 いくらなんでも大事な大会前にやることないでしょ?」
「……逆。大会前だからだよ、千秋」
そう言って悪戯っぽく笑うと、和美は待っていた2人のところへ向かった。
そんな後ろ姿を見ながら、千秋は1人、小さく独り言を呟いた。
「全く……。どっちが元のサキュバスなんだか……」
***
「ここが千秋先輩の家ですかあ………」
バレー部の北村さんと荒木さんが古アパートを見上げていた。
「……みんな同じ反応するのね」
「だって千秋先輩って、もっとお嬢様だとばっかり……」
ポニテールの頭を掻きながら、しまったなあという表情をしていたのは荒木さんだ。
これに対して、北村さんはメガネを人差し指でクイっとあげると、ため息をついた。
「はあ……私は千秋さんがご苦労されているって知ってました……」
「……ま、いいや。中にどうぞ」
部屋を開けるといつものように四十雀が出迎えた。
『あれ? お嬢様、いつもより増えてますね?』
(和美が連れてきたのっ……。 これから『特殊訓練』するからっ!)
『……。 承知しました』
四十雀はきっと何かあったのだろうと感じた。
ただここで何か言っても、彼女の感情に火に油をそそぐ事になるのは百も承知。
しばらく黙って、成り行きをみようと四十雀は考えた。
いつの間にか6畳間では、北村やよいと荒木ゆりが視線を妖しく絡ませていた。
ゆっくりメガネを外すやよい……。 お互いに吐息がかかりそうなくらいに近づいていく。
そんな2人の様子をみてる千秋に、後ろから絵美が抱きついてきた。
「きゃ! 絵美ちゃん……びっくりしたよ」
「ね? 千秋先輩、さっきから難しい顔して何を悩んでるんですか?」
絵美の千秋の甘えた声が耳元に囁いた。
(絵美は優しいな……やっぱり。 気がついてくれたんだ)
漂ってくる絵美の甘い香りと体温が、千秋にはとても愛おしく思えた。
やよいたちの方は、もう畳の上で3人で絡み合っていた。
いつの間にか、和美が彼女たちに混ざったようだ。
(今は……絵美ちゃんと愛し合って、楽しもう……)
絵美の頬に、千秋が軽く口づけをする……。
それを合図に2人は強く抱き締めあい、愛を確かめあった。
***
カツコツカツコツ…………。
もう学園を閉める時間に、その男はある部屋へ向かっていた。
男はその部屋の前で立ち止まると、扉をノックした。
「入りたまえ」
部屋の奥から低い声がする。
男が黙って部屋に入ると、その部屋の床一面に魔法陣が描かれていた。
男にとってその光景はありふれたものだった。
「まあ、まずは報告したまえ」と、奥の方で座っている人物が言った。
「はい、ご報告させていただきます。 学園内にサキュバスがおそらく数匹います」
「……ほう。 で、どうするつもりなのかね?」
男は少し考えて答える。
「サキュバスたちは、必ず排除してご覧に入れましょう」
「……ほう。 それでは良い結果を待っている」
「はっ。 失礼しました」
男は部屋を出ると再び、人気のない廊下を歩いていったのだった。




