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第13話 相談室での初仕事(1)

「千秋さんたち、どうぞ。ちょっと汚いですけど」

  

 放課後、副会長が案内したのは、以前、生徒会室だったところだ。

ここは10平米くらいの大きさで少し狭い。

何でも5年前に手狭になったため、今の生徒会室へ移動したらしい。


 放置されていたので、少し埃っぽいが掃除すればなんとかなるはずだ。

窓の傍らにはソファーが3つほど置いてあるし、テーブルもある。

これなら相談しに来る人も安心できるだろう。


「千秋さん、ここでいいですか?」

「はい。陽子さん、ありがとうございます」

「そう。よかった。 なかなか静かな場所ってないものね」


 にっこりと微笑む副会長。


「ありがとうございます。陽子さん。 私からもお礼を言わせてください」


 体育会系らしく和美が深々とお辞儀をする。

 

「和美さんまで……。私ができるのは、後、先生方にお話通すくらいですわ」 

「わあ。そこまで言ってくださるなんて……。あのう〰〰。 この相談室で相談される方から、金銭をいただいてよろしいでしょうか?」


 こわごわと千秋は副会長の顔を伺った。

 そして思わずゴクリと唾を飲む……。

 千秋にとってはわずかな金額でも死活問題だ。

 

 陽子は少し考えるように小首を傾げていたが、にっこりとして千秋を見た。

 

「大丈夫だと思いますよ。 だって購買部も生徒会運営でお金を取ってますからね。 学生で払える金額ならよろしいと思いますよ」

「わ。ありがとうございます。 助かります!」

「うふふ。 千秋さん、ご苦労されてるんでしょ? 貴重な時間をさいてくださるのだから、そのくらいはかまいませんよ」

「本当にありがとうございます」


 千秋がお礼を言うと、陽子は軽く会釈をして静かに扉を閉めた。


「さてと、お掃除しましょうか。千秋先輩、和美先輩!」

「よっし! それでは部活がはじまる前に整えよう!」


和美の号令で、千秋たちはあっという間に部屋を片付けたのだった。

 

***


「で、彼氏がエッチを強要してきたのね?」

「……はい。 そしたら、彼に思いっきり殴られて……」


 彼女は小野恵美子。1年生。


 副会長が最初に連れてきてくれた恋愛相談室の最初のお客様だ。

彼氏に顔面を殴られて、目の周りにクマができてるのが痛々しい。

 

 何でも彼氏がデート中にしつこく肉体関係を迫ってきたそうだ。

それを恵美子さんが拒否したら、暴力を振るわれたのだ。


 相手は同じ学園の2年生だ。


「酷いよねえ……痛かったでしょ? 恵美子さん」

「…………はい。でも彼が忘れられなくって……時々すごく優しいんです」


(ちっ! そんなのはDV野郎の常套手段なんだよ。 騙されるなよ)


 千秋は心の中で毒づく。

 しかし、そんな思いを表情には出さずに、千秋は心配そうに尋ねた。

 

「その後は? 恵美子さん……」

「はい。SNSの着信もメールも拒否してるんですが、自宅まで押し掛けてきちゃって。私、どうすれば……」


 恵美子の瞳から涙が次々と溢れてくる。


「うん……。 大変だったね、辛いよね……」

 

  絵美は彼女にハンカチを手渡しながら、背中をさすってあげている。


「和美、ちょっといいかな?」

「ん? そばにいてあげなくっていいのかな?」

「それは絵美に任せておこうよ。 絵美、ちょっと席外すね」

「はいわかりました、千秋先輩」

 

 千秋は和美に外に出るよう指で合図すると、和美は頷いて先に相談室の外に出た。


「ねえ、千秋。さっき心の中で、DV野郎がどうのこうのって愚痴ってたでしょ?」


 おかしそうにククっと笑いたいのを抑えている和美。


「あれ? 私の心の声、聞こえたの?」

「うん。聞こえた。四十雀ちゃんに対する口調と同じで笑っちゃいそうになったよ〰〰」

「わ、笑わないでよ。 それはともかく、どうしようかと思ってさ……」


 何だか奥底を覗かれたような気がして、顔を紅潮させながら、千秋は和美に尋ねた。


「彼氏のこと? それとも本人のことかな?」

「……両方だね」


 う――――んと和美は唸った。


 きっと和美のことだから、男をぶっ飛ばしに行こうって言い出すだろうと、千秋は思った。

 

でも、和美から帰ってきた答えは意外なものだった。


「ねえ……。千秋、私たちってサキュバスだよね? サキュバスの力で、できることってないかな?」


(まあ……。 和美は嫌がるかなあ)

 

 サキュバスの能力は《吸精》と《魅了》と《記憶操作》だ。


 《吸精》には強力な順から、性的接触・口づけ・皮膚の接触だ。

どれも女の子好きな和美にはハードルが高いように千秋には思えた。


《魅了》は相手を見て、念ずるだけで相手を心身をコントロールできる。


問題は《魅了》した後だ。


下手をすると、DV野郎がずっと和美たちにつきまとうかもしれない。

そうなったら面倒だ。 


 《記憶操作》を行うには高度な技術が必要だ。

これは千秋自身が仕上げに、DV野郎と恵美子に施してやろうと考えていた。


DV野郎は恵美子の存在を忘れてしまうように。

受けた暴力も、仲がよかったこともなかったことにして、恵美子を助けるために……。

 

「ねえ……。 千秋、悩んでるんでしょ? 素直に四十雀ちゃんの意見を聞いたらどうかなな?」

「…………そうだね。おい! 四十雀! 出てこいよ」

「わあい! 四十雀ちゃん、教えてね」

 

 ひょいと出てきた四十雀をすかさず抱き締める和美。


『和美様、こんにちは。 で? なんですか、お嬢様……。昼寝してたのに』

「なんで今更、念話使ってるんだ?」

『ここは学園の中ですよ……。お嬢様……。小鳥が喋ってたらおかしいでしょう? 

だから私はお嬢様と和美様、絵美様だけに聞こえるようにしてるのに……まったく』

「ちっ! じゃ、これは中にいる絵美ちゃんにも聞こえてるんだな?」

『さようです』

「で、四十雀、確認なんだけど、和美たちって《吸精》と《魅了》使えるよな?」

『使えますよ。もちろん』

 

「ねえ。四十雀ちゃん、《吸精》とか《魅了》って何?」

『ああ、和美様。《吸精》ってのは、皮膚や性的接触・口づけ等で、相手から精力を取ることです。 《魅了》は、相手を誘惑して思い通りにする手段ですよ』

「げ! 《吸精》ってのがえげつない……。女の子ならともなく男になんかできないよ〰

〰」


(和美には《吸精》は無理そうだね。 絵美ちゃんだって、やりたくないだろうし……)


『いい方法がありますよ。和美様』

「「え? いい方法があるの?」」


 千秋と和美は思わず大きな声をあげそうになった。

 

「あ、ごめん……。恵美子ちゃんに聞こえちゃうとこだった。 四十雀、続きを……」

『和美様も絵美様も、お嬢様とよくプレイされているので魔力が高くなっています。

わかりやすく言うと、エロ指数が高まってるのですよ』

「え〰〰。エロ指数って……。 なんか私がエロいみたい」


(その辺の生粋のサキュバスより、ずっと和美の方がエロ体育会系じゃない……)


「ん? なんか言った? 千秋」

「い、いや。なんでもないよ、あはは……」


 和美にジト目で睨まれる千秋。


『えっと、平たく言うと、和美様も絵美様も、もう《吸精》は肌に触るだけで、相手の精力を奪えるってことです。ちょっと睨めば、《魅了》も充分できます』

「へえ〰〰。じゃ、男を完全にダウンさせるには?」

『男性だったら、ズボンの上から股間に触れればノックアウトでしょうね』

「よし! いいこと聞いた! 潰せばいいんだな? 四十雀ちゃん」

「か、和美……。アレを潰したらダメだから。タッチだけだよ、タッチだけ。潰したら傷害事件になっちゅうよ?」


 本当に男性のアレを潰しかねない和美に千秋は慌てた。


「ちぇ〰〰。残念。でも、私も絵美ちゃんも、サキュバスとして戦力になるって聞いて安心したよ。ありがと。四十雀ちゃん……ちゅっ!」


 和美はそう言って、胸元に抱き締めている四十雀にキスをした。

 

「な……。四十雀っ! 和美から離れなさいよ! 和美も和美よ! そいつを甘やかしちゃダメ!」

「別にいいじゃない、千秋……。 妬いてるの?」


 意地悪そうにニヤリとする和美。


「もう……。じゃ、今回は和美が野郎を撃退して。四十雀は和美のサポートに回って。 私と絵美ちゃんが恵美子ちゃんをサポートするから」

「了解っ! 千秋。じゃ、ご本人に説明して初仕事しようか?」


 和美はにやりと笑って、相談室に入っていったのだった。

長くなりすぎたので分割しました、

それゆえ今回は日常回ですね

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