第12話 特殊訓練と恋愛相談室公式開設
*微エロがあります
「ほら、絵美と千秋、行くよ!」
ダ――――ン!
ネット際で高くジャンプした和美のスパイクが決まる。
ちょうど一通りの練習を終えて、猛特訓と称して紅白戦をしているところだ。
「ちょっと、和美。あんなぎりぎりじゃとれないよ」
「何言ってるのよ! 千秋。敵は富士見高校だよ。きわどいコースを狙ってくるに決まってるじゃない」
「むぅ……そっちのメンバー、最強じゃないですかあ。部長。 こっちは1年生中心なのにぃ」
「そ、そりゃあ、そっちは次期主力の絵美ちゃんと、名セッター千秋がいるから、1年生も成長してくれるかと思ってさ。 強いチームと対戦しないと強くなれないよ」
(それはそうだけどさっ。 このチーム編成は私と絵美ちゃんを特訓するためじゃない。 もう疲れたよ……)
千秋は心の中で独りごちた。
わが佐久間学園女子バレー部はこの地区でも名門で知られている。
地区大会では常にシードにいる。特に富士見高校とは地区大会で1、2位を争っているライバルだ。
去年は地区大会3位という不本意な成績だったし、今年、和美は高校最後の地区大会となるので、どうしても必死になるのは当然だった。
「よおし! もうワンセットね! みんなっ、ファイ!」
キンコンカンコ――ン、キンコンカンコ――ン!
和美が汗を拭いつつ号令をかけると、ちょうど体育館の使用時間の終わりを告げるチャイムがなった。
「ちぇ、もうちょっと練習したかったのに……」
未練がましく体育館の時計を眺める和美。
「はああ、助かったあ」
「ほんと死ぬかと思ったよ」
一方、チャイムを救世主の如く、みんなは褒め称えていた。
そして早々に後片付けをしていると、和美は千秋と絵美に声をかけてきた。
「千秋ぃ、絵美ちゃん。ちょっといいかな?」
「……何だか嫌な予感しかしないわね、絵美ちゃん……」
「ええ……。 ほんとに……。居残りでしょうかね?」
絵美と千秋がひそひそと話していると、和美がやってきた。
「千秋、絵美ちゃん。これから千秋のうちで『特殊訓練』するから。 あ、体操着は着替えないでそのままね。校門前で待ってるよ」
一方的にまくしたてると、和美はそのまま体育館を出て行った。
「絵美ちゃん、どういうことだと思う? うちでバレーの練習とかできないよ?」
「そうですよねえ、フォーメーションの研究でもするのかな?」
2人で首を傾げながら、和美の待つ校門へ向かうと、和美も着替えないまま待っていた。
「ねえ、和美。うちでバレーの練習なんてできないよ?」
「うふふ。千秋のうちに着いたら、教えてあげるよ」
「え〰〰。疲れているのに、勘弁してくださいよ。部長ぉ」
「そのうちわかるから……」
「え〰〰着替えたいですよ、和美先輩っ。汗臭いです」
「それはダメだよ、絵美ちゃん。そこが一番大切なんだから」
「わけわかんないですよ、和美先輩……」
『特殊訓練』が気になる2人は、いろいろ聞いてみた。
それでも和美は「着いたらわかる」の一点張りだった。
***
「着いたよ、和美」
「ん……。とりあえず座ろう」
鞄を置いて、とりあえず3人でちゃぶ台を囲んだ。
「もうちょっと2人とも近くに来れないかな?」
和美が自分の両脇の畳をポンポンと叩いて、手招きした。
2人とも和美の側に近寄った。
「でも汗臭くない?和美」
「私もベタベタぁ。お風呂したいです。和……きゃ!」
いきなり和美は両脇の絵美と千秋を抱き締めて、クンクンと鼻を鳴らした。
「……ぷはあ。いい匂いだあ〰〰。この女の甘酸っぱい香り……。そそられるよ」
はぁはぁ言いながら、交互に千秋と絵美の胸の膨らみに顔を埋める和美。
「ん……。か、和美。そ、そこは……」
「あふ……。和美先輩ったら、千秋先輩と同時に責めるなんて……」
和美は絵美の胸の膨らみに触りながら、千秋の耳に甘い吐息を吹きかけた。
「はぁはぁ……。絵美ちゃんも千秋も……しよ?」
「んぁ……いいよ。和美……」
「わ、私も……」
3人とも四肢が弛緩してきて、汗ばんだ体操着から甘い香りが漂っている。
「……し、四十雀ちゃん? あ、あなたもよ……見てないで一緒に、ね」
四十雀はリリスに睨まれたかのように身を細くしていた。しかし、瞳を妖しく揺らめかせている和美の迫力にまけて、彼女たちに近寄っていった。
「あのう……私、口と足しかないですが……」
「んっ……それで充分よ、四十雀ちゃん、お・ま・か・せ」
彼女たちと1羽は、しばらくアパート中に嬌声を響かせた。
***
気がつくと2人と1羽は、布団の中で仲良く抱き合って寝ていた。
「で、和美……。このどこが『特殊訓練』なの?」
布団の中で千秋は1人、頬を膨らませて和美に抗議をする。
「え? 今、説明したよ? エッチは足腰と持久力を鍛えるのにいいんだよ」
「ふああ……ほんとですか? 和美先輩……。 気持ちよかったけど、すごく疲れましたよ」
「ほ、ほんとだって……」
頬をかきながら困ったように返事をする和美。
「おい! そこのヘブンに逝ってる鳥頭! 何とか和美に言ったらどうだ?」
「ほへ……か、和美にゃん……」
四十雀はお腹を出して、気持ちよさそうにしていた。
とっくに天国へ召されたようだ。
「ちっ! 他の女といちゃつきやがって! あとで覚えておけよ、四十雀!」
「うふふ。千秋先輩ったら、四十雀ちゃんに嫉妬かな?」
「ち、違うわい!」
そっぽを向く千秋をみて。絵美は楽しそうに微笑んだ。
「で、真面目な話、今後この『特殊訓練』をやっていくんだよね?」
「ああ、そうだよ。千秋。こうすれば本当に持久力がつくし、一石二鳥だよ?」
さんざんした後だというのに、生き生きと目を輝かせている和美。
この行為こそ、足腰と持久力を鍛えるものだと確信している目。
そんな彼女を見て、千秋も絵美もため息をつきながら了解した。
***
「ところでさ、千秋、恋愛相談室開設するんだよね?」
帰り支度をしながら、和美はもう1つの心配事について尋ねた。
「え。ええ。ちょっと私に任せて。当てがあるからさ」
「ほんとに手伝わなくっていいんですか? 千秋先輩」
「私、一応、生徒会執行部よ。まかせてよ」
「「え? そうだっけ?」」
和美は思わず絵美と顔を見合わせて驚いた。
「失礼ねえ、2人とも。ま、幽霊役員だけどね……あはは」
苦笑している千秋をみてると不安になる和美だった。
***
翌日の昼休み、千秋は伊藤陽子に会いに生徒会室を訪れていた。
伊藤陽子は生徒会副会長であり、名実とも生徒会ナンバー2だ。
この学園は『自由自治』を校訓としていて、生徒会に学園の運営の多くを任せている。
このため生徒会が了承すれば、恋愛相談室のようなものも公認のものとなるのだ。
そのためには、生徒会で一番発言権を持つ、伊藤陽子を説得するのが一番だと千秋は判断したのだ。
「伊藤さん。お願い。恋愛相談室を作りたいのだけど、よろしいかしら?」
「恋愛相談室?」
伊藤陽子は少し身長があるものの、長い黒髪と涼しげな目つきから、男子生徒に『クールビューティ』と呼ばれている。
そんな彼女が目を細めて、千秋を見る。
千秋はまるで自分の心の奥底まで見透かされるように感じながらも、言葉を続けた。
「はい……。2年生の後輩から聞いた話だと、デートの時など男子生徒が女子に暴力を振るうようなケースもありますし、別れたいけどしつこくつきまとうようなケースもあると相談を受けまして……」
「……千秋さん、それは保健室などで相談されましたか?」
「いいえ。後輩の場合は私が解決してしまいましたが、いけなかったでしょうか?伊藤さん……」
「…………いいえ。先生には言いにくいことですものね」
何かを考えているかのように、伊藤は頬に人差し指をあてていた。
「それに……女の子が好きな女子や、逆に男子が好きな男子もいると思うのです。これも相談を受けました……」
相談を受けたとか異性間暴力を解決したというのは、正直言って誇張だった。
ただ、この場では必要な誇張だと千秋は感じていた。
しかし、女の子が好きな和美のような子もたくさんいるはずだし、逆に男の子同士で恋人でいたいっていう子もいるだろう……。
私たちはたまたまお互いに偏見がなくって、上手くいったけど、そうじゃない人たちの方が多いんじゃないだろうか。
絵美が異性間暴力を受けていたことも知らなかったが、結局は彼女を助けたことになった。
「千秋さんはよくそういう相談を受けるの?」
「たまたま最近……ですが――」
これは本当だ。
絵美や和美と関係を持ってからは、自分の世界が拓けていく。
そう千秋は感じていた。
サキュバスが人間界でうまく生きていくには……。
千秋は思った。
そのためには今までのように、ただ《吸精》して奪ったり、一時的な快楽を与えるだけじゃダメなんだと。
そんなことを考えていた彼女の顔を覗き込んで、伊藤は微笑んで言った。
「……わかったわ。千秋さん。本気みたいね。 私もデート中に男の人に殴られたことがあるの……。やってみてちょうだい。応援するわ、千秋さん」
こうして、サキュバス(これは隠すけれど)『恋愛相談室』は生徒会お墨付きの組織となった。




