第11話 サキュバス恋愛相談室爆誕!
淫魔の儀が終わって、絵美も和美もサキュバスとして生まれ変わった翌日の朝。3人とも生まれたままの姿で、まどろみの中にいた。
日が高くなるにつれて、カーテン越しの日差しが部屋に入り込んでくる。
やがて日差しが、和美の顔に降り注いだ。
「……ん……」
日の光を避けるように、脇に寝ていた千秋に抱きついた。
「あん……和美……おはよ」
和美に抱きつかれた千秋は、そのまま彼女の頬に優しくキスをした。
「ふみゅふみゅ……」
「おはよ、絵美ちゃん。起こしちゃった?」
左脇にいた絵美が眠そうに目をこすりながら、上半身を起こした。
「ん――。おはようございます。千秋先輩、和美先輩」
「昨夜は、先輩方すごかったですぅ。特に和美先輩……」
昨夜の情事を思い出し、頬を紅潮させて身をくねらせる絵美。
「うふふ。私はみんなよりも先に女の子、経験してるからねえ」
「ってさ、和美、女の子と最初にこういうことをしたのはいつよ?」
「気になる? 千秋?」
悪戯そうな目をして千秋を見つめる和美。
「き、気にならないって言えば、嘘になるけど……」
「相変わらず、素直じゃないなあ〰〰。千秋は……。小6の時よ」
「「え? はやっ」」
「何、2人とも驚いてるの? 今時、その年齢でいろいろ経験しちゃうのが普通じゃないの? えっと最初はね……」
「……そ、そうなのね」
千秋たちは冷や汗をかきながら、和美の初体験の話を聞くのだった。
***
もうとっくにお昼になっていた。
「ねえ、千秋。お腹減ったね……」
和美がお腹のあたりをさすりながら言った。
今まですっかりガールズトークに熱中していたためか、時間を忘れてしまったのだ。
「いや、私は大丈夫だよ」
ぐぅきゅるるる〰〰。
「……今の千秋先輩のお腹ですよね?」
「いや、大丈夫大丈夫」
ぐるるるきゅるるる〰〰〰〰。
さっきより盛大に千秋のお腹が鳴ってる音がした。
「お嬢様、お金ないからって、我慢しちゃいけません。それともダイエットでもしてるのですか?」
「うるさいよ! 四十雀っ! 今月、もうお金ないけど水で我慢よ!」
「はぅ。千秋先輩の怒鳴り声、素敵……って、まだ昨日の食材残ってますよ、もったいない。これで作ってあげますね」
「……千秋、また金ないの?」
絵美がいそいそと台所に立って、料理を作り始めたのを横目で見ながら、和美が心配そうに尋ねた。
「ええ……まあ。ちょっと、ここのところいろいろあってから」
「あ。悪い……。私のこともあってだろ?」
「気にしないで。 いつものことだから」
明るくあはは、と千秋は笑ったが、内心は穏やかではなかった。
切実な問題としてとりあえず今夜のおかずも困っていた。
「ご飯できましたよ、先輩たち」
千秋が心の中でため息をついていると、絵美がにこにこしながら、絵美はちゃぶ台に3人分の料理を並べていた。
「すごい……。 絵美ちゃんって、料理の天才だね。 あれしか食材なかったのに一体どうやって……。それに旨い! さすが私らの嫁だね」
「えへへ。それほどでも……でも先輩たちに褒められると嬉しいな」
目の前のおかずをもりもり食べながら、和美が絵美を絶賛すると、絵美は嬉しそうに頬を赤らめた。
絵美にとっては、料理を作ることも、食べてもらうことも、生き甲斐のようなものだからだ。
「あ、四十雀ちゃんも朝ご飯、まだでしょ? 一緒にどう?」
「和美様にお食事に誘われるなんて光栄です」
和美に四十雀を手招きすると、すぐさま飛んできて、和美の肩にとまった。
「あんたねえ……。私が呼んだってすぐに来やがらないくせにっ!」
「まあまあ、千秋。あれ? 四十雀ちゃんって、ほんとはサキュバスなの?」
「和美様、なぜお分かりになられたのですか?」
「ん〰〰なんとなくかな」
四十雀はハッと気がついて、千秋の顔を見た。
「お嬢様……。これって、和美様がすでにサキュバスとして目覚められたってことですよね?」
「そういうことだな、四十雀。和美に適性あったんだろうな」
「ん? どういうこと? 千秋」
「あ。後で説明するわ。まずご飯を先にいただきましょう。せっかく絵美が作ってくれたんだしさ」
「ま、まあ、そうだな……」
和美は怪訝そうにしながらも、四十雀に食事を与えていた。
***
「あ――。 千秋も絵美も、来週地区大会だぞ! すっかり忘れてた……」
食後、絵美が買ってきた紅茶を飲みながら、和美は突然叫んだ。
「あちゃあ。すっかり色ぼけしてたよ、私……。来週も千秋たちとエロいことしてイチャイチャしようって思ってたのになあ〰〰」
「ああん。私も残念ですぅ。 せっかく手料理を皆さんに食べさせたかったのにぃ〰〰」
「え? 絵美はエロいことはしなくていいのか?」
一番エロい和美が、エッチするのは当然といわんばかりに絵美にくってかかると、絵美はさも当然のように答えた。
「え? みなさんが食べてるシーンって、エロいですよ。特に唇あたりとかが……」
そう言いつつ、妄想しているのか舌舐めずりする絵美。
彼女のよくわからない性癖は、触れてはいけないように千秋は感じたので、とりあえず聞かなかったことにした。
それよりも気がかりなのは地区大会だ。、
千秋は幽霊部員なので、今年の大会の日程も対戦相手もわからなかったのだ。
「和美。地区大会って、どことだっけ?」
「去年負けた富士見高校とだぞ。初戦敗退は避けたいっ!」
「あうう。富士見かあ。和美先輩、あそこ強すぎですよ」
「負けらんないわよ! 明日から2人とも猛特訓だから覚悟してね」
「え〰〰やだなあ」
「……バイトに差し支えるから、適当でいいかな? 和美……」
「2人とも何言ってるの? それに身体を酷使した後の方が、エロくなれるんだよ。いいぞ、疲れた時のエッチは……」
(和美……貴女ってエロ体育系だったのね……)
親友のエロへの情熱にちょっとあきれる千秋だった。
***
「ところで千秋。地区大会を乗り切るには、まず千秋がちゃんと生活できないと困るんだけど……」
そう言って、部屋の中を指さす和美。
「そうですよ、今更だけど千秋先輩。ちゃんとご飯食べてます? 前回来たときも今回も冷蔵庫の空っぽだったんですよ、和美先輩……」
「い、いや。絵美ちゃん、それはね……」
さすがに現実を見せられると千秋もタジタジだ。
「あ――。お嬢様はいつもカップ麺とパンの耳ですよ。嘆かわしい」
「へえ。四十雀ちゃん、教えてくれてありがとう」
和美の肩にとまって、千秋の情けない食事事情をリークする四十雀。
「おい! 四十雀っ! 和美たちに個人情報を教えるんじゃねえ!」
「ほらほら、千秋先輩……。 四十雀ちゃんに八つ当たりしないで。ちゃんとお金稼がないといけないんでしょう? あっ……! いいこと思いついたわ!」
急に何か閃いたと言わんばかりに、絵美は両手をぽんと叩いた。
「私たちって、サキュバスですよね? 千秋先輩」
「え、ええ、まあそうだけど?」
「千秋先輩、昨日、サキュバスのお仕事って、愛のキューピットのようなものだって、言ってましたよね?」
「まあ、ね。ちょっと違うんだけどさ……」
「だったら、学園で恋愛相談室を開きません? 千秋先輩……。 そこでお金とるんですよ」
少し前、千秋自身も学園で恋愛相談することを考えたことがあった。
学園内でサキュバスとして行動するのはかなり危険だ。直接利害関係のある人たちを相手にするから、身バレしてしまう可能性が高いからだ。
逆に絵美や和美のようにサキュバスって聞いて、怖がらない方が少ない。
「えっとね。今だから言えるけど千秋先輩とお付き合いしていなかったら、私、たぶんボロボロになってたと思う……」
いろいろ考えていた千秋に、絵美がこわごわと打ち明け始めた。
「え? どうして絵美ちゃん?」
「私と同じクラスに弘って奴がいるんだけど、そいつさ、デートのたびに殴ってきたんだ……」
(それ、ドメスティックバイオレンスって奴だ……。 エッチの時も無理矢理やっちゃうケースもあるって、保健体育の授業でやってたな……。確か、弘って奴、絵美の元恋敵逢坂さんの想い人だよね……)
千秋は現実の生々しさを垣間見た気がした。
「だから千秋先輩とこういう関係になれてよかったと思ってるんだ」
「そうだったの……絵美ちゃん」
「そういう男はダメだな、千秋」
絵美の頭を撫でながら、和美は千秋に同意を求めてくる。
サキュバスとしては事故だと考えていたけれど、実際には1人の女の子を助
けられたのかと思うと、千秋の心中は複雑だった。
それは四十雀も同じ思いだった。
「四十雀……お前、どう思う? 学園内でサキュバスとして仕事することってさ……」
もうこのとき、千秋の心は固まりつつあった。
同じ学園の子たちを助けなくっては、性愛のサキュバスの名がすたると。
「お嬢様、私は学園内で恋愛相談室なるものを作ることに賛成しますよ。 ご学友でしょう? まあ、学生さん相手ですから、程々のお値段にされればよいと思いますし」
「やった! さすが四十雀ちゃん! ありがとう。困ってる子、結構いるんだ」
「そうだね、やってみようよ。千秋。人助けできるし、貧乏から脱却できるかも」
目を輝かせている絵美はもちろんのこと、曲がったことが嫌いな和美も大賛成した。
ここに『サキュバス恋愛相談室』が誕生したのだった。