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第10話 淫魔の儀

「ねえ、絵美ちゃん、和美のことをどう思ってる?」


千秋は絵美の瞳を真っ直ぐ見て尋ねる。


「私は……まず、部の先輩として好きですよ。負けたり、上手くできなくって

も怒ったりしないし、何よりバレーが好きなのが伝わってきます」

「ちょ、ちょっと絵美ちゃん……恥ずかしいよ」


絶賛しはじめた絵美に、和美は首をぶんぶん横に振っている。

そんなことでは和美へのリスペクトは止まらなかった。


「それに部だけじゃなくって、成績も千秋先輩とトップを争うほどだし……。それに……」

「それに何?」

「それに……前から可愛いって思っていました! きゃ! 言っちゃった」

「え、え? 絵美ちゃん、そ、それ言い過ぎ。そんなに私は可愛くないって。結構がさつだしさ……」

  

 両手で目を塞ぎ、可愛く首を横に振る絵美。

 

 よっぽど恥ずかしかったのか首筋まで真っ赤にしてる。一方、言われた当の和美も耳先まで真っ赤になっている。

 

「絵美ちゃん……和美が可愛いって、それほんと?」

「……はい。だってショートボブの髪型も、華奢だけどスタイルいいし、性格明るいし。もう言うことないです!」

「今だから言うけど、私でも見とれるくらいだもんねえ……」

「そうでしょ! 千秋先輩っ。私、千秋先輩に女の悦びを教えてもらった前から、そう思ってたんです」


「え――? 絵美ちゃん……。今、女の悦びって言わなかった?」


和美は『女の悦び』というセリフに妙に反応した。


 目がランランと輝いて、ハアハアと息が荒い。

気のせいか舌舐めずりしたような気配もした。


「ど、どうしたの? 和美? 妙に興奮しちゃって?」


 試合でも見せたことがない異様な和美の興奮ぶりに、千秋はちょっとヒキながら尋ねた。

 あんまり和美とはこういう性の事を話したことはなかったのだ。

 

「……あ、あはは……。ここだけの話、実は私、レズビアンなんだ……」

「「え?」」


千秋と絵美はびっくりした。


 思い起こしてみれば、和美の彼氏の話とか、浮いた話を聞いたことがなかったな、と千秋は思った。


「あはは……。絵美と千秋がそういう関係なのは勘でわかっちゃったんだ。私自身、女の子じゃないと好きになれないし、他の女性とそういう関係持ったことあるから……」


 恥ずかしそうに俯いてた和美が、ふと顔を上げた。

そして絵美を見つめながら苦笑して、こう続けた。


「だからさ、絵美に先を越されちゃった――って思ったんだ。子どもみたいだね。あはは」


「そっかあ……。和美の気持ちに気づいてやれなくってごめんね。逆に絵美ちゃんとの関係を変に思われるのが、嫌で逃げちゃったんだ……」

「もう気にしないでいいよ。千秋……。私も素直になるからさ」


お互いを見つめ合い、手を取り合って、何やら妖艶な空気を醸し出す千秋と和美。


「むぅ」


絵美は少し不満そうに唇をとがらせてから、2人の間に割り込んできた。

 

「わ、私も仲間に入れてくださいよぅ〰〰。3人でずっと一緒にいたいです」

「絵美ちゃん……3人でずっと一緒でいいの? ほんとに?」


千秋は絵美の瞳を真っ直ぐ見つめる。


「はい……できれば先輩たちが卒業してからもずっと……」


(ああ、そっか。絵美ちゃん、私たちが卒業してからも一緒にいたいんだ……私はそこまで考えてなかったな。絵美ちゃんの方が私たちの事を考えてくれてるのかもしれない)


 千秋は絵美のその言葉を信じようと思った。

身体を許したからってだけじゃない。

一緒にいると千秋自身も心落ち着くのだ。

 千秋と付き合いの長い和美も同じだ。

ましてや千秋や絵美に自分が女の子が好きだってカミングアウトさえしてくれた。


「ねえ……和美。和美も3人でずっと一緒にいたい?」


千秋は和美が先のことをどう考えてるか、不安になって聞いてみた。


「……うん。そうしたい。千秋が進学するか就職するかわからないけれど、千秋と同じ処に行きたい。それに絵美ちゃんもだよ、一緒の処においで」

 

千秋と絵美を交互に見て微笑む和美。


 (この2人とだったら、たとえ淫魔界に戻っても大丈夫……!)


 千秋は自分がサキュバスであることを打ち明けることにした。


***


「わ……! 何それ……。コスプレ?」

「うわあ……。なんかエッチなコスプレですね、千秋先輩……」

 

 2人は目を丸くして見ていたのはサキュバスの尻尾だ。

それは管状で黒革のように見えた。


 千秋の場合、成人していないので羽はないが、尻尾だけでも自分が人間じゃないことを説明するには充分だ。 


「絵美ちゃん、和美。触ってみてもいいよ」


コスプレだって騒いでいる2人に、千秋は尻尾をくねくね動かしてみせる。


「じゃ、ちょっと失礼して……」

「きゃうん! 絵美ちゃん、や、やめて……尻尾は敏感なんだから、乱暴にしないでよ……」


 試しに絵美がその尻尾を引っ張ってみると、千秋は身悶えた。


「どれどれ……」

「ぎゃ! てめえっ……わざとやりやがったな。朝飯にするぞ!」

「はう……怒った千秋先輩、素敵。お姉様に叱られたいですぅ……」

 

 四十雀がいたすらして尻尾を突っつくと、千秋は四十雀を怒鳴りつける。

ちょっとからかってみたくなったようで、そしらぬ顔をして逃げていった。

 一方、絵美は怒っている千秋をみて、目がうるうるしてしている。


 重大なことを打ち明けたとは思えないそんな空気が漂っていた。

その原因は2人ともサキュバスの尻尾を見てもあまり動じなかったからだ。

 

「で、千秋さ。どうやら本物らしいから、千秋は人間じゃないかもだけど、それと、私たちがどう関係するの?」


目の前のくねくねしてる尻尾を見ながら、和美は千秋に尋ねた。


「そうだね……まず絵美ちゃんだけど、絵美ちゃんは前に家に来た時に私の血を舐めたでしょ?」

「ああ。千秋先輩がピーラーで指を切った時ですね」

「あの時、絵美ちゃん、めちゃくちゃエッチな気分になったでしょ?」

「ええ……まあ。えへへ」


 絵美は千秋を押し倒してエッチしたことを思い出して、太股をすりあわせている。

 

「あれって、サキュバスの血が持つ催淫作用のせいもあるけど、血を舐めるのが一種の契約なの」

「へ? 契約って……。千秋先輩が好きだから押し倒したのになあ」


 絵美が不服そうに頬を膨らませる。


「あ、絵美ちゃん。誤解しないでね。絵美ちゃんが私に好意を持っていたから血の盟約が成り立ったんだから……」

「よくわからないけど……絵美ちゃんは千秋と契約を結んだってこと?」


 と、和美が尋ねてきた。


「その通りよ。和美。あとは和美も……なんだけどいいかな? 和美と血の盟約を結んでも……ずっと一緒にいるには、これが一番なんだけど……」


 おずおずと上目遣いで千秋は和美をみた。


 親友を同じセカイに巻き込むことになる……。

それは心苦しいことだ。

けれど、親友自身が千秋と同じ道を歩もうとしているのだ。


 決めるのは本人だ。

 

「一緒にいたいな、ずっと……。でもそれって契約だよね。私たちも何かする義務があるの?人間の生き血を吸わなきゃならないとかさ」

「……和美、吸血鬼じゃないよ、サキュバスって、一応、元天使だぞ。血の盟約には2つのコースがあって、1つは隷属化、ま、奴隷だよね。2つめは私と同じサキュバスになることかな。奴隷は私に絶対服従することが義務だよ」

「奴隷だから自由なくなるんだよね……。だったら千秋と同じサキュバスの方がいいかな……私は」


 和美はさすがに察しがよかった。

 

 学園でもトップクラスの頭脳と言われるだけあり、隷属化=自由じゃないことに気がついた。

 実際、サキュバスの奴隷は永久に主のために《吸精》され続けられる存在だ。

和美がサキュバスの方を選択したのは正しかったのだ。


「千秋、じゃあ、サキュバスになったら私たちの義務って何?」

「和美……私たちサキュバスの義務はね、性愛を人間に教えることと、性愛を悪いことに利用する人たちを懲らしめることだよ」

「じゃ、愛のキューピットみたいなもの?」

「あはは。まあ、ちょっと違うけど似たようなものかな」


 千秋は苦笑しながら、自分が上手く義務を果たせてない事にちょっと胸が痛

くなった。


『そうそう。ちゃんと義務を果たしてくださいよ、お嬢様』

(うっさいわねっ! ちょっとあんたも説明してあげてよ。これから血の盟約を結ぶんだから)

『え? あんなエロいこと、できるんですかあ?』

(ちっ! 絵美ともうエッチしてるでしょ! た、たいしたことないわよ)

『声、震えてますよ……まあ、リリス様に言い訳できるのでいいですけどね。ま、説明しますね』

 

「あれ? 千秋先輩と四十雀ちゃん、何こそこそ話してるの?」

「え? 絵美ちゃん……今の話聞こえたの?」

「はい。エロいことがどうのこうのって……」


 千秋はそこかよ!、と心の中で突っ込みを入れた。


(あらら。絵美様は早くしないとまずいですね。放置すると奴隷になっちゃいますよ。血の影響がだんだん濃くなってるかも……。さ、説明してしまいます。紙面も少ないですし)

 

「さて絵美様と和美様。この四十雀が血の盟約の説明をしますね」

「「四十雀ちゃんの説明だあ。聞く聞く」」

 

 絵美と鳥好きの和美は大喜びで、四十雀の説明を受けた。

 

***


 3人とも浴室で淫魔の儀を執り行っていった。


 浴槽にはサキュバスである千秋の血液を垂らした湯が張られ、その中で3人の女性が絡まり合っていた。

 

 和美は蕩けるような表情で、千秋の指から流れている血を舐めている。


「ん……おいしいよ……千秋の指……」


 和美の舌が指全体を丁寧に舐め、時折吸った。

その舌の動きはだんだん激しく、淫靡なものになってきた。

 

「千秋先輩……やっぱり一番胸が大きいですね。うらやましいな」


 後ろからは絵美の細く滑らかな指が、千秋の前の方を這い回っている。


「ん……ダメ……絵美ちゃん……今日は儀式が先よ……」

「うふふ。そう? 千秋先輩ったらやる気満々じゃない……」

「そうだよ。千秋……女の悦びを私にも分けてよ……」


 そう言いながら、和美の肉厚の唇が千秋の顔に近づけてくる。


「2人ともこっちが先だから……もう……」


 千秋はやっとのことで蠢く尻尾を出して、絵美の臀部にその尻尾を向ける。


「まず絵美ちゃんの方からね……いくわよ」

「――――っ!」


 最初に盟約を終えた絵美は、気を失って浴槽の中に崩れ落ちた。


続けて、目の前に迫ってきていた和美の臀部に尻尾を向けた。


「次は和美だよ、痛かったらごめんね」

「ああ――――っ!」


和美は嬌声をあげながらも、倒れるところを千秋に抱き留められた。


 こうして無事にサキュバスになるための儀式も終わり、3人とも幸せそうに浴槽にしばらく浸かっていた。


最後の方、あやふやでいい加減な表現になってますがご堪忍を。

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