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断片の使徒 After   作者: 草野 瀬津璃
のんびり小休止編
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 8



・グレイ視点


 学園を出た後、グレイ達は冒険者ギルドのサランジュリエ支部にやって来た。

 ダンジョンに入るには、冒険者ギルドに登録しなくてはいけない。

 字の読み書きができないバロアのため、グレイの代筆で登録をした。

 バロアはエターナル語を流暢に話せる。グレイと同じく、母ミドーレから教わっていたのだ。そもそもミドーレは、迷宮都市ビルクモーレで、父であるフレイニールと出会った。数年いたから、彼女もエターナル語が上手だ。

 フレイニールはレステファルテ人だが、セーセレティーのほうが肌に合うようだった。


「お姉さん、全然似てないなあ」


 受付のリックが、しみじみと言う。登録作業を担当している。


「そうでしょ。仲間もそう言うわ。それにしても、あんた、優男のわりに結構強いでしょ」

「賊狩りの兄さんほどじゃないけど、そこそこやるほうだよ。藍ランクだ。どうして分かったんだ?」

「さっき、握手したでしょ。武器を持つ、良い手をしてるわ」

「へへ、そうか。そう言ってくれるとうれしいなあ、ありがとう! そうだ、もらいものなんだけど、菓子をやるよ。結構、美味いから食べてみてくれ」

「やった、こっちこそありがとねー!」


 にかりと笑い、バロアはマフィンの入った箱を戦利品みたいにかかげる。もう四十代だというのに、しぐさが子どもっぽい。


「はい、これで登録作業は終わり。銀行の登録に時間がかかるから、そこの待合室で待っていてくれ。よろしくな」

「分かったわ。それじゃあ、さっそくこれを食べようかしら!」

「賊狩りの兄さんが一緒だしな、こっちでお茶を出すよ」


 リックはそう言うと、手の空いている職員に声をかけ、次の客の相手をし始める。


「なるほど。こういう時は、愛想が良いとお得だな」


 とっくに冒険者ギルドに登録済みのスレイトは、面白そうに言った。

 スレイトも黒狼族の男だ。集落を出て、旅をしていた期間がある。彼は身分証がわりに使っていただけなのでランクは青のままだが、レステファルテでは、名前だけがひそかに広まっている。〈一撃死(いちげきし)〉や〈破壊神(はかいしん)〉とあだ名を付けられているが、容姿は不明のままだ。目撃者が死んでいるのだから、しかたがない。噂にしたって、残された死体の様子から呼ばれているのだ。

 おかげで自然とスレイトより、バロアのほうが注目を浴びている。


 マエサ=マナでは甘味は限られる。初めて食べた菓子をすっかり気に入ったバロアは、マフィンを見下ろしてうれしそうに微笑む。そんなバロアを、待合室にいる冒険者達がポーッと眺めている。

 グレイやスレイトには見慣れているが、女にしてはがたいが良いとはいえ、バロアは豊満でスタイル抜群だ。顔立ちも整っている。

 他人――というより、人間には魅力的にうつるのだと、初めて気付いた。

 その時、どたどたと階段を下りてくる音が聞こえてきた。


「グレイ、姉が来たって本当か!? っていうかお前、姉がいたのか!」


 ギルドマスターであるダコンだ。


「ん? 私がどうしたの~?」


 階段のほうにバロアがひょいっと顔を出し、驚いたダコンが足をすべらせる。


「えっ。おわあっ」


 こんな間抜けなダコンは初めて見た。ダコンがそのまま身をひねって受け身をとろうとするのを、バロアが左手を出して、軽々と背中を受け止める。

 熊のような男を、女が片手で止めたので、待合室がドヨッとなった。


「大丈夫?」

「は、はいっ」


 まるで、騎士が姫を支えるような格好だ。

 騎士がバロアで、姫がむくつけき大男・ダコンなので、まったく絵にならないが。

 ダコンは素早く姿勢を戻したが、なぜだか顔が赤い。それを見た瞬間、グレイの全身に鳥肌が立った。


「……なんだ、あれは。気持ち悪い」

「ははははっ、めちゃくちゃ面白いぞ! ひーっひっひ。帰ったらカリアナに教えてやらねえと」


 ツボに入ったスレイトが腹を押さえて、ひぃひぃ笑っている。

 バロアは不思議そうに首を傾げ、ダコンに注意する。


「足元には気を付けなきゃ、駄目だよ。それで、私に何か用?」

「えっ、ええーと、俺はここのギルドのマスターで、ダコン・セリグマンといいます。あなたの弟さんにはとても助けられているので、一度ごあいさつしたく」


 必死の形相で、ダコンは丁寧に話す。

 そんなダコンに、バロアはマスターやランクについて質問責めにする。「あれは何? これは何?」と聞いて回る幼児そのものだったが、ダコンは説明を代わろうとする職員を追い払うのだった。


     *


 夕食は、なじみの酒場レインボーガーデンにやって来た。

 学園で清掃の仕事を終えたレコンが訪ねてきたので、グレイが約束を守って、肉料理を食べさせるために来たのだ。

 皆で、大きなテーブルを囲む。バルはスレイトに持ち帰りを頼み、コウとともに屋敷で留守番だ。

 修太は椅子に座ると、左隣のレコンに話しかける。


「ここ、ソロンの親父さんの店だよ。ソロンって分かる?」

「〈白〉だろ? クラスにも二人しかいないから、覚えている」

「うん、そのソロンだよ。ここ、肉料理がおいしいからよく来るんだ」


 店員がメニュー表を持ってきてくれたので、レコンの前に差し出す。グレイが修太の右隣から言った。


「好きに頼んでいいぞ」

「ありがとうございます!」


 さすがは成長期だけあって、レコンも修太と負けず劣らずよく食べる。お互い、まったく遠慮せず、山のように料理を注文した。


「そんなに食べるの?」


 バロアが目を真ん丸にするので、グレイが頷いた。


「シューターは大食いだ。余ったら、持ち帰ればいいだろ」

「そうね。私はお酒を飲みたいな」

「俺は砂肝(すなぎも)とエールだな」


 スレイトはしぶい注文をし、グレイはいつものようにレッドサンドロザリーと焼き鳥を数本頼んだ。


「ダンジョンの散策ってどうだったの?」


 先に運ばれてきたお茶を飲みながら、修太はバロアに質問を振る。


「楽しかったよー。最難関ダンジョンっていうからどんなもんかと思ったけど、面白かったわ。スレイトが一緒だから楽よ。モンスターは、だいたい一撃で死んじゃうもんね」

「俺は市場に行くつもりだったのに、気付いたらなぜだか五十階にいた……」


 はーっと溜息をついて、スレイトはエールをすする。レコンがげふっとせきこんだ。


「は!? 五十階? 初めてで、五十階まで行ったんですか?」

「うん。グレイが地図を持ってるから、最短ルートで進んだのよ。それにグレイは昔から引きがいいから、アイテムもバンバン手に入るしね。面白かったわよ」


 バロアはけらけらと笑い、揚げた豆を口に放り込んだ。


「ダンジョン・シティーっていう所を見てきたわ。あんな場所に町を作ろうなんて変わってるわよね」

「俺の引きが良いのもあるが、姉さんの直感もなかなかのもんでな。地図を見なくても、なぜか最短ルートを選ぶんだ」


 グレイの呟きに、スレイトが遠くを見るしぐさをした。


「『街道を進めば、そのうちサランジュリエに着く』って、マジだったんじゃねえかと思い始めたところだよ」

「はあ。姉弟(きょうだい)そろって、幸運値(ラック)がすごそうだな」


 修太はついゲームを思い出して、そんな感想を口にした。ゲームのキャラだったら、カンストしていそうだ。

 レコンはなんともいえない表情をしている。


「最強のパーティじゃないですか……」

「ガクエンがお休みの日に、一緒に来なさいよ。あんた、なんか苦労してるみたいだし、貯金したら? お金はあっても困らないでしょ」

「いいんですか?」


 レコンはバロアではなく、スレイトとグレイを順に見た。二人はあきらめ顔である。


「バロアが言い出して、俺らに意見を聞くわけねえだろ」

「……好きにしろ」


 分かりにくいが、イエスのようだ。


「よろしくお願いします!」


 レコンが丁寧に頭を下げた時、ソロン・ガルフィングが料理を運んできた。


「いらっしゃい! ツカーラとレコンなんて、珍しい組み合わせだなあ。たくさん食べてってくれよ」

「ありがとう、ソロン。今日も手伝いか? えらいな」

「へへっ、どうも。冒険者志望だけど、料理は好きなんだ」

「それなら薬草学はしっかり勉強しておけよ。野草の知識は使えるぞ」

「ツカーラが言うと説得力があるなあ。困った時は、教えてくれよな。それじゃあ、また、学校でな」


 ソロンは料理をテーブルに並べ、調理場に戻っていった。クラスメイトが来たので、あいさつに顔を見せてくれたみたいだ。修太はひらひらと手を振る。

 ケテケテ鳥のハーブソルト焼きに、メウ酢漬けガショー入りのつくね、焼き鳥、スープ、サラダなど。他にも頼んでいる。食べたい人が各自で小皿に取る形式だ。


「レコンも食べろよ、このつくね、美味いぞ」

「いいのか? ……美味い」

「だろ! そうだ、バルにも包んでもらおう。すみませーん!」


 修太は店員を呼んで、テイクアウト用を追加注文する。


「おう、ありがとな、坊主。そういや、冒険者ギルドで面白いことがあったぞ。あそこのギルドマスターがよぉ」


 スレイトが披露した話を聞いて、修太とレコンはむせた。


「げほげほ、えっ、嘘だろ! マスターが?」

「ちょっ、今はやめてくださいよ。飲み込めない……っ」


 口を手で押さえ、レコンはぷるぷると震えている。

 気持ちは分かる。想像すると笑いが止まらない。

 あの熊みたいなダコンを、騎士のように軽々と受け止めるバロア。面白すぎる。それでバロアに惚れるって、なんなんだ。


「姉さんはまったく興味がねえようだがな。なかなか不気味だったぞ」


 腕をさすりながら、グレイが言う。


「バロアさん、美人だもんな。モテるのも当たり前だって」

「んむ? なんかよく分かんないけど、褒めてくれてありがとう、甥っこ! あんたはそうねえ、無愛想なとこが可愛いと思うよ」

「わざわざ褒めなくていいんで」


「黒狼族から見ると、結構、好ましいよ。なんで容姿は似てないのに、雰囲気はそんなに弟とそっくりなのかしらね。血がつながってないのに、本当の血縁者みたいよ」


 バロアは何げなく言ったことなのだろうが、修太はうれしくなって、カーッと顔が熱くなった。


「ありがとう。最高の褒め言葉だ」


 フードをかぶっていてよかった。きっと見られない顔をしていただろう。

 照れながらいそいそと料理を取り分ける修太に対し、テーブルの面々はじーっとグレイを見つめる。


「グレイはなんで横を見てるのよ」

「お前、照れるってことがあるんだな!」


 バロアとスレイトが口々に言うと、グレイは低い声で返す。


「うるせえ。黙って食え」


 修太もグレイを見てみたが、いつも通りの無表情ぶりだった。

 しかし昔なじみの二人は愉快そうに笑いだす。

 その日は、レコンから学園の話を聞きながら、遅くまで飲み食いしていた。




 第八話、終わり。

 ダコンがバロアに惚れたら面白そうだな~と思ってたら、感想で同じことを言われて笑ってしまいました。

 このシーンが浮かんで、書いてみたくなったのでそうしましたけど、くっつくかは別の話です。

 本当に、遊びのノリで書いてますよ。面白かった!

 八話は適当に書いてたので、あんまり緩急がないですが、たまには日常のんびり回もいいでしょうね。

 黒狼族の料理も出したいのですが、また、おいおいね。

 次は少しシリアス寄りにして、リックと修太の友情を書こうかな~。

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