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断片の使徒 After   作者: 草野 瀬津璃
薬師ギルドでの騒動編
73/179

 21 グレイ視点



 グレイがサランジュリエを旅立ってから、十日が経った。

 高台から作業をしている衛兵達を眺め、煙草を吸う。盗賊団のアジトは、要塞のような小規模の村だ。グレイが盗賊団の壊滅を終えたので、衛兵が後始末をしている。

 移動に四日、盗賊団についての情報収集と遠目からの調査に三日を使い、三日かけて盗賊団の壊滅と残党狩りをした。


 盗賊団のほとんどは殺したが、今回は女や子どもがいたので、無抵抗の盗賊は小屋に閉じ込めた。どこからかさらわれてきた被害者は、別の小屋で保護しておいた。

 他に残党がいないことを入念に確認してから、任務終了の信号弾を打ち上げれば、近くで待機していた衛兵が駆けつける手はずとなっていたのだ。


 衛兵によれば、さらわれた人々は盗賊の下働きやなぐさみ者にされており、中にはどこかに売られた者もいるらしい。衛兵を見た途端、号泣してくずれ落ちる者もいた。

 あとは衛兵の仕事だ。盗賊の生き残りは連行して裁判にかけ、それぞれ処罰する。盗賊が貯めこんでいた財産は没収して被害者に分配し、それ以外は国の懐に治まる。

 衛兵達も辺りを捜索し、残党がいないことを確認し終え、やっと小隊長がグレイの所にやって来た。


「グレイ殿、確認終わりました。ご協力、ありがとうございました!」


 小隊長が敬礼し、依頼終了の書類を差し出す。グレイは煙草の火を靴底に押し付けて消し、ゴミを焚火に放り込んでから、書類を受け取る。小さく折りたたんで懐にしまった。

 これでやっと仕事が終わった。

 本当は、薬師ギルドの件があるので、修太の傍にいるつもりだった。

 直近の依頼を全て断るつもりだったのに、よりによって国からの指名依頼が来たので断れなかった。紫ランクは依頼を受けるも受けないも、ある程度は自由だが、あいにくと特別なランクのために、断れない仕事というのがある。


「いやあ、さすがは賊狩りですね。この規模を短期間で、しかもお一人で制圧なさるとは……。どうです、帰りにそこの町で、(うたげ)でも」

「悪いが、急いで帰らねばならん」

「そうですか、残念ですな」


 どうせグレイが参加したって、彼らも困るだろうに。グレイは焼きかけのイノシシ肉を示して、小隊長に話しかける。


「小隊長、この肉をやるから、焚火の始末を頼んでいいか」

「えっ、いただいてよろしいんですか? 分かりました、ありがとうございます!」


 小隊長の後ろでは、部下もにやりとうれしそうにした。確認と後始末のため、近場で待機していたのだ。遠征でたいしたものを食べていないのだろう。

 すぐに帰ろうと、グレイがトランクを拾い上げたところに、トリトラのにおいがした。森の道から駆け寄ってくる。


「師匠ー! 良かった、やっと見つけました。この場所、ちょっと分かりにくくて、少し迷ったんですよね。ああもう、ムカつくことばっかり!」


 話しながら傍で立ち止まると、トリトラはイライラと髪をかき回す。そして息を整えた。午前中のスコールに降られたのか、生乾きのにおいがする。


「どうした」


 トリトラが来たので、嫌な予感がした。

 修太の傍にいるように言ったが、どうせ頼まなくたって修太の傍にいたがるトリトラだ。その修太を放ってここまで来たのだから、それなりの理由だろう。


「すみません、失敗しました。すぐに戻ってください。帰りながら説明します」

「ちょうど依頼を終えたところだ、そうしよう。それじゃあな、小隊長」

「はい! ありがとうございました、おかげで犠牲が出ずに済みました!」


 小隊長は敬礼してお礼を言った。

 衛兵達も盗賊団を討伐に行くが、いつも手が足りているわけではない。ちょうど狂いモンスター討伐で犠牲が出て、人手不足でこちらにお鉢が回ってきたのだ。今回は良い人間だったが、冒険者を格下に見る兵士が相手だと、わざわざ仕事に来たのに不愉快なことが多い。

 歓迎されても、グレイはいつもそっけない。

 返事はせず、街道のほうへと走り出す。帰路を走りながら、トリトラから事情を聞く。

 馬車に馬車をぶつけてきたと聞いて、連中の本気度がうかがえた。修太なりにがんばって防御したようだが、救助という名目の親切で近づいてこられては防げないだろう。やり方が卑怯(ひきょう)すぎる。


「お前の怪我はどうなんだ?」

「治療師のおかげで全快しました」

「あいつをかばったんなら、よくやった。お前で大怪我なら、一歩間違えば、シューターは死んでいただろう」


 グレイが褒めると、不機嫌そうなトリトラの表情が、少し和らいだ。


「はい、ありがとうございます!」


 そう返したが、トリトラはすぐに不機嫌に戻る。


「どうした?」

「確かそろそろ病院に行く日じゃありません? 薬が足りてるのかなあと、気になって。それに彼の持病にはストレスは良くないらしいのに、監禁されるってストレスフルじゃないですか?」


 健康な人間でもストレスだろうに、修太には持病があるから気を回しているらしい。


「そうだな」


 情報が正しいなら、閉じ込めるだけのようだから、まだ安心だ。相手は薬師なのだ。グレイがもっとも警戒するのは、薬()けにでもされないかということだ。知識だけ得て廃人にする方法くらい、悪党なら知っているだろう。

 トリトラがグレイの横顔をちらちらとうかがう。


「師匠、意外と落ち着いてますね」

「焦ってどうする。それでサランジュリエへの距離が縮まるか?」

「まあ、そうですけど。こういう時は、ダークエルフの旦那がいると便利ですよねえ。影を渡って助け出してくれたでしょうに」

「言ってもしかたねえだろ」


 グレイだって、怒りを感じないわけではない。怒りに支配されたら、頭の回転がにぶくなる。それで事をしそんじたら、意味がない。


「トリトラ、お前、走り通しだろう。次の町で、グラスシープでも借りたらどうだ?」

「あんな羊に乗るなんてごめんです! 一週間くらいは動きっぱなしでも、僕は平気ですよ。そうだ、師匠の(かばん)、保存袋で預かりましょうか?」

「そうだな、頼む」


 武器を手放す気はないが、トランクは邪魔だ。

 途中で休憩を少しだけ挟みながら、行きは夜に町で休んで四日かかった距離を、夜通し走って二日に縮め、サランジュリエに急いで戻った。




 冒険者ギルドに着くなり、ダコンの執務室に直行した。


「マスター、状況は?」


 ダコンの前に依頼終了の書類を置きながら、グレイはさっそく話を切り出す。


「おお、戻ったか! 進展無しだ。ウィル殿が探ってくれているが、窓のない部屋がどこか分からんらしい。警戒されていて、ブランドンの秘書にも近付けないとか」


 ダコンは話しながら書類に印鑑を押して、呼び鈴で書記官(しょきかん)を呼ぶ。すぐに現れた男が書類を引き取って退室した。これで依頼は終わりだ。後で口座に金が振り込まれているだろう。


「その秘書ってのは、薬師ギルドをしょっちゅう出入りしてるのか?」

「いや。外に見張りをつけてたが、外出も帰宅もしねえな。ギルドに部屋を持ってるようだ」

「つまり、下っ端の言う通り、ギルド内にその部屋があるのは間違いないってことだな」


 秘書が世話をしているなら、外部に部屋がある場合、出入りがないとおかしい。

 グレイはこくりと頷く。


「だいたい分かった。あのクソ野郎は、信用できる人間にしか秘密を明かさない慎重なタイプだ。そういう奴は、必ず自分の傍に宝を置いておく」

「まさか、マスターの部屋にいるってのか? 俺もあいつの所には行ったことがあるが、とてもそんなスペースはなかったぞ」

「直接、確かめてくる。隠し部屋探しは得意だからな」


 グレイは盗賊団の壊滅依頼をよく引き受けているので、ああいう連中の宝の隠し場所なんかはだいたい分かる。


「おい、直接って……」

「ちょっとあいさつ(・・・・)してくるだけだ」


 グレイが薄く笑うと、ダコンは顔を引きつらせた。


「分かりにくいようで、激怒してるようだな」

「当たり前だろうが。こんな時に、面倒な依頼をよこしやがって。俺はしばらく仕事しねえからな」

「はは、こっちにはとんだとばっちりだな。ああ、分かったよ。依頼はこっちで止めておくから、家族を優先してくれ」


 あきらめて手を振るダコンに背を向け、グレイは執務室を出る。一階に下りると、待っていたトリトラが声をかけてきた。


「師匠、どうでした?」

「薬師ギルドに行ってくる」

「僕も行きます!」

「構わんが、お前はシューターの師匠の所で待ってろ」

「ええーっ」


 トリトラは不満たらたらだが、今回は怪しい箇所のチェックだ。

 何か文句があるのかとにらむと、トリトラはすぐに口をつぐんだ。グレイが静かに怒っているのに気付いたのか、すすっと距離をとる。待合室にいた冒険者達もしんと静まり返り、こちらと目を合わせないようにしている。嵐が去るのを待っているようだ。

 その足で薬師ギルドに踏み込み、受付に向かう。ちょうど夕方の混み合う時間帯にも関わらず、並んでいた人々が蜘蛛の子を散らすようにいなくなった。受付の男はおびえて顔面蒼白だ。


「い、いらっしゃいませ……」

「マスターはいるか?」

「えっ、いえ、不在です」


 受付の目が泳いだ。マスターを守るために、あえて嘘をついたのだろう。


「マスターの執務室は?」

「教えられかねます」

「そうか。それじゃあ、訊く」

「へ?」


 間の抜けた反応を返す男の目をじっと見つめると、男はごくりとつばを飲む。


「二階のどこだ。手前? 真ん中? 奥? ――ああ、分かった」


 一つずつ単語で訊き、反応を示せば、だいたい分かる。緊張すれば鼓動が増えて、体温が上がる。そうすれば体臭が濃くなる。嘘の見分け方と同じだ。

 ブランドンが二階にいるのは知っているから、あとは部屋の配置だけだ。


「えっ、なんで! ちょっ、困ります、お客様!」


 受付の男が慌てるのを無視して、二階へ向かう。騒ぎを聞きつけ、手前の部屋から男が二人出てきた。


「なんだ、お前! マスターになんの用だ?」

「分かってるだろうに、ずいぶんなごあいさつだな」

「ここは約束のない者は入れない。お帰り願おうか!」


 グレイがぎろりとにらむと、途端に及び腰になった。


「――どけ」

「だ、駄目だ!」


 おびえながらも立ちふさがる彼らに、グレイはため息をこぼす。会話するのも面倒くさい。そのまま前に進んで、二人の腕をつかむ。


「「は?」」


 気付いたら床に転ばされていた二人は、背中から倒れたまま、ぽかんと天井を見ている。すたすたと廊下を通り抜け、ブランドンの執務室に入った。


「邪魔するぞ」

「なんだ、貴様!」


 傍にいる男が秘書だろうか。男が声を荒げると、執務机にいるブランドンが右手を挙げて止めた。


「構わん」


 扉を入って正面には執務机があり、ブランドンが窓に背を向けて座っている。

 棚が多い部屋だ。窓の下には引き出しや扉のついた棚があり、右にはクローゼットやチェスト、書棚がある。間には絵をかけており、植物も置いてある。左側は、分厚い本が並ぶ棚で埋まっていた。


「ご無沙汰ですな、今日はなんのご用事で?」


 ブランドンの白々しい問いかけに、グレイもふてぶてしく返す。


(せがれ)が行方不明でな。最後にここに来たというから、見に来た」

「ああ、あの事故は大変でしたな。しかし、行方不明? 彼は帰ったと聞いていたが」


 ブランドンは秘書を見る。秘書は肩をすくめた。知らないと言いたげだ。

 グレイは執務室の中を見回すと、あっさりときびすを返す。


「悪かったな。邪魔をした」

「いいえ、お茶でもいかがですかな」

「いや」


 手短に答えて、部屋を出た。扉を閉めると、秘書が悪態をつく声が聞こえてきた。廊下にいた男二人は狐につままれたみたいな顔をして、グレイが立ち去るのを見送る。


「なんだったんだ、あの男」

「しっ、構うな」


 ひそひそ声を聞きながら、一階に下りて、ウィルの研究室に向かう。我がもの顔でうろつくよそ者だが、周りは怖がって何も言わない。


「よう、邪魔するぞ」


 ノックもせずに扉を開けると、助手とともに部屋にいたウィルが血相を変えて近づいてきた。


「グレイさん! いきなりブランドンの部屋に行くと言うから、ひやひやしましたよ。あの……大丈夫ですか? まさか二階が血の海ってことはないですよね」

「ただの確認だと言っただろ」


 グレイはトリトラのほうを見る。トリトラはやれやれと肩をすくめた。


「そう話しましたよ。あんまり信用されてないんですよねえ」

「君が物騒なことを言ってたからでしょ」


 ウィルは言い返し、手早く茶を淹れて、テーブルに置いた。ありがたく馳走になり、喉を潤わせる。


「師匠、どうでした?」

「どう見ても、執務室だな」


 グレイが断言すると、ウィルが驚きにのけぞった。


「ええっ、どこがですか? あそこ、執務机と書棚以外、本棚じゃないですか」

「本棚の奥だ。運が良いことに、食べ物のにおいが奥に続いていたし、本棚の隙間に不自然に髪の毛が挟まっていた。扉になってるんじゃねえか」


 それから、とグレイは説明を付け足す。


「階段からおおよその距離を歩数ではかってたが、廊下の窓の位置に対して、あの執務室は狭すぎる。まず間違いねえな。あのままぶん殴って血祭りにあげても良かったが、どうせなら自滅してもらおうか。ああいう奴は、社会的に破滅するほうがこたえるだろ」


 すぐに踏み込んでもいいが、こちらに二度と危害を加える気がなくなるくらい、めっためたにしてやったほうが後々良いだろう。

 この噂を聞いた誰かが修太に興味を持っても、うかつに手を出す気にならなくなればいい。

 喧嘩を売ってきたのはあちらなのだから、これからの平和の踏み台にしてやると、グレイは目をすわらせた。


「は、はい……」


 ウィルはおどおどと頷き、助手のエスターも苦笑を浮かべた。


「さらっと怖いことを言いますわねえ」

「皆殺しにしないだけ、優しいだろうが。あの野郎、誰に喧嘩を売ったか、思い知らせてやる」


 ウィル達は青くなって、グレイから離れた。トリトラだけ平然と問う。


「それで師匠、何をすればいいですか?」

「あの野郎の手で、シューターを連れてこさせる。その準備だな。おい、お前も手伝えよ」


 声をかけられたウィルはビクッとし、複雑そうに呟く。


「なんでだろう。こっちのほうが正しいはずなのに、犯罪に加担(かたん)してる気分……」

「やるのか、やらねえのか、どっちだ?」

「手伝います! やりますとも!」


 叫ぶように返し、ウィルは腹を決めて憤然と袖をまくる。その姿に、助手達もやる気を見せた。

 グレイが作戦を話すと、いっせいに準備にとりかかった。




 ああー、つい書いてしまいましたー。激おこグレイさんでした。次回が大暴れかな? 


 一応、こじつけがましいですが。

 グレイが出かけてたのは、王都を東に通り抜けて、ビルクモーレより北部あたりの森。

 グレイ達が本気で走ったらグラスシープより速いんで、普通の人だと徒歩で十日くらい(並足の馬で一週間くらい)の距離を、夜は休んで四日くらいで行ってて。休まないで行ったら二日っていう、人外の動きしてます…。(道を通らなくてもいいので、その分、ショートカットできますけど)

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