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断片の使徒 After   作者: 草野 瀬津璃
薬師ギルドでの騒動編
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 11



 翌朝、出かけようと玄関扉を開けたら、ケテケテ鳥がいた。


「え?」


 修太は足を引っ込めて、黒い羽毛に包まれた鳥を見下ろす。寝ているのかと思ったが、まったく動かない。トリトラが横をすり抜けて、ケテケテ鳥の前にしゃがみこむ。


「死んでるね。さっきはなかったんだけど、いつの間に」


 トリトラがクンとにおいをかぎ、ケテケテ鳥を持ち上げる。


「ケテケテ鳥をくれるなんて……ごちそうだよ。今日はこれの丸焼きにする?」

「いや、待て、トリトラ。そういう問題じゃない」


 リックが口を挟む。


「死骸だけなら、特に問題はない。不気味に感じさせるのが狙いだろうが、それよりも面倒なことがある。周りの家で、鳥がいなくなった所を探したほうがいいな」

「盗みの罪を着せるつもりってこと?」


 トリトラが言い返す。気に入らないと言いたげに、眉間にしわが寄った。


「賊狩りの兄さんは、『この都市にいられないようにしてやろうか』って言われたんだろ。そういうのはやりようがある。命の危機を感じさせる以外に、いづらくすりゃあいいんだ」

「なるほどね。面倒くせえな」


 性格が悪い案件だ。修太は朝っぱらから気落ちしたが、こういうことは様子見をしていると事態が悪化するものだ。リックの助言はありがたい。


「とりあえず、今日は学園まで送るよ。その間に、俺とトリトラで近所を回っておくから」

「ありがとう。そうだな、この辺は庭でケテケテ鳥を飼ってるところが多いしな……」


 庭付きの家で、ケテケテ鳥を飼わない家のほうが珍しい。


「被害者がいたら、後であいさつに行くからまた教えてくれ」

「ああ、分かったよ。それと、集会所にも顔を出しておくといいかもな」

「そうだな。根回ししておくか」


 共同体から締め出すというのは、一般人にはなかなかこたえる方法だ。修太は特に困らないが、変な噂を立てられて、犯罪者扱いされるのは困る。グレイは悪党と勘違いされて怖がられがちだから、そういうのは信じられやすい。

 トリトラはケテケテ鳥を玄関の中に置くと、チッと舌打ちした。


「こそくというかなんというか。いっそ、襲撃に来てくれたら分かりやすいのに。全員、半殺しにして衛兵に突き出してやるよ」

「そのほうがはっきりしてて楽だよなあ。ははは、やべえ、お前らの考え方に毒されてきてる」


 修太は思わず笑ってしまい、庭から出てきたコウに声をかける。


「コウ、玄関のケテケテ鳥にはさわるなよ」

「オンッ」

「それと、お前も気を付けないと駄目だぞ。こういう奴は、ペットを狙いに来るからな」

「オオンッ」


 コウは歯をむきだして、好戦的に吠える。


「戦うから大丈夫って? いいから、逃げて隠れておけよ」

「グゥーン」


 不満そうだが、コウはしぶしぶ返事をした。


「犬と会話してるよ……」


 唖然とつぶやくリックだが、修太やトリトラはコウがモンスターだと知っているので、特に気にしない。


「さ、学校に行くぞ」

「ワフッ」


 コウが先導して歩き出す。

 その日は、ケテケテ鳥の死骸以外は、平和な学園生活だった。




 放課後、アジャンやフィル、ソロンと正門まで来た修太は、そこにササラとアレンを見つけて後ずさった。


「ササラさん! なんでここに!」


 ササラは淡い黄色のシャツと白いロングスカート姿なのに、左手に薙刀(なぎなた)を携えている。どう見ても格好がアンバランスだ。ササラは修太の言いように、ぷくっと頬を膨らませる。


「まあ、ひどい言い草ですわ。心配して駆けつけたに決まっているじゃありませんか。今日、お宅を訪ねたら、トリトラさんから聞きましたよ」


 思わずトリトラのほうを見ると、彼は肩をすくめ、ちらっとリックのほうを見た。

 いつもいない人間が出入りしていたら、ササラが気にするのも当然だ。


「じゃあ、アレンはなんで……」


 と、そちらを見た修太は顔を引きつらせた。アレンがぶつぶつ言っていたのだ。


「ササラ、可愛すぎる。何、あのほっぺた! 貴重すぎる、あああ最高」

「うわ、キモッ」

「何か言いました?」


 でれでれの顔を瞬時に真顔にして、アレンがにらんできた。

 どう見てもやばい人の顔でしたけど、と修太は心の中で言い訳する。


「ササラが今日はそちらで料理をして、君の様子を見たいと言うんで。それなら久しぶりに皆で食事でもと思ったんですがね。また厄介ごとですか。いやあ、よくもまあ、次から次にトラブルに巻き込まれますねえ」


 感心のしかたがうざい。


「皆ってことは、ディドさんもいるの?」

「君のとこの家政婦を家まで送っているところです」

「そうなんだ。後でお礼を言わなきゃな」


 なんだかんだで、アレンの気遣いだろう。少々嫌味っぽいが、基本的に善人だ。特に弱者に親切なのは、元聖剣の勇者というのにしっくりくる。


「うわー、お前の知り合い、豪華だな。地竜退治のアレンさんじゃないか。あれ、リック先輩だ。こんにちは!」


 修太の傍らでぽかんとしていたアジャンが、リックを見つけて手を振った。リックも親しげな様子で、アジャンに話しかける。


「おう、アジャンじゃないか、久しぶり。元気にやってるか?」

「うっす。どうしたんすか、受付にいないなんて珍しい」

「えーと」


 リックが答えに迷ってこちらを見る。依頼主の情報を守らないといけないんだろう。


「俺、今、ごたごたしてるだろ? リックに友達のよしみで、護衛の依頼をしてるんだ」

「えっ、そこまでやばいの?」


 アジャンは目を丸くした。この驚きようは、リックが藍ランクと知っているからだろう。


「念のためだよ。相手が相手だからな」

「薬師ギルドのマスターだもんなあ。なんかあったら、親父にも声をかけてくれていいよ。ランクは青だけど中堅でさ、手堅く仕事してるから」


 アジャンの説明に、リックはうんうんと首肯する。


「アジャンの親父さんは、ほどよく真面目って感じだな。適度に力が抜けてるんで、一緒にいても過ごしやすいタイプ」

「へえ。冒険者を長く続けられるわけだ」

「俺はまだまだ力が入りすぎって、よく笑われてるよ」

「そう言われても、冒険者じゃない俺にはよく分かんねえよ。っていうか、二人って知り合いだったんだな?」

「先輩には冒険者ギルドの道場で教わってるし、学園の卒業生でもあるからな。道場仲間だよ。な!」


 フィルやソロンも頷いた。そういえばこの三人は道場からの友達だったか。


「先輩って友達いたんすね」

「いつも一人だと思ってました」


 ソロンの言葉に、フィルが付け足す。リックが苦い顔で言い返す。


「一人が気楽なんだから、いいだろ! ぼっちって言うな!」

「「言ってません」」


 二人は声をそろえたが、にやにやしているので、遠回しに言ったつもりのようである。


「なあ、また旅仲間か?」


 アジャンが肩をつつくので、修太はササラを示す。


「うん。あっちのササラさんと一緒に旅してたんだ。アレンやディドさんとも旅の途中で知り合ったんだよな。そしたら最近、ササラさんとアレンが結婚したんで、たまに会うんだよ」

「シューターさんのお友達ですか。わたくしはササラ・モイスといいます。どうぞよろしくお願いしますね」


 深々とお辞儀をし、顔を上げたササラは赤い目を光らせた。


「ところで、シューターさんは学園ではどうお過ごしでしょうか。危険な目にはあわれておりません? よかったら情報の横流し……教えてくれるとうれしいですわ」

「ササラさん、まったく誤魔化せてない! ちょっと気にしないでくれな、みんな」


 修太はササラを後ろに追いやって、手を振って誤魔化そうとしたが、アジャン達は面白がって返す。


「そうだなあ。歴史がどん底に駄目だけど、一部は天才ってことで、変な奴だと思われてるぞ」

「あと、根暗?」

「変だけど良い奴」


 からかい半分に言う彼らに、修太はこめかみに青筋を立てる。


「お前ら、好き勝手言いやがって。変って言うな!」


 すると思いのほか、真面目な返事があった。


「いや、不思議な奴ってことは間違いないぞ。外国人って皆こうなのかな?」

「やめとけって、外国人に失礼だろ」

「そうだそうだ」

「ああもう、うるせー!」


 修太が怒ると、三人は笑いながら駆けだした。


「あ、ツカーラが怒った!」

「逃げろ逃げろ」

「あははは。またな!」


 悪ガキ三人はあっという間にいなくなった。


「仲良しのお友達ができたみたいですね、ササラはうれしゅうございますわ」


 微笑ましそうにしているササラの他は、皆、笑っている。

 なんだろう、このしょっぱい気持ち。保護者の目に、修太は恥ずかしくなった。


「よし、帰るぞ! すぐに帰る!」


 ダッと走り出したが、ササラに止められた。


「いけませんよ、あんまり本気で走っては。心臓に負担がかかります。一緒にゆっくり歩いて帰りましょう」


 にっこりと聖母みたいな微笑みを前に否定もできず、修太はしぶしぶ受け入れた。


「分かったよ。はあああ」


 深い溜息をつき姉が弟にするみたいに、うれしそうに左横にくっつくササラに対し、アレンが右手をひらひらさせている。


「ササラ、僕の右手があいてますよ」

「そうですか」


 遠回しに手をつなごうと言うアレンを、ササラはばっさり切り捨てる。


(ああ、にらまれてる、にらまれてる!)


 アレンの視線が痛い。

 この二人、夫婦らしい甘さというのはあるのだろうか。

 修太がいるとササラが修太を構うので、実は二人がいちゃついているところを見たことがない。


「護衛、必要ないみたいだから、僕は先に帰ってるね。受付君、後は頼むよ」

「えっ、ここで俺だけ置いてくの? うわ、もう行った。これだから黒狼族は!」


 飽きたのか、トリトラがいつもの気まぐれさでとっとと姿をくらまし、リックが悪態をついている。


「リック、朝のケテケテ鳥の件、何か分かった?」

「え? ああ、孤児院から消えたみたいだよ。困ってるみたいだから、一羽、融通したほうがいいんじゃないかな」

「分かった。じゃあ、市場に寄って、それから集会所だな」


 生きているケテケテ鳥を仕入れて籠に入れ、集会所では修太の家が嫌がらせを受けているため、見知らぬ不審者に気を付けておいてほしいと連絡した。

 グレイはたまに集会所に顔を出すので、ご老人達は納得という顔をして、皆に教えておくと言ってくれた。グレイが外見で誤解されやすいからだと思ったのかもしれない。

 用を終えて帰宅した修太は、今度はネズミの死骸が置いてあるのを見つけた。


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