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朝、教室へ向かう途中、修太は校舎の入り口で待ち構えていたアジャンにつかまった。そのまま腕を引っ張られ、中庭のほうに連れていかれる。木陰に行くと、周りを警戒してから、アジャンは声をひそめて問う。
「お前、いったい何したんだ?」
「は?」
突然、そんなことを言われても困る。
修太には身に覚えがないのを悟ったようで、アジャンは少し詳しめに問いなおす。
「二年の先輩に恨みを買った覚えは?」
「二年? 三年になら友達がいるけど、二年にはいないぞ。いったいどうしたんだよ」
「俺、今日は早めに学校に来たんだ。家だと落ち着いて小遣い帳を付けられないからな。そしたら二年の先輩が……なかなかハンサムな男だったな、そいつがお前を探しに来たんだよ。すげえおっかない顔してたぞ」
「怒ってるって意味?」
「激怒」
アジャンが真顔ではっきりと言った。修太は顔を引きつらせる。見知らぬ男をいつ怒らせたんだろうか。
(グレイの関係か? でも、俺がグレイの養子だっていうのは、学園では内緒にしてるんだけどな)
修太が黙ってうつむいたのが、アジャンには怖がっているように見えたようだ。フードを目深にかぶっていて表情が分からないから、その勘違いもしかたがない。
「そんなに不安なら、先生に相談して立ち会ってもらえよ。俺もできるだけ力になりたいんだけど……」
アジャンは歯切れ悪くつぶやく。彼のほうが、修太より顔色が悪い。
「そいつ、何か問題があるのか? 裏社会のボスの息子とか?」
「もしそうだったら、今すぐ逃げろって言ってるよ。そうじゃなくて、二年で唯一の大物の息子なんだ。美形で成績優秀なんだけど、プライドが高くてクラスを仕切ってる……」
「キングス?」
「そう。キングスを敵に回すと、下級生はわりをくうらしいんだ。それ以上に、薬師ギルドのマスターの息子でさ、卒業後の生活にも影響しそうなんだ」
サランジュリエで生まれ育ったアジャンにしてみれば、権力者の息子ににらまれる真似はしたくないのだろう。
「分かった。教えてくれてサンキューな。あとは俺がどうにかすっから、アジャンはあんまり関わるな」
「できる範囲で助けるから、がんばれよ。とにかく先生を巻き込んだほうがいい。こういう時は、周りを巻き込むほうが安全だからな」
「処世術すごいな、お前……。分かった。困ったな、父さんが留守の時に問題が起きるなんて。でも、なんで薬師ギルドのマスターの息子が俺に……。ん? マスターの息子?」
修太ははっとした。
思い切り覚えがあった。マスターに専属採取師にならないかと誘われて、断ったばかりだ。グレイが警戒して、トリトラに護衛を頼んでいくくらいには危険な案件である。
「とりあえず予鈴までここでしのいで、後でセヴァン先生に相談に行くよ」
プライベートのことを持ちかけるのは気が引けるが、彼も薬師だから良いアドバイスをくれるかもしれない。
「分かった。俺も一緒にいるよ。ひとけのない所に連れて行かれたら、いくら黄色でも危ないだろ。この学校、戦士の卵ばっかりなんだぜ」
「うん、よろしく。今日のお昼ご飯、おかずを分けてやるよ」
「よし来た、任せろ」
いつもお腹を空かせているアジャンはあっさりと釣られ、修太よりも真剣な顔をして、木陰から生徒の様子をうかがっていた。
本編のほうなんですが、目次1に後ろのほうもまとめようと思って、ついでに簡単に改稿しながら一行あけ作業をしています。続きも書きたいんだけど、意外と手間取ってます;
しばらくは更新しても、1000字程度かもしれませんがよろしくお願いします。




