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断片の使徒 After   作者: 草野 瀬津璃
北西の森の邪教徒編
27/178

 3



 スーリアと万年亀に分かったことを報告すると、スーリアは面倒くさそうに、金の目を細めた。


「白教の奴らが住みついていたとはな」

「特に毒素(クイス)()まりができているわけではないので、処刑などはしていなさそうですが。スーリア様が捨てられたゴミを資金源にしているなら、問題ですなあ」


 万年亀は渋い声を出した。


「左様。オルファーレン様のご様子が落ち着かれたのに、白教徒がのさばると、また毒素溜まりがあちこちにできてしまうぞ。聖樹が消えて、パスリル王国の崩壊が始まって良い方向になってきたが、宗教の力が弱まるまで数十年はかかるだろう。資金源を断つのがてっとり早い」


 理知的なことを呟いて、スーリアは面倒くさそうにその場に伏せた。


「ああー、面倒くさいー。ゴミ捨て場探しなんて嫌じゃー!」


 バタバタと(あし)で地面を叩き始め、局所的な地震が起きる。

 こういうところは子どもである。

 よろめきつつ、修太はスーリアを怒鳴りつける。


「落ち着かんか、馬鹿!」

「馬鹿って言った! ひどい! 馬鹿って言ったー!」

「おいっ、悪かったってば。スーリアは頭が良いよな」


 スーリアはちらっと修太を見て言う。


「もう一声(ひとこえ)


 ふざけてんのか、こいつ。

 イラッとした修太だが、渋々付け足す。


「賢い。天才。ボスにふさわしい」

「うん。さっきの白教徒撲滅の話は、とても頭が良いと思ったよ」


 適当に言っている修太と違い、啓介が真面目に褒めたので、スーリアは機嫌を直した。


「そうじゃろう、そうじゃろう。私は賢いのだ! ふっふふふー」


 にへにへと笑い、スーリアは口元を前脚で押さえて嬉しそうだ。


「賢い私が命ずる。そなたら、あのゴミ捨て場の媒介石を、まるっと持っていけ! さすれば解決じゃ!」

「お前さ、実は穴から拾い上げるのが面倒くさいだけだろ?」

「え? そんなことないぞ?」


 修太の指摘に、大きな目を泳がせ、スーリアはのたのたとこちらに背を向けた。図星らしい。分かりやすい奴だ。


「もらっていくのは構わないけど、問題はすでに彼らがゴミ捨て場を見ているってことだね」


 啓介が難しい顔をして言うが、修太はそれの何が問題なのか分からない。するとトリトラが訊いた。


「何が駄目なの?」

「分かるぞ、ケイ殿。あれだけの規模の聖堂を建てたのだ、あの場所を拠点にするのに見合った理由が必要だ。全て持っていってしまうと、後で調査に来た者も納得しない」


 フランジェスカの意見ももっともだ。

 すると啓介が、解決案を口にした。


「底に少し残す感じにすればいいのかな。つまり、媒介石の鉱脈があって、あの地割れでたまたま露出したと思わせればいいんだろ?」

「おお、啓介。頭が良いな」


 これがスーリア達地竜が作ったものではなく、自然にできたものだと偽装すれば、問題ないわけだ。


「モンスターと結び付けられちゃうと、ここでしょっちゅう戦いが起こることになる。それは良くない。毒素は、始元素(しげんそ)といわれてる精霊の疲弊と、悲しみや憎悪といった負の感情から生まれるんだからさ」

「そうだな。魔法の使い過ぎも良くないし、殺し合いが起きると、この辺が毒素溜まりになっちまう」


 五百年前のモンスター大量発生事件は、毒素の増えすぎが原因だ。人心(じんしん)をなだめるために、創造主オルファーレンは、自身の断片を世界にばらまき、聖女レーナとその弟に毒素溜まりの浄化の旅をさせたのだ。しかしそこから少しずつ歪んでいって、それを戻そうとした創造主オルファーレンの負担になり、結果、修太達が断片を回収して、オルファーレンに力を戻すことで世界の破滅を逃れた。同じことを繰り返させるわけにはいかない。


「森の主様、面倒くさいとか言ってる場合じゃありませんなあ。ゴミ捨て場を整えましょう」

「……そうだな。分かった」


 万年亀にちくりと言われて、スーリアは殊勝(しゅしょう)な態度で頷いた。

 それから、修太と啓介はそれぞれ穴の底にたまった媒介石を半分ずつ旅人の指輪に回収した。そして、程良い加減で穴底に残るようにするため、媒介石の山を地面に取り出して、仲間達で手分けして放り込む。

 一時間くらい作業をして、ようやく終わった。


「これくらいなら、鉱脈の露出っぽいかな? どう思う?」


 啓介がそう問いかけたが、皆、首をひねるばっかりだ。


「分からんな。鉱山なら視察したことがあるが、その時に見たのは横穴だ。グレイ殿やトリトラはどうだ?」


 フランジェスカが話題を振るが、二人の反応もかんばしくない。


「レステファルテは鉱山が少ないから、国が管理してるんだ。近付いたこともない」

「鉱山はセーセレティー精霊国や大陸南部に多いんだよ。女騎士が知らないんなら、僕には分からないな。それにわざわざ鉱山で掘らなくても、モンスターやダンジョンから手に入れたアイテムを再利用することが多いし……」

「そうだな。鉱山の開拓に力を入れるのは、レステファルテやパスリルみたいに、戦争したがる国くらいだ」


 グレイとトリトラの話を、修太は興味深く聞いている。モンスターやダンジョンなんてものがある、ファンタジー世界ならではといった常識だ。


「だから低層でよく手に入るアイテムでも、ちゃんと買い取ってもらえるんだな。それそのものじゃなくて、材料扱いか!」


 啓介が納得だと手を叩き、修太は不思議に思って問う。


「ピアスは再利用とかってしないのか?」

「ああ、見たことないな。材料は他の商店から買い付けてるよ。あとは、近辺で採取してる。そりゃあ、ダンジョン都市が経済的に恵まれてるわけだよな」


 冒険者が兵士より下に見られているのに、冒険者になりたがる者が多いのも、それなりにうまみがあるからだろう。

 しかし冒険者は、武器や防具の維持費がかさむ。病気や怪我をすれば収入が無くなる不安定な職だ。兵士と違って退職後の年金はないし、怪我した時の手当ても出ない。

 現実的な安定を望むなら、兵士に軍配が上がる。


「パスリルで騎士団にいた頃は、ダンジョンで訓練しつつ、資金稼ぎもしていたよ。懐かしい。治療師を護衛しつつ、治療師による的確な治療訓練もしていたんだ」

「騎士って貴人の警護がメインだもんな。一石二鳥だね」


 啓介の言う通り、かなり効果的な訓練に思える。


「学園でも、ダンジョンを使って訓練するみたいだぜ」


 修太がそう言うと、トリトラがどうでも良さそうに返す。


「どこのダンジョンでも、兵士の訓練に使ってるよ。森や山みたいな、どこから何が来るか分からない場所より、ルートが決まっていて、敵は毎回同じだから、対策を取りやすい。その後、森や山で訓練かな?」

「その通りだ。基礎訓練、ダンジョンで護衛訓練、その後、広範囲からの敵襲対策訓練。一通り終えたら、騎士として勤務して、鍛錬を積みながら、それぞれの任務に当たるという感じだな」


 フランジェスカの話は、よく知らない兵士のことなので面白い。


(こうして聞いてると、学園の戦闘学って兵士にも通用するんだな)


 なるほど、冒険者向けの学校なのに、騎士科があるわけだ。


「とりあえずこのゴミ穴は解決したのか? ああ、これからはどこに捨てよう」


 スーリアはまだ面倒くさそうに、ぶつぶつ言っている。


「どんだけ面倒なんだよ。というかさ、スーリアは〈黄〉だろ? 天然の穴を見つけなくても、魔法で適当な場所に穴を掘って埋めればいいじゃんか」


 修太が指摘すると、スーリアのダイヤ型の耳が、ピコピコッと動いた。金の目がキラリと光る。


「――それだ」

「いや、『それだ』じゃねえし……」


 大丈夫なんだろうか、このボスモンスター。


「なんかさあ、ボスモンスターの子どもって、ふんわりしてる奴が多いけど、大丈夫なのか?」


 思わず万年亀に問うと、万年亀は頷いた。


「大丈夫だ。テリトリーを守って、敵を追い払い、配下のモンスターをテリトリーに集めておくのが役割だからのう。戦いなさると、このかたは強いぞ」

「魔法を使えば簡単だぞ。岩に閉じ込めてもいいし、串刺しにしても……」

「怖いからやめろ!」


 スーリアがのほほんとスプラッタなことを言うので、修太は大声でさえぎった。


「問題解決じゃ、住処に帰って昼寝しよう。なあ、シューター。一緒に昼寝しよう」

「いや、俺は帰るよ」

「じゃあ、ひなたぼっこ!」

「帰るってば」


 頭をすり寄せて甘えてくる大きな駄々っ子に、修太は言い返す。

 スーリアはふてくされて、その場でまたジタバタ暴れて局所的な地震を起こし始める。しかたがないので、住処まで付き添って、ギタルで寝かしつけてやった。


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