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断片の使徒 After   作者: 草野 瀬津璃
北西の森の邪教徒編
23/179

 5



 週末、修太達は北西の森にやって来た。

 サランジュリエの季節は冬なので、カンカン照りでも涼しい。

 小さな花々が咲くのどかな野道を歩きながら、啓介は手に持った小箱にとまる光の小鳥に、ご機嫌で話しかけている。


「特に問題ない? 良かった。ファナは元気?」

『ええ、ご機嫌よ。ベビーシッターが良い人だから、私も楽してるわ。ケイ、仕事に手抜きしちゃ駄目よ』


 その時、赤ん坊の泣き声が聞こえてきた。


『あら、起きたみたい。それじゃあ、またね。愛してるわ』

「俺も愛してる!」


 啓介はでれでれ顔で返すと、小箱のくぼみから媒介石を外した。光の小鳥も消えてしまう。

 サランジュリエを出た後、道中、ずっとこの調子でのろけを聞かされている修太はうんざりしている。


「ピアスと話したいがために、電話を作り上げるとか……どんなチートだよ。これだから天才は」

「シュウ、正しくは『ピイチル君』だ」

「はいはい、ピイチル君ね。久しぶりに聞いたわ、そのネーミングセンス」


 修太は溜息をつく。

 名前だけ聞くと、どんな道具だかさっぱり分からない。だが、啓介は気に入っているようだ。


「光の伝書鳥って、普通はしゃべらないんだよね?」


 トリトラが質問すると、啓介はそちらに向き直った。


「そうだよ。〈白〉の光魔法で書いた手紙を、鳥にして飛ばす魔法だからね。他にも、偵察用の光の鳥もあるんだ。でも、音は空気の振動で伝わるから、光の伝達とは仕組みが違う。だから普通は、音声は相手に届かない」

「うん?」


 科学的な知識を披露され、トリトラはきょとんとしたが、話は続けるように手振りで示す。


「光と音だと伝わり方が違うって話。俺の〈白〉の魔法は光属性だ。電磁波や電波もこの中に入る。光も音も波で伝わるから、それを同じ周波数(しゅうはすう)にそろえて、音が出るように違う魔法に接続すればいいってわけ。こいつがその媒体(ばいたい)な」


 手に持っている小箱を持ち上げ、啓介はにこりと笑う。

 スピーカーのようなものがついている以外には、媒介石がくっついている。箱の中に、複雑な魔法陣が刻まれているらしい。


「何を言ってるのか全然分からないけど、君が天才ってことは理解したよ」


 トリトラは両手を上げ、降参を示す。修太は不思議に思って問う。


「啓介、周波数をそろえるったって、衛星や電波塔がないんだから、遠距離は無理だろ? 電線もないし……。そこはどうなってるんだ?」

「その辺は魔法の便利さだね。俺が伝書鳥を飛ばして、自宅に置いてるこいつの片割れで、周波数をキャッチするってこと。つまり俺がいないと使えないし、つながるまで時間がかかりすぎるし、ピアスからは連絡ができないっていうのが問題点。〈白〉以外でも使えるように、魔具だけでどうにかできないかってことが課題かな」


 前から試作していて、あとは遠距離での実験が必要だったのだと啓介が言う。


「はあ、なるほど。電波塔そのものが飛んでいけばいいわけか、へ~、考えたなあ」

「思いつくのは簡単だけど、実際に作るのは難しいよ。アイテムクリエイトに長けるピアスやおばば様が手伝ってくれたから、なんとか形になったけどね。面白いよ、クリエイト」

「それでもすげえよ、啓介。さっすが天才」

「へへへ、ありがとう!」


 修太と啓介は互いに手を出して、パチンと打ち鳴らした。

 ふと修太が気付くと、フランジェスカとトリトラ、グレイの視線がこちらに集中している。


「何?」


 身を引き気味に修太が問うと、フランジェスカはけげんそうに返す。


「今の説明で理解できたのか?」

「そりゃあ、俺の世界じゃ常識での説明だからな、なんとなくは分かるよ。でも分かるからって、作りだせるかは別問題だぞ。俺には無理」


 修太は感心を込めて啓介を眺める。

 幼馴染が天才なのは知っていたが、実際に目の前で天才的なことをするのを見ると不思議な感じがする。


「俺は、啓介なら何をやっても驚かない」

「はあ、ケイ殿はすごいのだな。しかし遠距離でも声が届くとなると、戦の仕方も変わるし、国の防衛観点でも心配になるな。無暗に外に出すんじゃないぞ」


 元騎士らしく、フランジェスカは啓介を心配する。


「その辺は分かってるよ。俺も家族を危険にさらしたいわけじゃないしね、おばば様にも口止めしてる。他にも、違うことを研究してるよ。光でも音でも、なんでも波があるからさ、魔力にも波があるんじゃないか、人によって違うんじゃないかって考えてて。それを実証する方法を探しているところだな」

「それが分かって何になるんだ?」


 グレイの問いに、啓介は楽しそうに返す。


指紋(しもん)認証みたいな!」

「……何を言ってるんだ、こいつは」


 訳が分からんと言いたげに、グレイが修太の肩を叩く。

 修太は溜息をつく。


「啓介は頭が良いのに、説明が下手だよな……」


 啓介に勉強を教わっても、修太には意味が分からない。それと同じことが起きている。


「ええとな、指には指紋ってあるだろ? あれは人によって違うんだ。それと同じことを魔力でもできるんじゃないかって言ってるんだよ」

「それで?」

「身分証明とかで、安全性が高まるってこと」

「なるほど。つまり、もしギルドカードを盗んだとして、持ち主になりすまして銀行で金を引き出すようなことを、窓口で阻止できるってことか」

「そういうこと! 父さん、頭良いよな」


 思わず、修太は褒めた。すぐにそういうことを思い付くので、グレイは賢い。


「なりすましって問題になってるよなあ。商人ギルドでも、たまに話題に上がるよ。でも便利だもんな、ギルドカードって」

「取引には暗証キーが必要だが、たまに暗証キーを書いた紙を財布に入れてる奴はなんなんだ。馬鹿じゃないのか」


 フランジェスカが鼻で笑ってぼやく。

 修太は啓介を見る。


「どこの世界でも、似たような犯罪があるんだな」

「な」


 互いに頷きあった時だった。

 森の奥から、騒々しい鳥の声が聞こえてきた。膝丈くらいの高さをもった白い卵が爆走してくる。正しくは、白い卵に黄色い足が二本生えている。顔は無いが、ギャアギャアとやかましい声がする。


「げっ、タマゴドリだ! ――逃げるよ!」


 トリトラがうんざり声で言うや、グレイとともに前に出る。背中を押され、修太は啓介の腕を引いて元来た道を走り出した。フランジェスカやコウもついてくる。


「何、あの面白いのがどうしたんだ」


 啓介の問いに、修太は走りながら答える。


「あれはタマゴドリ。モンスターで、別名は砂糖鳥(さとうどり)だ。生きてるうちに(から)を落とすと、殻が砂糖に変わるんだ」

「それがどうして、トリトラが警戒するんだ」


 フランジェスカがけげんそうにする。


「さらに凶悪な別名があるんだ。――リンチ鳥」

「は?」


 修太達は足を止めた。

 タマゴドリの群れに、逃げ道もふさがれてしまったのだ。


「そのまま。集団で囲んで、獲物をボッコボコにして殺すんだよ」

「それを先に言え!」


 フランジェスカが怒った。

 相手がモンスターなので、修太は対話を試みることにした。


「落ち着こうぜ、タマゴドリ。俺は万年亀のじいちゃんに会いに来ただけで、ボスを狙いに来たわけじゃないんだ」


 できるだけ落ち着いた声で話しかけると、タマゴドリ達は話し合うようにギャアギャアと鳴きあっている。

 中でもとりわけ大きな卵が前に出てきて、大声で鳴いた。


「ギャア!」


 やれ!

 そんな感じに聞こえた。


「え、うわ、わああああ」


 雪崩(なだれ)をうって駆けてくるタマゴドリに足を取られ、修太達は派手に倒れる。ぶつかったところが、パリンと殻が割れて、砂糖が道に散らばった。

 倒れたところをボコボコにするわけではなく、タマゴドリ達は担ぎ上げるように頭にのせたまま、森の道を走り出す。


「え? 何。ちょっと! わああああ」


 森の高低差もものともせず、爆走していくので、まるでジェットコースターのようである。グレイやトリトラまで同じような末路を辿った。

 そして森の奥まで運んでいくや、沼地の前にペッと放り捨て、タマゴドリは消え去った。

 いったいなんだったのかと、修太は呆然とへたりこむ。

 アイヘン沼に住む亀のモンスターが、申し訳なさそうに謝った。


「驚かせて悪かったのう。坊主を見かけたら案内するように言っておいたら、このざまじゃ。これだから鳥頭(とりあたま)は困るのう」


 灰色の亀はやれやれと呟いて、大きな頭をゆっくりと傾げる。眠たげな青い目が、じっとこちらを見つめた。


「ほんで、大丈夫か?」

「んなわけねえだろ、酔ったわ!」


 修太は思い切り言い返した後、吐きそうになって口を手で押さえた。



 技術のところはなんとなくで書いたんだけど、これで合ってるのかね。まあいいやー。

 間違えてたら教えてください。

 

 この辺を書いてたら、目次2の迷宮都市ビルクモーレ編で、グレイがギルドカードで引き落とし支払いしてたの、ここだけオーパーツやんって気づいたので、そのシーンだけカットしました。

 ファンタジーっぽさを出したかっただけだったんで。

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