悪者
エリコが発病したのは結婚して二年目。子供はなく、ペットも無し。
統合失調症だって。可哀想に。飲んでいる薬のせいでエリコはだるそうである。俺は生活の不便さにイライラもするが、やはりエリコが可哀想でならない。
こんなにだるいのに俺に夕飯作らなきゃならない。洗濯、部屋の掃除。なんだか俺、悪者みたいじゃない?
いいよいいよって、俺がやれば良いのかな。
「ともくんごめんね、不便な思いをさせて。病気だからってごめんね。」
「エリコ。」
当たり前だって思ってしまう。俺はヤバイ? 口には出さないけど。エリコにもっとちゃんとしろって思う。
見るといつでもエリコはソファで横になっている。トイレが汚れているよ、エリコ。掃除しろ。布団がぺったんこだ、布団を干せエリコ。最近料理の品数が少ない、ちゃんと料理しろエリコ。
ある日帰ってくると、部屋の中の観葉植物が床にぶちまけられていて。鉢は割れているし、床は土だらけだし。エリコは笑いながら、持ってきた台所の鉢を床に叩きつけて笑った。
理由は分からない。俺はエリコがちゃんと出来ないのを許してやっていた。ワイシャツのアイロンだって不完全なのを黙って受け入れて着ていた。そう、受け入れてやっていたのに、病気が悪化しているって何。俺はエリコに信頼されていなかったってこと?
エリコは入院した。はじめは保護室とか言うところにエリコは入れられて、狂って泣き叫んでいたエリコ。
もうお終いだ、こんな姿見たくない。
こうなる前にどうして辛いとか言ってくれないんだ。無理ばっかしていたんだろう。俺に言ってくれなくて狂人じみるんじゃあ話にならないよ。
エリコの入院は一年ほどかかった。エリコの母がエリコの面倒を見た。入院中、俺はエリコに菓子など運んでやった。退院を待って、離婚を言い渡した。
「わたしが、ちゃんと出来ない、く、なったから?」
「それもあるけど。」
いくらでも俺を悪者にすればいいさ。愛情も冷めるってもんだ。辛いのなら無理なんてさせないのに、一人で追いつめられて気違いじみて。
一緒にやっていける気がしない。
「そうやって捨てられたくなかったから頑張ったのに。だってともくん、ちゃんとしなかったらわたしを捨てるでしょ。」
それはそうかもしれないけれど。
病気になった妻を捨てるって、人でなしみたいだけど。そうさせる妻もいるんだって分かって欲しいな。