嵐の中で
そしてイデ15歳。
まずは見習いとして衛士宿舎に寝泊まりし早朝から掃除に祈りに戦士としての訓練に、と忙しなく過ごしていたがすでに同期の中では頭一つ抜きん出ていた。
その実力と真面目な勤めからオーストは神殿長の近衛の一人に抜擢されていた。
「私は神殿に仕え神の力を邪教の者に示したいと思います」
推薦者が居た事もありイデはそれが当然のように神殿の警護兵の一人に取り立てられる。
イデは同期の者達とあまり話す事も少なく毎日を過ごしていたがオーストが身近に居た事もありむしろ勤勉でありすぎると評価されていた。
・・・そして・・・1年近くが経ち邪教との戦も何もなく・・・狙っていたとはいえあまりにもあっけなくその日はやってきた。
4人が同時に神殿の夜の警備につき神殿長の身辺警護がオーストとホラティウスの二人だけに任される時間が出来たのである。
決行の日。まさにシェーラが処刑された日。その日は嵐だった。
オーストとホラティウスは神官長の執務室の脇から神殿入り口に移動する。
「今夜は灯りも遠くまで使えず警備もゆるい」
「イデ、約束だったな。」
「あぁ。斬るのは俺だ。それに・・・・」
「・・・それに?」
「切るだけなのだから一人だけで十分。他に人は要らない。」
「なっ」
「・・・・」何を言うのかと驚くオーストとそうか、と表情を変えないホラティウス。
「・・・・元々一人でやるつもりだったんだ、俺は。
『神殺し』は何人も要らない。」
「おい、イデ!」
・・・「今更『神殺し』など気にすると思うのか?」
「・・・・・みんなには俺が・・・俺達が出来なかった事をして欲しいんだ。」淡々と話を続けるイデ。
「あんたら3人が悪いんだ。国を創るなんて夢を語るから・・・それは三人にしかできない事だと思う。」
「いや!・・だったらイデだって!!」
「俺は・・・・あの日・・・シェーラが居なくなった日から空っぽだったんだ。」
「・・・っ・・・」
「・・・それに俺の代わりに世界を周って色んな物事を見てきて欲しい。」
「イデ・・・・」
「・・・・」
「・・・・確かに近衛である人間はどちらにしろ責任を取らされるだろうな」
「ホラティウス?!」
「オースト・・・・いつか帰ってきて欲しい。生きてまた母さんや父さんを手伝ってやって欲しい」
「・・・・イデ・・・・」
「ここで父さん母さんの実の息子にとんでもない罪を着せる事は俺にはできない」
「・・・自分は実の兄弟以上の関係を築いてきたつもりだったんだが」
「・・・ありがとう。でもさよならだ」
「悪いが俺はここに残って基盤を固めていくつもりだ」
突然アントニウスが言う。
「アントニウス・・・」
「俺は入り口の警備係だしな・・・気絶してたフリでもして誤魔化すさ」笑って言う。
「決まったね」
「・・・・」
「・・・・・・」
「・・・分かった。」
「いつかまた会おう」
「いつかまたこの地で」
「この国に変革を」
「こんなこと言っておいて失敗するなよ」
・・・・・・口々に言いたいことを言って去っていく仲間達。
「さて・・・執務室だな」歩き出すイデ。
・・・・・
「おぅ、神官長様が呼んでるとオースト達が呼びにいったはずだが?」
「あぁ、なんかしばらく2人きりにしろと言われているらしい」
「ほう?・・・まさかのいきなりの近衛への取り立てとかだったりしてな」
「いや、まさか。俺なんかよりお前の方が真面目に信仰してるじゃないか」
「いやいやわからんぞ、っと時間無駄にさせたらまずいな。そういう事なら緊張せず行ってこい」
「あぁありがとう」
・・・警備同士顔見知りで同じ神に仕えているとなると気楽なものだ。
神官長の執務室の前まで来て周囲に誰も居ない事を確認する。
・・・・
・・・
・・
ドタンッ・・・ガタンッ・・・バタタンッ・・・・
「待て!待ってくれ!」
「・・・」
「誰か!オースト!ホラティウス!どうした!」
「『神殺し』だぞ!大罪だぞ!今ならまだ間に合う!」
「・・・」
「・・・そうだっ!私の補佐に任命しようじゃないか!何でも出来るぞ!どうだ?」
「・・・・・・」
「女だろうが金だろうが好きにするといい!王にだって口は出せないぞ?そんな力に興味あるだろ?」
(・・・こんなものなのか・・)
神殿長の最後はあっけなかった。護身用に短剣も持っていたはずだが抜く事もなく。。。
喉を一突きされ息絶えたかつて神とともに神自身としても崇められたモノが静かに転がっている。
部屋の外では雨風が激しい音を立てていた。