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結論・から揚げパンは至高である

作者: 碧流

シナリオ創作の課題で仕上げた短編戯曲です。映像に換算するとおよそ10分?

かなり手探りの状態で書いたので生暖かい目で見てあげてください。

《登場人物紹介》

 石沢…理系男子。塾に行く前の夕飯としてパンを買いに来た。

 山口…重度のカラアゲニスト男子。石沢と同じクラス。

 茂木…女子。石沢の元クラスメイト。とある理由からからあげを食べている。石沢に憧れている。

 大川先生…女性体育教師。普段は弁当だが本日は売り切れており売店に流れてくる。

 上田…体育科女子。バレー部部員。大川先生とは知り合い。



  昼休み、売店のパン売り場前に立つ石沢。(舞台向かって右)時刻は十二時四五分。

  一つだけ残っていたからあげパンに手を伸ばす石沢。

  そんな石沢の反対側(舞台向かって左)から茂木登場。

  二人、全くの同タイミングでからあげパンに手を伸ばす。

二人「あっ」

  慌てて手をひっこめる二人。

茂木「い、石沢君かぁ……びっくりした」

石沢「あ、……茂木、だっけ?たしか去年、同じクラスだったよな」

茂木「うん、お久しぶり。クラス替え以来になるね」

石沢「あれからもう三か月か……あ、茂木もパン買いに来たのか?」

茂木「そうだよ……あの、石沢君」

石沢「どうした?」

茂木、からあげパンを見ながらもじもじ。

茂木「石沢君も、からあげパンを買いに来たの?」

石沢「ああ……うん。何かまずかったか?」

茂木「いや、そういう訳じゃないんだけど、さ。一個しかないなら、どっちがもらうか決めなきゃなって」

石沢「なら、手っ取り早くジャンケンで決めるか?(グーを出す)」

茂木「その方が早いかも(グーを出す)」

石沢「わかった……じゃあ行くぞ、ジャーンケン、」

  ジャンケンの掛け声を遮る形で山口、売店のドアを派手に開け登場。

山口「よお石沢!!から揚げパン余ってねえか!?(石沢の首に腕を回す)」

石沢「うわあ!」

茂木「……えっと、どなたですか?」

石沢「よりにもよって、何でお前……ぐるじい」

山口「(首から腕を離す)ふっふっふ……から揚げのあるところ山口あり、よ。そんで、から揚げパンは?」

石沢「……見れば分かるだろ。一個しかない」

茂木「どっちがからあげパンを持ってくか、ジャンケンして決めようとしてたんだけど…」

山口「そりゃ悪ぃな。まあ俺も混ぜてくれや……って、んー?隣のクラスのヤツか?」

茂木「あ、初めまして。去年石沢君と同じクラスだった茂木です。石沢君のお友達、かな?」

山口「そうか。俺は石沢と同じクラスの山口ってんだ。ヨロシク」

  茂木の手を強引に取ってぶんぶん振る山口。挨拶のつもり。

山口「放課後に食うから揚げパン買いに来たんだけどよー…(パン見ながら)一個しかないってマジ?」

石沢「マジ」

山口「うわー……面倒くせえな。じゃあから揚げに対する熱意を語って、ほかの二人を納得させられたら勝ちでどうだ」

石沢「はあ?お前、ジャンケンのほうがよっぽど面倒臭くないだろ!」

山口「これはから揚げパンを巡る仁義なき戦いなんだぜ?から揚げに対する熱意を語れたやつにこそ贈られるべきだ。さあ、この俺を納得させてみやがれ!」

石沢「山口、とりあえず人の話聞こうか」

茂木「か、から揚げに対する熱意、かあ……う~ん……」

石沢「茂木はこいつの言うこと真に受けなくて良いと思う」


  舞台暗転。


山口「茂木、から揚げパンに挟むから揚げに一番適してるのはなんだと思う?」

茂木「私は手作りを推すかなあ……お母さんが揚げてくれたモモ肉のから揚げ、すごくおいしいから」

山口「ほう、贅沢だな……と言いたいところだが、気が合いそうだ」

茂木「山口君も手作り派なんだ?石沢くんは…?」

石沢「俺は冷凍食品派だけど……」

山口「な!?お前、から揚げのことぜんっぜんわかってねえな!!」

石沢「そう言うお前こそから揚げの何が分かるんだよ。日本唐揚協会公認のカラアゲニストか何かか?」

山口「いんや、カラアゲニストって程じゃねえが、俺んち精肉店だからな。余ったモモ肉とかムネ肉使ってよくから揚げ作ってんだよ。ぶっちゃけムネ肉の方がコスパが良いんだけど、モモ肉は値段が高い代わりに肉質が柔らかくてから揚げに適してるから、抜群にうめえ」

茂木「なるほど……」

山口「カラっと揚げたから揚げをパンに挟む。そこにマヨネーズをたっぷりかけて、そんで思いっきりかぶりつく。どうだ、あのジューシーさ。揚げたてのから揚げにしかない食感だろ……!」

石沢「冷凍食品も捨てたもんじゃないぞ。しょうゆ味に限らずタルタルソース味、バジルレモン味なんてのもあるし」

茂木「それ美味しいよね!私もたまにお弁当に入れたりするよ」

石沢「食べ残しても日持ちするし、欲しいぶんだけ解凍すればすぐに食べられる。便利じゃないか」

山口「情熱ってのは便利とはちょっと違うような」

石沢「なんだ、違うのか。でも冷凍食品が多分一番…」

上田「ごめん、ちょっとそこどいてもらってもいい?」

  三人の背後に上田登場。時刻は十二時五十分。

茂木「他学科の生徒さん……だよね?」

石沢「見かけない顔だな」

山口「誰だお前?(上田の顔覗き込む)」

上田「体育学科の上田って言うの。時間ないからそこどいてほしいんだけど…君ら、からあげパン囲んで何してんの?」

山口「から揚げ談義」

上田「はあ?」

茂木「このから揚げパンを手にするには、から揚げに対する熱意を語らなきゃいけない…ってことになったんです。さっき」

石沢「最初は僕とこの子…茂木とどっちがパンを取るか相談してたんだが、(山口を指して)こいつが割り込んできて」

山口「このから揚げパンは真にから揚げを愛する者に贈られるものなんだ。悪いな」

上田「よっぽど暇なんだね……じゃあ、面倒くさいんでこれは私が(パンに手を伸ばす)」

山口「(その手を払う)待て待て待て、欲しかったらお前も議論に参加しろって」

上田「もう!それ逃すとお昼我慢しなきゃいけなくなるんですけど!」

山口「お前、から揚げパンに一番合うから揚げって何だと思う」

上田「え、一番好きなからあげ……って、え?」

山口「ほら、冷凍とか手作りとか、そんな感じの種類」

上田「あ、種類かー……んー……私はスーパーのからあげが好きかな。ほら、ママナカってスーパーのから揚げ、ジューシーで美味しいんだよね」

茂木「ママナカなら私もたまに買いに行くかな…」

石沢「ジューシーか…パンに油が染み込んでふにゃふにゃになりそうだ」

山口「食感が最悪だな。却下」

上田「えぇぇ……」

  売店のドアが開く音。先生登場。時刻は十二時五十三分。

先生「石沢君、上田に茂木さん、それに山口君。あと五分くらいで授業始まるわよ。何やってるの」

山口「げっ、大川先生……」

茂木「大川先生、こんにちは」

石沢、黙って先生に会釈。

上田「せんせえ~」

  上田、山口の却下が気に入らないのか泣きつく。

先生「どうしたの上田、また部活の相談?次の授業があるから昼ごはんを買いたいんだけど……あ、石沢君、そこのから揚げパン取ってもらえる?」

石沢「や、先生、それが……」

茂木「みんなから揚げパンを買いに来たんですけど、残りがあと一つしかなくて…」

先生「そうだったの?困ったわね……ランチルームもお弁当屋さんも、今日は全部売り切れって言われたんだけど…」

山口「たとえから揚げパンを欲しがるのが先生でも変わらねえ、このから揚げパンが欲しくばから揚げへの情熱を示してもらわないと」

先生「え?」

茂木「山口君、から揚げに対する情熱が強い人にこそ、このパンが相応しいってずっと言ってて……」

先生「山口君……(ため息つきながら)君は人の話を聞くようにしなさい、と個人面談でも言ったつもりなんだけど……仕方ない、手短に頼むわね」

山口「よっしゃあ!じゃあ先生、から揚げパンに一番合うから揚げの種類はなんだと思う?」

先生「愚問ね、コンビニから揚げに決まってるじゃない」

山口「それはから揚げとは言わねえ!な、石沢!?」

石沢「何で俺に振った!?」

先生「コンビニから揚げのどこがから揚げじゃないって言うのよ」

山口、ちっちっと指を振る。

山口「先生、わかってねえな……から揚げってのは揚げたてを食べてナンボだろ?」

先生「だから何よ」

石沢「先生、俺も冷凍食品派って言ったら同じこと返されたんで、気にしなくていいと思います」

山口「コンビニから揚げは工場で揚げたから揚げを冷凍輸送して、コンビニで調理してるんだぜ?揚げてから時間が経つと味が染み込み過ぎて、出来立ての味よりも辛くなっちまうのはいただけねえな」

上田「濃い味が好みの人も居ると思うけど…?」

山口「やっぱから揚げは揚げたてで食べるのが一番だろ。それと、これはスーパーのから揚げに関しても言えることだが、賞味期限が短い分少しでも売れ残るとすぐ廃棄物になっちまう。大変環境によろしくない」

上田「でも、コンビニから揚げって気軽に食べられるし、色んな人が多く買っていきますよね。私も部活帰りに小腹空いたとき、お世話になってるし」

 授業開始5分前のチャイムが鳴る。先生、時計を確認。

上田「先生、そろそろ授業だよね?」

先生「あらやだ、もうこんな時間!はあ……一時間我慢するしかないわね。良い?みんな、授業に遅れないようにするのよ」

  先生退場。

茂木「(先生舞台袖にはけたと同時に)先生、行っちゃったね……」

上田「そろそろ次の時間の準備しなきゃなんだけど……(山口に)まだ納得行かないの?」

山口「まだだ。まだ誰もパンに一番合うから揚げを納得いく形で説明してねえ」

上田「あーあ、授業始まるって言ってるのに……気になって戻るに戻れないんだけど!」

山口「そんならお前が納得させればいいだろ?なんにも思い浮かばないのかよー」

上田「うう……(肩を落とす)」

石沢「なあ、ずっと思ってたこと言って良いか(腕を組む)」

山口「どうした?」

石沢「山口、お前ずっと自分の意見押し通してたよな」

山口、ぎくっ、と後ずさる。

石沢「から揚げに対する情熱って、全てのから揚げに対して熱意を持つことだろ?冷凍だから、油だからなんだかんだって、結局自分の好みじゃないから否定してるだけだろ?」

山口「むっ……」

石沢「結局、俺達そんじょそこらの高校生にから揚げを語るにはまだ早いと思うんだ」

茂木「言われてみると……」

上田「今までがスケール大きすぎたというか……」

石沢「だからさ、難しいこと考えずに『結論・から揚げパンは至高』ってことで」

山口「……なんか負けた……」

石沢「ちなみに」

山口「……なんだよ」

石沢「僕はから揚げパンに一番合うのは冷凍から揚げだと思ってる。油でふやけたりしないし、レンジでチンした後ならほかほかで美味いし。何よりあのチープな味が好きだ」

  茂木、上田、おお~と拍手。

  

  舞台暗転。

  

上田「わ、もうそろそろ授業始まっちゃうよ!次体育だから先行くね!」

上田、騒々しく走り去る。遅れて三人も売店の外に出る。

石沢「なあ、結局からあげ談義って必要だったのか?」

茂木「そういえばさっきのからあげパン、誰も買ってないような……」

石沢「……やーまーぐーちーぃ……」

山口「あ、わりわり!つか、授業始まんぞ!」

  山口舞台袖に退場。

石沢「懲りてないなあいつ……環境に悪いとか言っておきながら自分も同罪だよな、全く」

茂木「ふふ……あ、教室戻るね」

石沢「ああ、またな。……はあ、帰り際どっかにおにぎり買いに行くか……」

  石沢と茂木もそれぞれ舞台左右にはける。

石沢(モノローグ)「最後まで誰にも買われることなく残ったそのからあげパンは、廃棄場に持っていかれて、そのまま処理されたらしい。からあげパンの行方を知るものは誰もいなかったという……」

  モノローグと同時に舞台照明消灯。舞台中央のパン置き場に向かって光が小さくなる。完全に消灯した後、閉幕。


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