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希死念慮と障害者になった僕

僕の保護費は家賃3万円を入れて11万円。これに医療費が全額無料と、あと公共料金がなんだかいろいろあったはずだが覚えていない。

正直貰いすぎだと思った。

8万あれば生きていける人間が11万も貰って、しかも貯金できない使いきりだ。

「こんな大金を貰って生かされるほど僕は価値があるのだろうか?」

そう思い悩んで恐怖で眠れなくなった。

心療内科で睡眠導入剤をもらっていても安眠できなかった。

僕は保護費で冷蔵庫を買って、なんとか一ヶ月で11万を使いきり、家計簿をつけてケースワーカーの大福さんに見せに行った。

大福さんは可愛い顔で笑って

「保護費を何に使おうと自由なんですよ」

と言ってくれた。

何に使っても自由。僕はパチンコはうるさくてできないし、そもそもやったことないし、宝くじを買う習慣もない。酒は薬に合わないから飲めないし、飲んだら救急車を呼ぶ騒ぎになってしまう。唯一金を無駄に使うことと言えばタバコだろうか。それも薬を変えるたびに本数が減っていく。

それでも何故か僕は一ヶ月きれいにお金を使ってしまっていた。何を買ったのかよく分からない、手元に残らないうやむやとしたもので、毎月お金は消えていった。

本当にこれが国に認められた生存権なんだろうか。

僕の11万があれば死なずに済んだ人がいたかも知れない。

ケースワーカーの大福さんは、だってそうしないとあなたが死んじゃうでしょ、と認めてくれているが、僕の命に毎月税金11万も投入する価値があるんだろうか。

そう考えてるとどんどん気持ちが落ち込んできて、僕は自殺願望よりも強い希死念慮に取り付かれてしまった。

希死念慮は言葉のまま、死を希望する、もっと強く死ななければいけないと思い込むことだ。

生きよう。という気持ちと同じかそれ以上に強く「死にたい」「早く死ななければ」「どうしてまだ生きているんだ」と考えてしまうこと。

生活保護という税金で生かされている僕にとっては希死念慮こそ正義だ。

首吊りのサイトを調べ、国有林を調べ、喉が紐で痛くないようなタオルの巻き方までマスターした。こんなとこも僕は偏執的だった。

ただし借りているアパートで死んでは大家に迷惑がかかる。大家さんは優しそうなおばあさんだ。

借主が首吊り死体で見つかったら寿命を縮めてしまうだろう…。

一番迷惑のかからないのは国有林だ。

比較的正常な時の僕の思考ですらこうだったのだから、いったん異常になった頭はもっとひどいものになった。

おばあさんの迷惑も顧みず薬を大量に飲んでは救急車を呼ばれたり、首吊りを実行して母親に見つかることもしばしば。

それでも僕のずるいところは「完全に死ぬ」ことが怖くて中途半端な狂言自殺まがいばかりやっていた。

誰かに死んでほしくないと言われたがったのだろうか。自分でもよくわからない、自殺のことをつねに計画しながらも実行するのは到底死ねるとは思えない方法ばかり。

僕は騒いでほしくて自分の命をわざわざ危険な場所にぶらさげて死ぬ死ぬ詐欺をやっていた。

大家のおばあさんにしてみたらこれもこれで迷惑だっただろう。

そんな日々を過ごし、自分が死ぬか父を殺すか愛人を殺すか…と悶々としていた頃。

ケースワーカーの大福さんから意外な電話があった。

「アスペルガーの検査を過去受けていましたか?」

言われるまで忘れていた。

僕は過去自分から望んでアスペルガーではないかと思い込み検査を受けていた。結果はボーダーよりちょっと上だろうと聞かされていたので、自分はうつ病だけの患者だと信じていた。

大福さんは心療内科の先生と面識があり、僕が過去その診断を受けていたことを聞いたようだった。

「それなら自立支援医療と、療育手帳を取れますよ」

僕はまたネットでググる日々になった。

自立支援医療は医療費が指定の病院や薬局でなら一割負担になるもの、療育手帳は障害者手帳だ。

「ただこれを申請すると君は障害者ということになってしまうが…」

病院の先生はそう言ってくれたが、僕は障害者手帳を先生に希望した。

「将来働くことがあったとき、健常者として働いて無能で使えないと言われるよりも、障害者として働いたほうがきっと気持ちが楽になると思う」

僕は自立支援医療と療育手帳三級を手に入れた。

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