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非情なる“マスク”

短いです。


 時間は少し戻る。

 ふだん滅多に人の訪れないアゼラ村に、密かな訪問者があった。十人ほどの集団だが、彼らを目にしていたらマリエとコウは一目散に逃げただろう。

 マリエを追いかけていた男達である。

 彼らは集団が暮らす家の近くまで来ていた。

 男達のうち一人が中心にいた人物に話しかけた。

「隊長、あの家に間違いないようです」

「まったく、とんだ時間を食ったな」

 男達を率いる隊長は舌打ちをした。

 彼らはあの後すぐソネ村に引き返し、『飛竜を飼っていそうな軍隊か金持ち、または飛竜使いの村』を調べたのだ。しかし当然そんなものは見つからない。そこで単純に飛竜に乗るものがいないか尋ねたところ、今度はあっさりと『野生の飛竜を手懐けた子供』の話を聞いた。

 アゼラ村という小さな村の孤児が野生の飛竜を手懐けて騎獣にしているというのだ。

 そんなことがあるのかと訝しがったが、飛竜にのっていたのは子供だという。そこで足を運んだのだ。

 山間の小さな村だ、その子供の居所はすぐ知れた。

「本当にそんなことがあるのか?」

 隊長は呟いた。

 確証が持てなかったので、部隊の一人を斥候として様子を見に行かせた。

 彼らの斥候は密かに物陰に隠れ、集団の家を伺った。朝からなにやら動き回っていたが、黒髪の背の高い──青年──無精髭がなければもう少し若いのかもしれない──と、赤毛の少年が旅装束になっていた。

 男の身のこなしは隙がなく、体つきといい何らかの鍛錬をしているもののそれだ。腰には剣をつるしている。

 少年は矢筒と弓を背負っているが、兵士としての訓練を受けているようには見えない。

 二人の顔立ちには類似点は見られない。少年は幼くかわいらしい顔立ちをしているが、青年と少年の狭間にいるような黒髪の男は不敵な笑みを浮かべているが、目が笑っていない。深い黒瞳と茶色の瞳といい、兄弟ではなさそうだ。

 戸が開いて、髪の長い──厚着をしていたので斥候が間違えた──優しげな顔立ちの女と、目標の少女が現れた。

 斥候は目標の発見に、すぐさま取って返し、隊長に報告した。


 コウが人の耳には聞こえない竜笛を思いっきり吹いた。

 クロウが皆を振り返る。

「留守を頼むぞ」

 クロウが言うと、ブラウンがにっこり笑って応えた。

「はい。任せてください」

 普段の仕事を放りだして集団(ファミリー)総出で三人の見送りに着ていた。後はサードが来るのを待つだけなので、一斉に皆が言いたいことを言い出した。

「元気でね」

「またきてね~」

「マリエちゃーん、名残惜しいよ~」

「もっとゆっくりしていけばいいのに~」

「コウ、お土産買って来いよ」

「風邪ひくなよ」

「気をつけてな」

「マリエちゃ~ん」

 なんともやかましい見送りに、マリエは律儀に頭を下げた。

「ありがとうございました。この恩は忘れませんわ」

 見送りの歓喜の声が響いた。短い間にマリエは皆の心をつかんでいた。

「行ってくるね~」

 コウが手を振り、全員が油断していた。最初は──陽がかげったのかとマリエは思ったが、風きり音が響き、身体がなにかに掴まれ吊り上げられた。

「きゃあああぁぁ!」

 マリエは悲鳴をあげた。

「マリエ!」

 コウは思わず上空を仰ぎ見た。

「しまった!」

 クロウが叫んだ。

 いつの間にか上空に飛竜がいた。サードのような一年仔ではなくりっぱな成竜。それも一匹二匹ではない。十匹もの──しかも人を乗せた──飛竜、そのうち一匹がマリエを捕らえている。

 しかし彼らを驚愕させたのはそれだけではなかった。

 飛竜に乗る全員が、白い顔の造作のない仮面──“マスク”──をつけていたのである。

「“マスク”だと!」

 クロウが目を見張った。

 本来希少なはずの“マスク”を当然のように所持するものたち。

 それは本来ありえないものだった。

 吊り上げられたマリエには、他の九人の“マスク”をつけた男達の周りに、青白い電撃の火花や炎などが現れているのが見て取れた──広範囲攻撃魔法──しかも九人が放とうとしている。

「やめて! あの人たちは関係ない! 何も知らないのよ! やめて! 撃たないで!」

 そんなものを一つでも撃たれれば集団(ファミリー)などひとたまりもない。皆死んでしまう。たった一晩マリエに宿を提供したばかりに──

 マリエの制止にも関わらず、男達が無情にも攻撃魔法を撃った。マリエの視界一杯に攻撃魔法が広がった。

「いやあぁぁああ!」


 マリエがさらわれた直後、ブラウンが叫んだ!

「家の中へ! 早く!」

 子供達は慌てて家の中に駆け込んだ。

 マリエが見ていたものは当然クロウにも見えた。

 広範囲攻撃魔法の前兆でもある魔力が変換される過程──

「やつら、あんなもん撃つ気かよ!」

 それがなされればどうなるか、クロウはよく知っていた。

 だからこそ、どうにかしなければならない。

 家の中へ避難する子供たちとは別に、クロウが家を守ろうとするかのように向かっていった。その手が懐から何かを取り出す。

「兄貴!」

 コウは家の中に入らずクロウの後を追った。

 そして──男達が攻撃魔法を放つ。爆炎が、雷撃が、風の刃が、広範囲に広がり混じりあい襲いかかった──クロウがそれをかざす。なにかを叫んだようだが、轟音にかき消されそれは誰の耳にも届かなかった──コウは見た──すべての攻撃魔法が吸い寄せられるかのようにクロウがかざしたものに集まるのを。

「くうう!」

 凄まじい衝撃に耐えながら圧力に圧されまいとクロウが踏ん張る。

 視界を覆いつくさんばかりの破壊の具象は、奇跡のようにクロウの後ろにはまったく影響を与えていなかった。その光景をコウは呆然と眺めていた。

 時間にすればわずかなものだろうが、集団(ファミリー)には何時間にも感じられた。すべての魔法が引き起こした具象を、それが吸い尽くしクロウが膝をついた。大きく息をつき、全身に汗が滴っていた。

「兄貴!」

 我に返ったコウがクロウに駆け寄る。

 ぎりっとクロウが歯を噛み締めた。

「ふ……ふざけやがって……」

 まだ膝をつき、立ち上がれないようだったが、その形相はコウの見たことのないものだった。

 その震える手に握られていたのは“マスク”だった。

 クロウの前、広範囲攻撃魔法にさらされた場所はことごとく焦土と化していた。クロウがかばわなければ、家ごと集団(ファミリー)全員焼きつくされていた。全員殺すつもりだったのだ。

 助かったのは行幸(ぎょうこう)。偶然、皆が見送りに着ていたから、クロウが“マスク”の所持者であったがゆえに人死にが出なかっただけの事。

 どれか一つでも欠けていれば──ありえなかったこと。

 それ故にクロウが怒り狂う。

 キュイィィィと甲高い鳴き声がした。

 “マスク”の男達の飛竜の姿はとうになく、見慣れたサードのものだった。

「やつらを追うぞ! コウ」

「もちろんだよ!」


──かくて物語は流れ始める──

今回はなんというか……すみません……アクション好きなんですが、下手の横好きという奴です……

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