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一年越しの失恋

 「ベルティ」

隣にいる犬みたいな動物に話しかけた少年は、背格好は小さくまだ小学四、五年生を思わせる雰囲気だ。

「なんですか、エリク」

犬もまた、奇妙に同じ言語を話す。

「今回の助ける人はもう助からないかもしれません」

「エリクにしては珍しいですね。最初からあきらめるような人でしたか」

「いえ、周りで情報を集める限り可能性が薄いんだ」

「まぁ、それを何とかするのがエリクでしょう。私めは理解していますよ」

「そんな僕は大物じゃないよ。だから、この世界で……」

言葉をさえぎるそして、エリクは空を見上げる。

ここに来てからエリクは今の季節は毎回憂鬱になる。

丁度よい気候、涼しげな風。あたり一面にピンクの花びら。

エリクの故郷にはこの樹は存在しない。ゆえに綺麗とはどうしても思えない。

「これを見てここの人たちはなぜ感動するんだろうね、ベルティ」

「美しいと思えるからではないでしょうか。エリクにも、美しいと思う場面に出くわせば感動するかもしれませんね」

「そうですかね。あ、きっとあの人ですよ」

「あの女の人ですか」

エリクはうなずいた。

風貌は中学生三年生だろうか。少しばかり大人びていて落ち着いている感じの人である。

          ♪

──季節は春、中三。

クラス変えの掲示物の前に私は立っていた。

気になるのはもちろん、幼なじみのあいつと同じかどうか。

だって、小さい頃から隣にいて小学校からずっと偶然か必然か、同じクラス。

だったら、この一年間も同じであってほしいと私は願掛け、名簿一覧を眺める。

上から順に。五十音順に並んでる所は三画なんちゃらってやつだと思う。

分からないけど。

苗字はあいつの方が私より早く、あいつの名前、「相原涼一」が私の目にとまる。

一瞬名前にどきりとした。このクラスに私は入っているだろうか。

不安だった。だから、目を瞑って一息。どうかお願い。

目を開けて続きを見る、上から下へ、行が変わり、また上から下へ。

これはなんだろうか。アンドカンというものだろうか。以前本を読んだときにこの言葉があって気になっていた言葉だ。なんというか、安心するってわけではないけど、肩の荷が下りるっていう表現みたいな、そんな感じ。

なぜ、そんな事を思ったかと言えば、そこには私の名前「桜庭ほのり」と書かれていたからだ。

そう、あいつとまた……一緒のクラスだ。

分かった。ほっとしたって事なんだ。

なんでほっとしたかは、分からないけど。妙にうれしい感じもした。

だけど、終わる。

今年で同じクラスになるのは最後。

だってそれは……あいつの成績は中の下。

私はその上。席次もかなり差がある。

一緒に高校にいけばいい話だが私は行きたい高校がある。

それが、三年間積み重ねた結果だ。

私なりに勉強して頑張った。だから、一緒の高校にはいけない。

いや、いかない。

だから、今年で最後。

そう考えると何か切なくて、心に穴が開いた感じになる。

一体これは何?

寂しいって言うことなのかな。

後ろから声をかけられた。普段聞きなれた少し低くなった声。

中学生になって声変わりをした男の子の声。

「また、ほのりと一緒だな。小学から数えると六回目か?」

違う。ずっとずっと一緒。

一年生の頃から一緒。

だけど、それを誤魔化す。

「そうだっけか?覚えてない」

「ま、今年もよろしくな」

そっけない、涼一の挨拶。

私は頷く。すばやく返事が思いつかない…

よろしくね!

と、言おうとしたがやめた。

私らしくないかと思ったから。

ずっとずっと私はお姉さんみたいに振舞ったから。

だから、笑顔を振りまいた。

すると、涼一は恥ずかしそうに「おう」と声をもらした。

私と涼一の最後の一年だ。思い出を沢山作りたいって思えた。

「分からない科目とかがあるなら、私にいえ。教えるから」

「さすがほのり、頼りにします」

涼一は私に敬礼をして、男の子のグループの中へと入っていった。

これでいい。それで思った。

春は桜。どこかできっと花びらが舞っている。

  ♪


――放課後

「こんにちは」

唐突に声を掛けられて私はびっくりした。

見ず知らずの人で見慣れない格好した少年?だろうか。

隣には犬を連れている。悪い人ではなさそうだ。

「何?」

「何か困っている事はありますか」

いきなり何を言っているんだこの人は。

怖くなって私は彼との距離を広げる

「あ、ちょっと待ってください、あやしくないんです…ただちょっと悩んでるみたいだったから僕にお手伝いできたらと思って…」

私が悩んでるように見えたと少年は言った。

確かに、悩んでるといえば悩んでる。今年最後で幼なじみと同じ環境で勉強できないこと

でも、それは他人もしや知らない人には言えない。

「私が悩んでても、あなたに言う必要はないと思いますけど?」

「それはそうなんですが……」

「ですよね?じゃぁ失礼します」

そういって私は逃げるようにその場を離れた。

少年は大きい声で「困ったらいつでも呼んでください!必ず現れますから!」

といっていたが、気にしない。私は自分で解決するんだ。

解決?

何を解決するんだろう。

もやもやする。

心に何かが引っかかる。

幼なじみとの事。

学校の事。

将来の事。

色んな事が折り重なって私にかかって来る。

支えきれるだろうか。

分からない。

分からないけどどうにかしないといけない。

いつだってそうだった。

私がいつも前に立って歩いた。

悩んではいけない。

ただ、ただ前に進むだけだった。

少年のせいでさらにもやもやした私は家に着いたあとももやもやしていて

親にも少し心配された。

このことはまだ先でいいんだ。と、現実逃避をしていた。

現実逃避をすることで、救われる……そんな気がした。

  ♪

「今回も避けれたよ、ベルティ」

「毎度おなじみにですね」

「うん、まぁ当たり前の反応と言えばそうなんだけど」

それでもここの世界の人々を助ければなんとかなるのかもしれない。

そんなことをエリクは思うのであった。

「そろそろ、考えようじゃないですか?私めは思いますが」

「うん。何とかしなきゃね」

エリクは続けて

「まー僕たちはそんなにやることは無いから気長に待ちましょう。時間はたっぷりあります」

エリクには沢山の時間があった。

不慣れなことは沢山あるが、この世界はいて楽しい。

知らない町並み、そして沢山の人々。

やさしい人や厳しい人

いろんな人がいるこの世界はエリクにとっては目新しいものばっかりだった。

エリクの故郷はみながみな穏やかで話し合いもスムーズに行われている小さな世界だった。

そういえば、依然かなり怒られた事があること思い出したエリクは苦い顔をした。

 ♪

先日妙な少年に会ったことは誰にもいえないでいた。

実際誰に言っても信じてもらえないだろうから。

私自身もその少年のことを忘れるようにした。

いや、気にする必要性がないと言ったほうがいいだろうか。

私は行きたい高校があった。そこを目指すためにひたすら勉強するしかない。

涼一とも沢山思い出を作りたいけど夢を追う事が一番だった。

涼一も涼一で私とそんなに会話はあまり無かった。

少なくとも学校ではほとんど喋ることは無かった。

幼なじみでも所詮男と女。

下手するとカップルだと騒がれかねない。

それが嫌で学校では涼一とはクラスメイトとして関わっている。

それが楽だし、お互いにもいいと思っている。

しかし、勘のいい人ってたいてい存在する。

そういう人らにはごまかしを入れる。

私達はただの幼なじみただそれだけの関係でしかないのだから。

そもそも付き合おうと言う概念が良く分からない。

仲良くしてそれでいいじゃないか。

友達同士でどこかへ出かけることもあるだろう。

それと一緒ではないのか。

良く聞かされるのは「○○君とどこどこにいったんだぁ」なんていうもの。

そんなに興味は無く、自分のことで精一杯なのだと私は思っている。

しかし、そんなほのりにも親しい友達がいる。

そんなに主張する人ではないが時には頼れる友達である。

以前その友達に言われたことがある。

「素直になるときは気づいたときだから。それまでは気づいてないことなんだよ」って。

私自身は素直だと思っていたがどうやらその友達から見ると私は素直じゃないらしい。どういう意味なのかは今でもよくわかっていない。

だけど、友達が言うからには私自身に関係があるのだろうと思っていた。

だから、その言葉はよく覚えている。

いろいろな問題を一つ一つ解決するのはとてもとても大変な作業で

私自身それらを把握しているわけじゃない。

ただ目の前のことをきちんと整理して

解決することが最善だと私自身に言い聞かせた。

そうすると。涼一との関係は……それはやめておこう。

一年はまだ始まったばかりだ。

「ほのり、帰るよ」

「おうよ」

軽い返事をする。友達と帰るのは全然楽しいと思う。

色々な事を聞いたし色々なことを教えた。

情報を共有するのは悪くない。


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