鞠つき唄
ぽん、と踏みしめられた地に鞠が跳ねるのが見えた。
父親らしき男がそれを拾ってやってまだ幼い少女に手渡した。
少女はにこにこと笑って歓声をあげながら鞠をつく。
あんたがたどこさ
肥後さ
肥後どこさ
熊本さ
熊本どこさ
仙波さ
仙波山には狸がおってさ
それを猟師が鉄砲で撃ってさ
煮てさ
焼いてさ
喰ってさ
それを木の葉でちょいと隠せ――・・・
鞠が妙な方向に跳ねて見えなくなった。
少女は悲しげな顔をして男に何事か言う。そしてこちらを指差した。
不意に視界が暗転し、ごろん、と視界が逆転する。額を地面にひどく打ち付けたのを感じた。
茶色の地面から“私”は男の手によってすくい上げられ、手渡された少女のほっそりした指先が“私”の頬を撫でた。
少女の鈴を転がすような声音が鞠つき唄を奏でる。
少女の手のひらと地面を何往復も行き来した。
十何往復もしたころ、それまで周期的に上下していた視界が横にぶれた。
藪に突っ込み頬を細い枝で引っ掻く。枝葉の間から男に話しかける幼い少女が見えた。
「ねぇお父さま、また鞠がどこかにいってしまったの。新しいのが欲しいわ。そう・・・あの頭がいいわ」