全知全能への挑戦状 ~人類と地球、そして未来~
ここで語る全知全能とは「完璧な知性」という意味合いが強く、あらゆる宗教上の神とは一切、関係ございません。
「チビ、デブ、ハゲ」
大半の女性に倦厭される男の外見的三大要素と言えば、この三つに限る。
しかしながら、そんなマイナス要素に加えてタムシという足裏の病気を抱
えながらも大国フランスの皇帝に成り上がった男がいる。かの有名なナポ
レオン・ボナパルトその人である。
「バスケットをしている男と、ビリヤードをしている男は容姿の是非に拘
わらず、誰もが超一流のイケメンに見える」
一方、外見的なマイナス三大要素とは対照的に、筆者の知人女性が公衆
の面前で展開してくれた極論も存在する。彼女の視神経が下半身に直結し
ているという事実が否めないため、事実関係の保障は致しかねるのである
が、彼女にとっては不変の真実であるとのことだ。
「1999年、恐怖の大王が空から舞い降り、人類は滅亡する」
ルネサンス期のフランスにおいて、サンバルテルミの大虐殺で悪名高い
カトリーヌ・ド・メディシス、そしてその息子シャルル9世に仕えた医師、
ミシェル・ド・ノートルダムがこのような解釈が可能な言葉を自身の詩集
に残し、後の世で様々な議論を巻き起こした。もっぱらノストラダムスと
いうペンネームで知られている彼の言葉が真実であったか否かはともかく、
未来を知りたいと思う心は一部の人間にとって普遍のテーマであるらしい。
そこで、夜空を見上げるわけではなく、また水晶玉を凝視するわけでも
なく、予測不能な「未来」という事象をある観点から検証してみたいと思
う。
「完璧なる知性をもってすれば、未来も過去と同様に見えているだろう」
実際はもう少し複雑かつ面倒臭い言い回しがされているのだが、こうい
う意味合いの言葉を残したのが、冒頭に記述したモテない男の三大要素が
揃った皇帝ナポレオン・ボナパルトの内相を務めた数学者、ピエール・シ
モン・ラプラスというオッサンである。ちなみに彼が内相を務めた期間は
六週間ほどだったらしい。日数に換算すると42日である。夏休みのバイ
トのつもりだったのだろう。
ところで、彼が唱えた完璧なる知性なるものは一般に「ラプラスの悪魔」
と呼ばれ、ニュートン力学以来、約100年に渡って世界を支配してきた。
結論から言う。
「ムリ」
前述したビリヤードの玉を例に取ると、空気抵抗や摩擦等を考慮しない
限り、玉の動きは遥か先まで予測できることになる。キューで突いた玉が
ビリヤード台の縁に速さが変わらない衝突をすると仮定する。当たった角
度によって進む方向が決定する。玉の数が増えればそれだけややこしくな
るが、基本的にはキューで突かれた玉は単純な運動を永遠に繰り返すこと
となる。玉の行く先は、過去に描いた軌跡の延長線上にあるとも言えるし、
言いかえれば、未来は過去の積み重ねに過ぎない、というのがラプラスの
悪魔の言い分だ。
ついでに、人間というものはしょせん電子の固まりに過ぎないし、複雑
に思える感情の起伏も言ってしまえばドーパミンやノルアドレナリンと言
った脳内物質の分泌に過ぎない。だとすれば、ビリヤードの玉と同様、人
間の未来も予測可能になる。ただし、対象となる物質の数が多すぎて計算
が非常に難しいだけだ。それをできる知性を、ラプラスは悪魔と呼んだの
である。
しかしながら、20世紀に入ってドイツのイケメン物理学者ヴェルナー
・カール・ハイゼンベルクという人物が素粒子の世界において人間が知り
うる限界を設けてしまった。
彼が提唱した不確定性原理というものを簡単に言うと、ガンマ線をもっ
て原子の位置を知ろうとすれば運動量が分からなくなり、電子の運動量を
知ろうとすれば、位置が分からなくなるというものだ。電子の位置と運動
量を知ることはラプラスの悪魔が未来を予測するために必要不可欠な要素
であるため、ハイゼンベルクの不確定性原理の前に悪魔は破れ去ることと
なった。無論、幾つか反論はある。
更に言うなら、一見して単純な運動の連続に過ぎないビリヤード玉の動
きというものは、ものの数秒たらずで計算によって導き出された針路から
外れてしまう。その原因は、ビリヤード台表面の極僅かな起毛であったり、
微細な空気の流れなど、計算する上では取るに足らないと判断される些細
な要素に起因する。
「北京で蝶が羽ばたけば、ニューヨークで嵐になる」
この言葉に代表されるように、気象系などの非常に巨大でランダムなシ
ステムにおいては初期値の微妙な変化が後の行動に大きな影響を与えるこ
とは既に証明済みだ。よって、近似値をもって行う素粒子の測定結果では
ラプラスの悪魔は成立しないことになる。
人間がラプラスの悪魔と同等の存在となることはできない。だが、全知
全能の存在であればどうだろうか。
「予測できるかもしれない……」
筆者の挑戦は破れた。だが、ここであっさり負けを認めるのは性に合わ
ないので悪あがきなどしてみる。
フランスの数学者ブノア・マンデルブローというおじいちゃんがフラク
タル(自己相似性)という幾何学の概念を導入した。自己相似性とは何か
というと、要するに大は小に似て、小は大に似るということだ。例えば、
ある商店の品物の売り上げを例に出すと、8時間の営業時間内に買われた
商品を時間別にグラフにしていくと、不思議なことに1カ月30日の売り
上げと酷似する。ついでに1カ月30日の売り上げは1年365日に酷似
し、更に1年の売り上げは10年の年間売上高に酷似する。こういった事
実を、フラクタルと呼ぶ。
同じようなことが、人間の未来についても言えるのではないだろうか。
ある人間の1日は1年に酷似し、1年は10年に酷似するとすれば、今現
在の自分の状況がそのまま10年先の自分の姿ということになる。夢も希
望もない話だが、そもそも夢や希望と言ったものは、人生の成功者が撒き
散らした敗者たちへのおこぼれである以上、ある意味では否定しきれない。
ちなみに、撒き散らしたものが愛の種であれば、激しい快楽の末に可愛い
ベイビーの顔が拝めるかもしれない。
また、フラクタルの理論は人間だけでなく、我々が住まう地球が辿って
来た歴史にも当てはめることができる。地球は45億年の歴史を持つ。ち
なみに生命が誕生したのは現在から38億年前だとされている。100年
という時間の中にしか生きられない人間には簡単に把握することができな
い膨大な時の流れとしか言い様がない。
この45億年の歴史の中、小規模な絶滅はそれこそ数えきれないほど起
こっているが、多細胞生物が出現して以降、地球は5回ほど「大絶滅」な
るものを経験している。それらが起こった時期はそれぞれオルドビス紀末、
デボン紀末、P-T境界、三畳紀末、K-T境界だ。最後のK-T境界とは6500
万年前のいわゆる白亜紀末、恐竜類の大絶滅を意味している。いずれも、
当時地球上に生息していた種の70%以上が滅び去っているのだから、ま
さしく大絶滅としか言い様がない。そして今現在、我々人類の自己中心的
な行動によって国際自然保護連合が発表するレッド・カードに記載されて
いく種の名称が日々増加の傾向にある。
「地球のために、毎日エコに励んでま~すwww!」
デジタル放送を受信する液晶画面の中で、見知らぬ主婦が嬉々としてそ
う語っていた。テクノロジーの進歩によって人間の生活が便利になる一方、
無配慮に投棄された廃棄物や、自然環境の破壊によって、地球上に生息し
ている生命が打撃を受けていることは事実と言える。よって、上述した主
婦の言葉は一見して正しく思えないでもない。
だが、マスメディアのインタビューに答えていた年若い主婦には失礼か
もしれないが、本来そういう言葉が許されるのはビスケットを胸ポケット
に忍ばせている国家の重要人物くらいなものだと意見させていただきたい。
事実、全面核戦争が起こればまず間違いなく地球は人類が生息することが
できない環境となる。国家の重要人物ならば、そんな当たり前のことは把
握していて当然だ、と言いきれない国がご近所にあるので恐ろしい……。
前述したように、地球は単細胞生物が発生して以来38億年の歴史の中
で5度の大絶滅を経験している。しかしながらここで重要なのは滅び去っ
たのは生息していた種であり、地球そのものではないということだ。隕石
や彗星など地球外から飛来した物体が絶滅を引き起こした原因となってい
る例もあるが、その大半は火山活動や大陸形成などに代表される地球その
ものの地殻変動である。
人間という存在は、自らが夢想するほど強大な存在ではないし、地球と
いう惑星もまた人類が期待するほど脆弱な存在でもない。だとすれば、人
間の破壊的な行動によって滅亡に危機に瀕することができるのは地球では
なく人類の方であるということになる。
「ほら見ろ。私の完璧なる知性が予測できる人類の未来は破滅なのだよ」
ラプラスの悪魔が笑っている。悔しいので一矢報いたい。
「私が本当に興味があるのは、世界の創造に当たって神に選択の余地が本
当にあったのかということだ」
かの有名な物理学者アルバート・アインシュタインの言葉である。解釈
はいかようにもできるが、ここは敢えて未知なる挑戦の余地が残っている
という意味に取りたい。
人間を始め、複雑なシステムというものは人類が認識できる限り基本的
に予測不可能だ。完璧をうたったラプラスの悪魔を押しやったハイゼンベ
ルクの不確定性原理しかり、一度証明されたことは二度と覆されないほど
絶対なものになるとされていた数学的な証明にパラドックスを投げかけた
ゲーテルの定理しかり……。
震災による影響と長引く経済不安の只中にある日本国民だが、予測不可
能という可能性はまだ残されていることもまた事実である。例えラプラス
の悪魔という名の全知全能が破滅的な未来を予言していたとしても、それ
を覆せる確立はゼロではない。
「がんばろう、日本。がんばろう、東北。そして、がんばれ受験生!」
ここまで読んでくださって誠にありがとうございました。
あらすじに書きました通り、受験に役立つ情報を書かせていただきます。
その1.
「暗記モノには青い色が効果的」
少なくともプラシーボ効果はあります。
その2.
「台形の面積の求め方は?」
「(ランキング1位)+(アクセス難民)」×登録数÷2=中途半端
ちなみに「ビスケット」というのは国家安全保障局が乱数に基づいて生成した数字をプリントしたプラスチック・カードのことです。この数字を入力すれば、核ミサイル発射コードが間違いなく大統領から発信されているとみなされます。
某国の主席は、ホントにポケットにお菓子のビスケットを忍ばせているかもしれないですが……。
そして最後になりましたが、被災者の方々に心よりお見舞い申し上げます。