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火球のような物語

作者: 咲良 紫苑
掲載日:2010/11/14

オリオン座流星群、20年に1度の大接近


「ねぇ、パパ、私流れ星見たい」

会社から帰ってきたパパはものすごく疲れている様子だったけど、私は遠慮なく言い放った。

20年にたった1度の大接近を逃すなんて、もったいない。

前回は私は2歳、次回は私は42歳。

多感なお年頃の今、流れ星を見なくていつ見るんだって話。

パパはスーツを脱ぎ、いつものくたくたなジャージのズボンを履きながら言った。

「いいけど、家では見えないよ。うちのベランダからは丁度、隣の二木さんの家の屋根でオリオン座の方向がひらけていないからね。」

ヨレヨレなジャージのくせに、スーツを着ている時よりもイキイキしているように見える。

「どうしても見たい。次はパパ70歳だよ。今回逃したらパパがお星さまになってるかもよ」

「ひどいことを言うね。おまえは。仕方ないな。まんまる公園なら丁度、オリオン座の方向がひらけている。あったかい格好をしてきなさい」


パパはジャージの上に真っ赤なダウンコートを羽織った。いささか派手すぎると私と妹は思うのだが、ママの趣味で選んだ。パパはおしゃれにとことん無関心だから、与えられたものはなんでも着る。

私も、中学生の時、冬物売りつくしセールで買った一着3990円のコートを着た。

何年も着古して、見た目はもはや起毛加工したボロキレだ。パパのダウンの方がまだ見られるような気もする。それでも、このコートに同じく毛玉でかさましされたマフラーを巻けばとても暖かくいられる。

寒さ防御の最終形態といったところで、あまりに寒い日はこの装備で町に繰り出す。…はげしくダサいけど。


パパと一緒に夜道を歩く。2人で変な服装で。

途中で「お酒がどうしても飲みたい。ママには内緒だよ」と言ってビールを飲むパパ。口止め料に肉まんを買ってくれた。


まんまる公園には、流れ星を見ようとする人がちらほら来ていた。

みんな、思い思いの方向を向いて、流れ星を今か、今かと待っている。

中には、用意周到にビニールシートを持参して、ねっころがりながら見ている人もいる。


「ねぇ、パパ。どこを見ていればいいの?みんな、バラバラの方向を向いているよ」

「オリオン座の近くに、大きな三角形があるだろう。そのまんなかあたりを広い視野で見ているんだ。

そのあたりが、流星群の出発点だから。三角形の近くでは、すごく短くて早い流れ星が見えるはず、三角形から離れたところでは、長く孤を描くような流れ星が見えるはずだよ」

「なんで、そんなに詳しく知ってるの?まさか、一人でも見に来る予定だった?」

「…いいから見てなさい」


私は斜め前の巨大な三角形を見つめ続けた。

だんだん目が慣れてきて、見えなかったはずの星まで見えるようになってきた。

途中、うっかり街灯を直視してしまって台無しになったりしたけど。


1時間


1時間10分


1時間30分


パパはその間、4回トイレに行った。

ビールなんて飲むのが悪い。

私は、その間に流れ星が見えてしまったら申し訳ないような、ちょっと自慢したいような複雑な状況になりそうだなぁなど、のんきに考えながら空を見ていた。

もうだいぶ、首が疲れる角度まで三角形が高くあがってきた。


「見えた?」

パパが戻ってきて、再び2人で三角形をひたすら見つめる。

隣のビニールシートでは、カップルがいちゃつきだした。

いま、流れ星が見えたら、『隣のカップル別れろ別れろ別れろ』と願ってしまいそうだ。


更に、近くの西南大学のサークルらしき団体がまんまる公園にやってきた。

「まじー今日ほんとに流れ星見えるのー」

「ぎゃはははは!なにそれ!!ウケルー」

「会いたかったー会いたかったー会いたかったーイェス!!」


壮大なる騒音が静かだったまんまる公園に響きわたる。

なんだかうるさいのがきたな。と私が思っている時でもパパは無言で空を見上げる。

温厚な…というか、何事にも無関心なパパだから。

私もそれにならって、心を無にして流れ星を見なくては。

それにしても、流星群って流れ星が群れになって降り注ぐんじゃないの?

今まで、まだひとつも見れてないって、本当に流星群なの?

私の疑問を察したのか、パパは、「流星群の上は、流星嵐だよ」

と教えてくれた。

そうか。私が想像していた流星群は流星嵐のことだったのか。

そう無理やり納得する。


だいぶ首が疲れたから、騒がしいサークルの方を見てみた。

彼らは、来た時から結構出来上がっていたと思ったのに、まだ酒盛りをしている。

流れ星見に来たわけじゃないのかよ。

「ねぇ、パパ、騒がしいよ」

「すみません。あいつら、酒弱いんで」


パパに話かけたはずが、知らない青年に話しかけていた。

あれ、パパは?

私とパパとの間に、一人の青年が立っていた。

その青年は、パパに「流れ星、見えませんね」と話しかけている。

パパも、「一番見られる時間帯は午前3時から6時なんだって」と普通に会話のキャッチボールをしている。

さっきの私との会話から推測すると、彼はあの騒がしいサークルのメンバーの一人とみた。

なんでここにいるのかは謎だけど…

「じゃあ、まだ2時間以上はここにいないと見えないっすね」

彼をもう一度よく見てみると、派手にイケメンではないけど、爽やかな好青年である。

服装もセンスが良く、細身のピーコートを着て、身の丈にあったジーパンを履いている。おしゃれポイントの靴も、綺麗に磨かれている。

それを知ったとたん、私とパパのいでたちを思い出して顔が燃えそうになった。

第三者から見たら、好青年と、赤鬼と座敷わらしみたいな図じゃないか。

恥ずかしい


私の服装に関する羞恥心が伝わったか、好青年は「ご近所に住まわれているんですか?こんな良い公園が近くにあるなんていいですね」と言った。

「えぇ、まぁ。ねぇ、パパ。近所だから、こんな格好でも来ちゃうんだよね」

「うん。今、流れたね」


ん。流れたの?

青年と私は急いで空を見上げたが、もう空には必要最低限の星しか見えなかった。

また、街灯を見てしまったから、眼がくらんでる

「残念だったな、綺麗でしたか?」

「綺麗だったよ。2秒ぐらい流れたかな。高速あいうえおを頭の中で3回唱えられたから」

「なにそれ、パパ。高速あいうえおって」

私はパパに先に見られたことが悔しくて、空を見上げながら聞いた。

「パパ、小学校4年生の時の研究で、流れ星のことをやったんだ。流れ星は何秒流れるのかっていう。何秒か測るために、あいうえおって1回言うのに何秒かかるのかを測定して、夜空を見ながらずっとあいうえおって唱えていたんだよ。1回唱えるのにだいたい0.6秒だったよ」

「パパって、流れ星、そんなに好きだったんだ」

「もしかして、それって40年前のオリオン座流星群ですか?」

「お、良くわかったね。さすが、西南大学の生徒だね」

「いや、でもいいっすね。思い出の流れ星を娘さんと見られるなんてね」


パパは何も言わなかったけど、私はちょっぴり感動した。

涙がこぼれないように上を向こう…じゃないけど、夜空をじっと見つめる。

親子水入らずを邪魔している青年が一人いるけれど、この人のおかげで良い話になりそうだから、まぁ、許してやる。


「「あっ!!」」


私の目に、一筋の白い線が飛び込んできた。

それは、夜空を切り裂くようだった。

どうやら、青年も見たらしい。


「ねぇ、パパ!!見た?すごい、明るかった!!」

「おめでとう。あれは流れ星の中の流れ星。もはや流れ星という名前じゃなくて、火球と呼ばれる程明るいものだよ」

「火球…すごいの見えたんっすね、俺たち」

「いいことあるかな?」

「いいこと、あるかもね。パパ、もう1回トイレ行ってくる。それがすんだらもう家に帰ろう。遅いとママが心配するから」


パパは再びトイレに向かって歩き出す。


「なんか、申し訳なかったね。せっかくの親子の時間に邪魔しちゃって」

「本当ですよ。というか、いいんですか?サークルの方に戻らなくて」

「戻ります。ではさようなら」

「はい。お元気で」









この数年後、私と彼は再び出会うことを今はまだ知らない。

パパの予言「いいこと、あるかもね」は事実になる。

その話はまたいつか。

今はただ、火球のように過ぎていった一夜のほんの小さな物語で幕を閉じる。





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― 新着の感想 ―
[良い点] 表現が奇麗で面白かったです。 ちょっとワクワクする物語でした。 [気になる点] 悪い点と言いますか、気になった所だけ。 ―←これと…←これですね。 だっしゅとリーダは―― …… このように…
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