第15話・第16話 ータケルー
学校が終わり、家に帰ると、玄関の鍵が空いていた。
ガラガラと引き戸を開ける。
「母ちゃん、帰ってるのか?鍵、空いたままだったぞ。」
「タケル?あぁ、おかえり〜。え?玄関の鍵?あー、忘れてたわ。閉めといて〜!」
「ったくも〜。抜けてんだから。それでパート勤まんのかよ。」
「あ〜ら、こう見えて母ちゃん、お客さんに人気あるんだから!元気で明るくていいね〜って!」
「能力じゃなくて、性格かよ…。ま、いいけど。」
「コミュ力って言いなさいよ!意外と社会に出ると大事なんだよ!あんたも、これからよ。がんばんなさいよ。」
「あぁ。そう言えば、この前、進路相談の紙、配られたわ。」
「えぇっ!?進路相談??それ、学校に提出するやつじゃないの?早く出しなさいよ、もう〜!」
そう言って、母親は俺から紙を受け取ると、少し眉間にシワを寄せて口を開いた。
「あんた、どこか行きたい所、考えてるの?」
「あ、まぁ。まだ考え中だけど、いくつか候補は出来てる。」
「父ちゃんと母ちゃんはね、あんたに好きな所に行って欲しいって思ってるのよ。お金の心配はしなくていい。そりゃ、もし、県外とか私立ってなったら、アンタにもアルバイトとか、して貰う事にはなるけど…。」
「私立は今んとこ、候補にはないから。ただ、家を出るかどうかは、まだ、どうなるかわからない。」
「で、何?レベル的には◯◯大学とか?その辺なの?」
「まぁ、今のままで行ったら、そんな感じかな。でも、本当に行きたいとこは、もっと上の…。……もしこれから頑張って勉強しても、入れるかわかんねー。」
「……。」
母親はじっと俺の目を見つめて、それから、少し口に力を込めて、話し始めた。
「あんたね、この大学受験ってのは、本当に人生の分岐点なのよ。どの大学に行くか、どの友人や先生に出会うか。どんな経験をするか。全て、あんたの人生に関わってくる。けどね、今の時点で、行ける所でいいや、なんて甘い道を行こうってんだったら、どこ行ったって一緒よ。やるからには、全力でやりなさいよ。受かっても受からなくても、本気で向き合うことが、今後の人生に繋がると母ちゃんは思うよ。もしそれで落ちたってさ、頑張った事は、あんたの見えない財産になるんだから。」
「母ちゃん……。受験生に向かって『落ちる』なんて、禁句だろ。よそでは言うなよ。」
「家でしか言わないわよ!」
「…家でも言うなよ…。」
(……本気で向き合え…か…。)
◇◇◇
例の彼女とは、あの偶然の会話以来、すれ違う度に挨拶を交わすようになった。
「あ、おはよ〜。いってらっしゃい。」
小さく手を振る彼女。
「どうも…。いってきます。」
軽く頭を下げて、通り過ぎる俺。
気の利いた事は何も言えない。
ただ、それだけ。




