【第4話】 「三人暮らし、無理ゲー」
朝、目を覚ました瞬間、布団の端が床についていた。
狭い。
とにかく狭い。
「……部屋が、満員電車みたいなんだが」
「……電車?」
「……満員?」
二人同時に首をかしげるの、やめてほしい。
◆◆◆◆
まずは生活ルールを決めることにした。
床にメモ帳を置く。
「よし、重要事項からいくぞ」
「……はい」
「……承知しました」
「一、勝手にドアを開けない」
「……ノックします」
「……します」
「二、風呂は一人ずつ」
「……残念です」
「……神的にも注意ですね」
「三、着替え中は入らない」
「……見てはいけませんか」
「……穢れます」
「そういう問題じゃない」
◆◆◆◆
朝ごはんを作る。
フライパンを出すと、二人が覗き込んできた。
「……神器?」
「調理器具」
「……火、出てます」
「ガスだ」
卵を割ろうとした瞬間。
「……やります」
リュシアが勢いよく割る。
ぱかっ。
黄身が、俺の手に落ちた。
「……成功?」
「床に行かなかっただけマシだ」
千代が真剣な顔で言う。
「これは、清めた方が……」
「台所で儀式始めるな!」
◆◆◆◆
洗濯の時間。
洗濯機の前に、二人が並ぶ。
「中で服が回っています」
「……踊り?」
「回ってるだけだ」
スタートボタンを押す。
ごとん。
「……暴れてます」
「正常運転だ」
リュシアが俺の袖を引っ張る。
「……入れます?」
「入らない!」
「……一瞬なら?」
「だめだ!」
◆◆◆◆
昼。
俺がシャツを脱いだ瞬間、ドアが開いた。
「……朝倉」
「今はだめ!」
「……ノック、忘れました」
「ルール一番だろ!」
慌ててタオルで隠す。
「……肌、思ったより白いです」
「感想いらない!」
千代が顔を背ける。
「……神的にアウトです」
「だからそういう問題じゃない」
◆◆◆◆
午後。
部屋の模様替えをすることにした。
「……布団、ここ」
「……私は、窓の近く」
「俺は、ドアの近く」
配置を決めた直後。
リュシアが布団につまずいた。
「……わ」
倒れ込んできて、俺も一緒に転ぶ。
「……クッション性、あります」
「評価するな」
千代が慌てる。
「転倒は穢れです!」
「今は大丈夫だから!」
◆◆◆◆
夕方。
コンビニで買った袋を開ける。
「……この袋、何ですか」
「お菓子」
「……甘い?」
「甘い」
クッキーを一枚渡す。
「……軽い」
「お菓子は軽い」
千代がじっと見る。
「神にも、許されますか」
「カロリー的にアウトかもな」
「……難しい世界です」
◆◆◆◆
夜。
風呂の順番で揉める。
「……先に入りたいです」
「……私が先です」
「じゃんけんで決めろ」
「……じゃんけん?」
「……拳の儀式?」
「違う!」
結果、俺が最後。
ドアの外から声が聞こえる。
「……泡、多いです」
「……流れていきます」
「実況するな!」
◆◆◆◆
布団を敷く。
三つ並べると、床が見えない。
「……近いです」
「知ってる」
「……でも、安心します」
電気を消す。
暗闇。
「……朝倉」
「なに」
「……ここ、変です」
「毎日言うな」
「……でも、少し楽しいです」
「それは、否定できない」
天井を見る。
俺の一人暮らしは。
いつの間にか、三人暮らしになっていた。
しかも、普通じゃない。
鏡の前に、三人分の布団。
「……無理ゲーだな」
二人が同時に首をかしげる。
今日も、異界の待合室は満員だった。




