【第3話】 「神社の守り神見習い」
朝、起きた瞬間に現実を思い出した。
部屋に女の子が二人いる。
しかも、どっちも普通じゃない。
「……おはようございます」
「……朝倉、おはよう」
銀髪のリュシアと、巫女服の少女が並んで頭を下げた。
「状況、整理しようか」
「……整理、得意です」
「私は不得意です」
「自覚あるなら言うな」
◆◆◆◆
まず、巫女服の少女に名乗ってもらう。
「私は千代と申します。神社の守り神見習いです」
「見習い?」
「はい。まだ正式な神ではありません」
「就職活動みたいに言うな」
千代は、部屋を見回してうなずいた。
「ここ、清めが足りませんね」
「待て、塩まくな」
「では、お香を」
「持ってくるな」
リュシアが首をかしげる。
「……神様?」
「見習いです」
「……半分?」
「半分です」
「ややこしい」
◆◆◆◆
朝ごはんを作る。
フライパンを出したら、千代が覗き込んできた。
「それは神器ですか?」
「テフロン加工だ」
「……てふろん」
「呪文みたいに言うな」
油をひくと、千代が真剣な顔になる。
「火を操るとは……」
「ガスコンロだ」
「文明、怖いです」
リュシアが卵を持つ。
「……これ、割ります」
「殻は捨てるんだぞ」
ぐしゃ。
「……砕けました」
「砕きすぎ!」
黄身が床に落ちる。
「……すべります」
「踏むな!」
リュシアが足を滑らせ、俺の方に倒れ込む。
「……支えてください」
「ちょ、腕つかむな!」
千代が慌てる。
「転倒は穢れです!」
「今はそれどころじゃない!」
◆◆◆◆
朝食後、鏡の前で会議。
「二人とも、どうしてここに来たんだ?」
「……私は、門を調査していて」
「……私は、光に引っ張られました」
「結論、事故だな」
千代は真面目な顔で言う。
「この鏡、異界をつなぐ通路です」
「門って言うな」
「……通路です」
「よし」
千代は、床に正座した。
「条件がそろうと、開きます」
「条件?」
「……まだ分かりません」
「見習いだもんな」
「失礼です」
◆◆◆◆
昼。
洗濯を回す。
千代がじっと見ている。
「中で服が踊っています」
「回ってるだけだ」
「……神楽?」
「違う」
リュシアがタオルを持つ。
「……これは、何に使いますか」
「風呂」
「……また、あの水場」
「また一緒に入る気か」
「……だめ?」
「だめ」
千代が頷く。
「男女混浴は、神的に注意です」
「どっち側の神意見だよ」
◆◆◆◆
午後。
千代が突然、部屋の隅で手を合わせた。
「……感じます」
「何を」
「この部屋、少しだけ不思議が溜まっています」
「不思議って何だ」
「……説明、難しいです」
リュシアが鏡を見る。
「……また、光るかも」
「今日は休んでくれ」
◆◆◆◆
夕方。
コンビニに行くかで揉める。
「……外、見たいです」
「人が多い」
「……危険?」
「説明が難しい」
千代が真剣な顔。
「私も同行します」
「なんで」
「神は人混みが苦手です」
「理由が逆だろ」
結局、留守番。
リュシアは、窓に張り付く。
「……箱の中に、人が」
「それ、車な」
◆◆◆◆
夜。
布団を三つ並べる。
部屋が完全に埋まった。
「……狭いです」
「知ってる」
「……でも、安心です」
千代が正座で布団に座る。
「私は床で」
「布団使え!」
「神見習いの意地です」
「意地の使いどころ間違ってる」
電気を消す。
暗闇。
「……朝倉」
「なに」
「……ここ、不思議です」
「毎日言うな」
「……でも、少し楽しいです」
「それは、否定できない」
そのとき。
姿見が、ほんのり光った。
「……え?」
「……反応、弱いです」
「開かなくていい!」
光はすぐ消えた。
俺は天井を見る。
「……満員御礼って、こういうことか」
銀髪の少女と、巫女の少女が並んで首をかしげる。
俺の部屋は。
今日も異界の待合室だった。




