9.イーハンの町(1)
翌日。イーハンの町へとたどり着いた。
小さな町ではあるけど、交通の要所。
ゲームではぼろぼろな町だった。
中華風の街並みで、にぎやかな町。
今、目の前に広がる活気ある市場が広がっている。
町に入って、興味津々に周囲を見てるとルヴィニがさらっと言った。
「じゃあ、僕は用事あるから」
「え? 別行動なんですか?」
「うん。勝手に町でて、逃げたりしないようにね? 明日の朝、町の入口ね」
「あ、はい……食料、自分のだけでいいですか?」
「う~ん。一応、買っておいてくれる。1週間分でいいよ」
ポンとお金を渡された。食料買うにも、1週間分には十分すぎるお金だけど。
とりあえず、これだけあれば1か月分くらい買えるのでは?
自分とは別にきちんと管理しておかないとだ。
入口でルヴィニと別れたあと、市場へと向かう。
私の収入については、道中で手に入れた薬草とか、木の実とかベリーとか。
町の外で手に入る素材を売って、お金を手に入れるしかない。
ゲームでは、魔獣がはびこっている世界観だったけど、現時点では被害は少ない。
それでも、積極的に採りに行かないので、それなりのお金になる。
「他にも買い取り希望はあるかい? この時期ならヤマモモとかも買い取るよ」
「じゃあ、10個くらい」
ヤマモモも30個くらいもっている。
ルヴィニと出会う前だけど、採取スポットを見かけるたびに採っておいた。
すっぱいけど、魔力回復効果とかもある。
「いいね。銀貨1枚で買い取ろう」
「おっ、珍しいもの持ってるな」
「え?」
店主は代わりにとジャガイモやニンジンを用意してくれた。
物々交換に近い形で購入していたら、横から覗き込むように私を見ている美少女がいた。
いや、でも、今聞こえた声は低い男の声だったような?
「なあ、私もこの実が欲しいんだが、売ってくれるかい?」
「おっ、綺麗な兄ちゃんだな。商売の邪魔はしないでくれよ?」
「おう、おっちゃん。すまんな。ヤマモモは好物なんだ」
「店の前でやめてくれ。ほら、いったいった」
私と店主のやりとりが終わり、店の前を離れる。
にこにこと笑っていながらついて来るのは、ヤマモモが好物らしい青年?
声と顔のギャップに違和感があるけど、よく見ると喉仏がある。
身長も女性にしては高い。多分、男だろう。
店から離れて、邪魔にならないところへと移動する。
声をかけてきた青年。服装は和服だし、ルヴィニと同じ腕輪を右腕にしている。
間違いなく、関係者だろう。
髪の毛の色も水色だし、瞳の色はサファイアを彷彿とさせる澄んだ青。
ルヴィニのように剣を持っていないし、戦闘系ではなさそうだけど。
「なあ、あの実は自分でも食べたりするだろ? 手元にあるなら、二つでいい、売ってくれないか?」
「どうしてですか?」
「いや、懐かしくてな。昔、一緒に食べたのを思い出したんだ」
「……いいですよ」
怪しいなと思う。
ただ、水の神子様への接触の機会を得られる可能性を増やしたい。
ルヴィニ以外でも知り合いは増やしておきたい。
袋からヤマモモを取り出し、5つ渡しておく。
私が勝手にルヴィニの関係者かなと思っているだけで、違うかもしれないけど。
「おっ、いいのかい?」
「どうぞ」
ルヴィニに譲ってもらった食料に比べれば、安すぎて申し訳ないくらいだ。
ルヴィニが食べさせてくれたお肉、美味しかった。
さっき市で確認したら、高いことがわかったからね。
「いいのか?」
「はい、あなたの同僚にお世話になったので、どうぞ」
「ん?」
「ルヴィニとお揃いの腕輪しているので……流行りの物という訳でも無さそうなので、同僚でしょう?」
風の大陸の人は、ほぼ中華風の服装をしている。
だけど、水の民は違う。
和服が基準になっている。
さらに、同じ腕輪を付けているなら、水の神子の関係者で間違いないだろう。
「ああ、これか! ルヴィニの知り合いだったのか」
「はい。この町に着いた途端、用事があるとかで別行動になりましたけど」
「ふ~ん……それまで一緒にいたのか」
目を細めて、うっそりと笑う顔は最初の印象である美少女から、気位の高そうな美女に印象が変わった。いや、声は低いんだけどね。
「ルヴィニと待ち合わせだったりします?」
「まあな。どこ行ったかわかるかい?」
「いえ、全く」
「なら、仕方ないな」
にこにこと笑いながら、私について来る。
待ち合わせしているんじゃなかったのか。
食料を買い終えたので、服とかを見に行こうとしたらついて来る。
この服は目立つ。
水の民を装い、水の神子様と接触するためにこの格好にしているけど。
すでに目的の神子様への接触は何とかなりそうなので、この大陸で日常的に使われる服を替えとして用意しておきたい。
「あの?」
「待ち合わせの時間は夕方だからな。それまで、君と遊ぼうと思う」
「え? なんで?」
突然の遊びのお誘い。いや、なんで?
笑顔であるけど、何故か、逃げられない感が強い。
でも、ルヴィニとはまた違って、圧のある笑顔ではない。
純粋に楽しそうな笑顔は癒し系ではある。
「あの、私、買い物があるので」
「そうか。私も付き合うぞ? この町も何度か来たことがあるからな」
たしかに、私は初めてだから土地勘とかはないし、案内してもらえるのは助かるかもしれない。
「いや……う~ん、まあ、いっか」
ルヴィニと約束しているのは夕方らしい。
まだ1時間以上あるし、時間を潰したいというのもわかる。
それなら、一人で買い物するよりも楽しいかもしれない。
「じゃあ……えっと、名前を聞いても?」
「ああ、サフィロスだ。」
「私はミオ。よろしくね」
握手を求められたので、手を差し出すと楽しそうに握られた。
思ったよりも大きい。それに意外と手のひらが固い。
そうは見えないけど、ある程度は戦える人なのかもしれない。
ルヴィニみたいに完全武闘派では無い。
でも、油断ならない雰囲気をしている人だった。




