8.聖獣オリオン
ルヴィニが私を庇い、魔獣との間に立っていた。
魔獣が私に咬みつこうと大きく口を開けた。
その瞬間、魔獣の牙とルヴィニの剣が当たり、バキッという音で魔獣の牙が折れた。
魔獣がルヴィニの反撃に怯んだ。
ただ、ルヴィニは攻撃を弾いたけど、積極的に倒すわけではないらしい。
私に視線を送り、どうするのかを問うように見ている。
「うっ……今度こそ……聖獣召喚! オリオン!!」
震える足で、立ち上がり、杖に魔力を込めて、聖獣を召喚する。
私とルヴィニの前に魔法陣が現れ、そこから聖獣が出てくる。
「きゅ~!!」
オリオンのモデルは麒麟。
大きい馬くらいの大きさで、見た目は鹿のような体で、立派な角があり、胴体は白い鱗で覆われていて、青い鬣が靡いている。瞳が優しい可愛くも美麗な聖獣だ。
角の先から雷を操ったりできる光属性もちであり、水の上を歩いたり、空を駆けたりも出来るので、移動手段にも便利。
「オリオン、電撃で牽制と足止め!」
「きゅっ!!」
私の言葉も理解してくれる。オリオンに指示を出す。
魔獣は、大きさもあり、魔法で攻撃してくるオリオンを警戒している。
こちらに唸っているだけで、攻撃が止まった。
「結界!」
オリオンが私の指示で角から電撃で攻撃している間に、集中して、結界の準備をする。
目標の場所にオリオンが雷で誘導し、そのまま展開して、魔獣を閉じ込めた。
「ふぅ……ありがとう、ルヴィニ」
魔獣が動けなくなり、脅威が減ったのを確認して、隣に立つルヴィニにお礼を言う。
「戦闘中に気を抜くのは良くないよ」
「大丈夫、です。結界は魔力が切れるまで壊れないはず……もっと強いなら別だけど」
「ふ~ん?」
あっ、怒ってる。
迂闊すぎると言いたいのだろう。
お説教始まる前に、対処してしまおう。
だけど、先程から結界に魔獣がタックルをしているけど、びくともしていない。
結界が壊れる心配は無さそう。
うん。結界自体は強力だから、戦い方を考えるべきかな。
「ちょっと、倒すからまって……浄化」
杖に魔力を込めて浄化を行う。
浄化は派手な攻撃ではない。穢れを纏う魔獣相手なら有効な手段だ。
結界に閉じ込めたまま、浄化を続けていると、魔獣が光になって消え去った。
「ふぅ」
作業を終え、息を吐きだした。
終わったという安堵の中で、じわじわと汗が流れてくる。
浄化と結界と聖獣がいれば、基本的な戦闘はできる。
そう思っていたんだけど、それだけでは駄目だと身に染みた。
どんなに強い魔獣でも、浄化で穢れを祓えば特攻効果。
効果はあるのだけど、発動させるには、相手の足止めが必要。
結界も、基本的な使い方は3つ。
相手を封じ込める、逆に自分を中心に展開して防御。
そして、ゲームと同じ一定の場所に設置。
これを組み合わせれば、戦闘も何とかなると思っていたのに。
さらにゲームほどには荒れた世界ではないから、危険は少ないという予想も外れていた。
少ないといえ、すでに魔獣が産み出されている。
魔法は上手く使えないし、杖を適当に振り回しても当たらない。
戦闘は考えないと本気でまずい。
「消えたね……この赤い石は?」
「教団が魔獣を産み出すときに使う核です」
魔獣の胸に埋め込まれていた赤い石だけが、ぽとっと地面に落ちている。
それをルヴィニが拾って、翳して中身を確認している。
「僕がもらっていいかな?」
「壊した方がいいと思いますけど」
「そう? これ、どんな効果があるかわかる?」
「……存在としては、穢れを収縮させて、教団の技術で固形化したもの……」
たしか、公式の大百科の説明がそんな感じだった。考察ではもう少し違う予想もあったけど。
これを獣だけでなく、木や石、人にまで埋め込むと暴れまわり穢れを撒き散らす存在になる――ゲームでだけど。
「すでに、これがあると思わなかった……」
5年後、ゲームが開始された直後、この赤い石が埋め込まれた魔獣と戦うことになる。
負けイベであり、中盤、漸く倒せる中ボス的な存在だったはずなのに。
予想より教団側の動きは早いかもしれない。
「ねぇ、本当に、迂闊すぎない? なんで、召喚してから戦わないの?」
「え? いや、何とかなるかなって……」
「馬鹿だね。僕が手助けしなかったら、どうなってたと思う?」
「……反省します」
わかっている。
私が何とかなると思っていたのは、所詮、机上の空論だった。
すでに、破滅への芽は出ている。戦わなくても、改変できるという甘い考えは捨てないといけない。
出来る限り相手の目論見を潰さないと、目指すべき世界の破滅を回避は出来ない。
「ぐるぅ~!!」
「うん? ご主人様をいじめてると思ったのかな? でも、危ないことを教えないと繰り返すよ」
「きゅう!」
オリオンがルヴィニの背中をぐいぐいと鼻頭で押して抗議をしてくれたけど、ルヴィニの言葉にそれもそうかとオリオンが頷き始めた。
「いい子、いい子~」と撫でながら、いかに私が駄目だったとオリオンに教えている。
悪い個所は参考になるし、次にはいかさないといけないけど。
オリオンも納得したのか、ルヴィニになつき始めてる。
少し気まずくなったので、ルヴィニから距離を取り、ひっかき傷を負った場所を確認する。
腕や足に負った傷は紫色の靄みたいなものがまとわりついている。
「浄化」
傷を覆うように手で、魔力を込めると靄が消えていく。これが魔獣との戦いの嫌なところ。
穢れを負ったまま、放置し続けると徐々に弱っていき、死んだあと――屍人となって、人を襲うようになる。
核持ちの魔獣を放置できない理由は、そこだ。
「大丈夫?」
「うっ、平気です。一般人が魔獣と戦うより、ずっとましですから」
放置も出来ないし、浄化が出来ない人が戦えば、二次被害が出てしまう。
「ふ~ん。まあ、旅の商人とかは対処できないしね。悪くない判断だよ。他に魔獣はいないの?」
「風の大陸内では、ですけど」
「そう、お疲れ様。よく頑張ったね。ねえ、この子、オリオンっていうの?」
「はい。そうですよ」
何だか、機嫌が少し良くなっている?
私が浄化しているのを確認しつつ、オリオンと一緒に近づいてきた。
「それで、報酬をもらおうか。魔獣の区別の仕方は?」
「魔獣が生まれる方法は、二つ。穢れのレベルが2以上の土地に滞在し続けた獣が穢れを吸収し変質して、魔獣となります」
「それで?」
「邪龍の復活を目論んでいる教団、この信徒が魔獣を作り出せます。これは、穢れが無い土地に穢れをばらまく魔獣……さっきのです」
私の目的は神子様の暗殺阻止をする。
ここで、教団側も動いていることが確認できた。
穢れを広めるための行動だと思うけど。
教団がこの時期に風の大陸にいるなら、神子暗殺にも関わっているのか……私の予想だと、関わっている。
ルヴィニは「なるほどね」と納得しつつも、じっとこちらを見てきた。
「最初から普通の魔獣より危険だとわかっていて、この結果? オリオンが足止めをするにしても、複数相手だったらどうするつもりだったの?」
「……考え無しだったのは反省します。でも、穢れが広がらないだけでも、教団の邪魔をすることに繋がります」
「そう。どうして僕に助けを求めなかったの?」
「?」
質問の意図がわからず、首を傾げると、頬をぐいぐいっと引っ張られる。
「なんで、僕に助けを求めないか聞いてるんだけど?」
「いえ、私を見極める立場ですよね? 私の使命に巻き込む訳にいかないじゃないですか?」
味方になってくれるかどうか、それを見極めている段階。
そんな中で、自分の手札である聖獣、浄化、結界と能力を見せてしまったけれど。
「死なれると困るんだけど?」
「なぜですか?」
「まだ言えないかな。でも、困るんだよ。僕は神子の従者って立場だからね」
唇の端は上がっているのに、何故か、ひどく悲しそうに見えた。
彼なりに何か、抱えているものがあるのだろう。
「そういうことだから。死ぬなら、全部重要な事を吐いてからにしてくれる?」
「じゃあ、死なないために、一緒に戦ってくれますか?」
「うんうん、最初からそうやって言おうね? 何のために一緒に行動してるの?」
頬をぐにっと引っ張られた。めっちゃくちゃ、激おこ。
だけど、一緒に戦ってくれるらしい。
「助けていただいて、ありがとうございました。次からは、事前に助けを求めるようにします」
「うん。それだけじゃ足りないから。魔法だけでなく、護身術も覚えようか。教えてあげるよ。いい情報もらったしね」
「よろしくお願いします」
瞳の奥が笑っていない笑顔が返ってきた。ルヴィニの手元には核となった赤い石。
赤い石を月に掲げて眺めるルヴィニの姿は、その瞳の色と相まって、なんだか怪しく見えた。




