73.ここからの先へ(アイオ視点)
ミオさんは唐突にこの地を去った。
血だらけの状態で、僕の腕の中にいた彼女は、突然に姿が消えた。
失った重みと暖かさに呆然とした。
ボロボロの姿になったのは、僕が無理を言ったせいだった。
でも、「作戦、通り……アイオのおかげです」と言って笑った。僕を責めることはなかった。
だから、動けそうにない彼女をすぐに治療しようと思ったのに、消えてしまった。
しばらくして、サフィロス様達が戻ってきたとき、ルヴィニ様が不審そうな顔をした。
僕が怪我をしていないことは、すぐにわかったのだろう。なのに、血だらけで、一緒にいるはずのミオさんがいない。
「アイオ! 血だらけじゃん! 怪我、どこ!? 治すから!」
「あ、いや、大丈夫だよ」
カライスが慌てて近づいたのを平気だと伝え、サフィロス様の前で頭を下げる。
「すみません……ミオさんを守れず、怪我を負わせました。それに……急に消えてしまって」
「ああ。世界から消えたのは俺も把握している。挨拶くらいしてくれればいいのに、薄情だよな」
「サフィロス。聞いてないんだけど?」
「言ってただろ。私の暗殺を阻止出来たら、世界を去ると」
「それはね。そうじゃなくて、ミオがいつ帰ったのかだよ」
「邪龍の痕跡を破壊した後だな。ミオの魔力が喪失した」
サフィロス様とルヴィニ様はミオさんが世界を去ることを知っていたらしい。
その後、説明を聞き、兄さんが引いた理由も、理解した。
もし、サフィロス様達の行動がなかったら……あの後、兄さんからミオさんを守れただろうか。
闇の魔法に捕らわれ、動くことも出来なかった。
魔力は増えたのに、結局、全ての点で上だった。
「アイオ。ミオは何か残した?」
「え? いえ。『ごめん、また』と言う言葉だけで、何も。その、本当に急に消えてしまったので」
「次の指針は無しね。どうする?」
「風王と話をした後、ここを去る。ミオの不在についてだが……知ってる奴は?」
「ジェイド君……一緒に戦っていたから」
「わかった。私が話をつけてくる。ルヴィニ、二人を連れて風の国を離れろ。後から合流する」
「はいはい」
ミオさんは未来を変えるために動く。それを今更、疑ってはいない。
ただ、不安定な存在でもあるらしい。
「この世界にいないことは誰にも言うな」
サフィロス様の命令に僕もカライスも頷いた。
次、いつ、どこに現れるのか。
サフィロス様もルヴィニ様も明言はしなかった。
世界を救う点では、味方ではある。
ただ、水側の思惑と一致するかは、別。共に動くことがあるか、わからないらしい。
じゃあ、闇側はどうなのだろう。兄様は?
ディアン兄さんを失って、今、何をしているかわからないオニキス兄様。
「アイオ。今は光の大陸に行くよ。そこでサフィロスを待つ。その後、どうするかは考えておきな」
「え?」
「カライスは実力的にも、役割的にもサフィロスから離すことは難しい。でも、アイオ。君は違う。それに、色々と世界が変わるからね。自分が何をしたいのか、考えるといい」
「で、でも……」
「ミオの話では、僕もサフィロスも死んで、アイオもカライスも独自に動くようになったっていうからね。自分のなすべきことが何か、見つめ直すにはいい時期かもね」
カライスがぷんぷんと怒りながら、「強くなります! 次、ミオにあったとき、足手まといと言われないように」と宣言している。
その発言に「無理でしょ」とからかいつつも、少し嬉しそうなルヴィニ様。
ミオさんがこの世界にいたのは、多分、1か月半くらい。
僕が一緒に行動したのはそのうちの20日くらい。カライスは、後半はほとんど別行動だったのに、かなり影響を受けて変わったなと思う。
ルヴィニ様もサフィロス様も、どことは言えないけど、変わった。
僕は、そこまでの影響は受けていないけど。
でも、不思議な人だった。
ノアとは……あの、恐ろしい人とは違う。
それは僕もわかる。
本気で、世界を救うために動く。
ただ、反面。すごくシビアに戦力を見極めているとも思う。僕やジェイド君、カライスへの成長を促す。
一方で、犠牲も厭わないところがあった。特に、自分がどうなってもいいのだろうか……。
最後の怪我、あれが風の魔法によるものだとジェイド君は気付いただろうか。
『オブシディアンを止めるために、アイオ様が犠牲になったら……闇側の戦力が足りなくなります』
彼女が前に言っていた通り。僕らが大事であっても、ミオさんは先を見ている。
最後の盤面に強者を残すため、他の駒を犠牲にすることも選べるのだろう。
じゃあ、僕は?
ミオさんは、『僕は世界のために奔走していた』と言った。
サフィロス様も、ルヴィニ様も亡くなった後に――世界を救うノアと敵対しても。
「ルヴィニ様。僕、落ち着いたら兄様に会いに行きたい。話をすることがある……ノア。彼女と兄様、兄さんが共に行動していたとミオさんから話を聞いたから」
「ふ~ん。いいんじゃない? もう、僕やサフィロスが教えることも無いからね。後は自分で鍛えなよ」
「はい!」
あっさりと許可を出すルヴィニ様の眉は少し上がっていて、僕の発言が少し意外だったことがわかる。
ミオさんの言葉が正しいなら……僕は、誰かの駒としてではなく、自分で決めて動いていた。
「ルヴィニ様はどうされるんです?」
「僕? 神子の座を奪って、ついでに見込みがあるのがいるなら鍛え上げるよ。ミオが戻ってきたとき、驚かせるのも楽しそうでしょ?」
ルヴィニ様がにんまりと笑っている。
火の神子になる実力はあっても、サフィロス様の側を離れることはなかった。
サフィロス様のために生きると思っていたけど……ある意味で、一番変わったのかもしれない。
「風の大陸を滅ぼすために動いていた教団を潰せただけで、オブシディアンは逃がしたし、大元は潰せてない。まだ、やるべきことは山積みだね」
「でも、神子様もルヴィニ様も生きてて、風の国も救われましたよね?」
「それがミオの手柄って、悔しいでしょ? 次会ったときには僕らの成果も見せないとね」
「確かに! ミオだけにいい顔させられないですもんね!」
カライスが気合を入れている。ルヴィニ様も楽しそうだ。
まだ、何も終わっていない。むしろ、ここから始まる。
「僕も、次に会ったとき……成長して、カッコイイところを見せたいかな」
「だよね! アイオ、一緒に頑張ろう!」
ミオさんを守れず、情けないままだった。
そんな姿ばかり記憶されているのは悔しいから。
強くなろう。もっと、守れるように――誰かに決めてもらわなくても、自分で自分の道を決められるように。
彼女が戻らなくても、世界は変わり続けるから。
後書き失礼します。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
第一部 水の神子暗殺阻止編、完結となります。
第二部ですが、物語全体の完成度を優先するため、
全話を書き終えてからの公開を予定しています。
投稿再開の際には、活動報告にてご案内します。
どうぞよろしくお願いいたします。




