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攻略対象外の推しを救うため、世界を改変することにした  作者: 白露 鶺鴒
第二章 水の洞窟 沈む真実と断罪の継承

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72.終幕


 アイオ様と共に、オブシディアンを倒す。

 倒さなくてはいけない存在である。


 だけど、勝てる想像ができない。


 デバフ効果がある浄化への対策なのか、オブシディアンが闇魔法でオーラを纏っている。

 周囲ごとを浄化しようとしても、オブシディアンに効果がなくなっている。


 接近戦であれば、アイオ様にも勝ち目はある。

 近づけば、空間転移で距離を取る。


 しかも、こちらが攻撃を避けた場合に奥にいる王太子殿下達に当たる角度で攻撃をしたりと、避けられない位置取りで魔法を撃ってくる。


「ほらほら、頑張って防がないと後ろが死んじゃうよ?」

「補給源という割には殺そうとするの、やめてくれる?」

「あはっ。ミオちゃんの行動制限できるなら、狙うにきまってるでしょ? 補給源なんて、他でいくらでも調達できるんだからさ」


 腹が立つ。

 つまり、風の大陸の施設や補給源を潰しても、替えがきく。

 ただ、しきりに結界を張らせて守る様に誘導しているということは、オブシディアンも私の“浄化”は嫌なのだろう。


 ただ、この調子で魔力を消費していれば、私が先に魔力切れを起こす。


 アイオ様が攻撃をしても、決め手が足りない。

 むしろ、アイオ様の片手間に私にもちょっかいをかけていると言ってもいい。


「ミオさん。僕を信じてくれる?」

「もちろん……希望があるなら言って」


 オブシディアンをけん制しつつ、アイオ様が真剣な表情で私を見ている。


「魔力を溜めて、一気に叩き込んで欲しい。多分、このままだとじわじわと追い詰められる。僕が時間を稼ぐから、魔力を溜めて……あの防護してるオーラも消せる魔力を……止めは僕がするよ」


 アイオ様の作戦にこくりと頷く。

 ちまちまと結界を出して、魔力を減らしていたらじり貧。


 それなら、一か八かでも、溜め攻撃をした方がいいのはわかる。

 いい作戦ではある――ただ、それではオブシディアンには届かないだろうけど。


 アイオ様の後方でにぃっと笑うオブシディアン。

 こちらの考えは読めているだろう。


 戦況をひっくり返すだけの作戦を立てるには、アイオ様まだ未熟。ただ、作戦は悪くない。オブシディアンを出し抜けばいい。


「わかりました」


 アイオ様の作戦に従う。

 頷いて、杖に魔力を送り、溜める。


「そんな隙を見逃してあげると思う?」

「させない!」


 オブシディアンから闇の槍が繰り出させる。それをアイオ様が同じ様に槍で叩き落す。同じ、尖った重い一撃の方がぶつかり合いになる。


 私に対しては無数の針の方が結界を破壊した後も波状攻撃出来るために有効だけど、その誘いには乗らない。

 針にして分散させるとアイオ様の攻撃が突き抜けるからだ。


 ただ、同じように撃ちあいになると、技術がものをいう。

 アイオ様が気付かないうちに少しずつ、位置がズレている。


 避難が完了するまで、ここで後ろを守る必要がある。


 アイオ様とともに、避難までは防戦に努める。

 おそらく、護衛とかが伝えに来るだろう。


 そう思ってたのに、予想外だった。



「加勢します! 風よ、切り裂け!」


 王太子殿下含め、神官達の避難は完了したらしい。


「ジェイド……」


 がっくしと肩を落とす。

 正直、一緒に戦える人物が欲しい訳じゃない。

 

 ジェイドは将来性はあるけど。未熟過ぎるし、ここで傷つけるようなことは出来ない。

 だけど、魔力を溜めて一撃を与えたい。


「あはっ、怖い怖い!」


 アイオ様の攻撃も、ジェイドの風魔法も簡単に空間転移であっさりと避けて私の目の前に現れる。


「逃げ足だけは一流だよね。オブシディアン?」

「ひどいな~。三対一でも負けない強さを褒めてよ」

「強いことは認めてるよ」


 魔力はまだ6割。最大でなければ……それがわかっていて、挑発のために近づいてきている。腹が立つ。

 だけど、ここで魔力不足なまま放つわけにはいかない。


「お利口だよね、ミオちゃん。なんとか勝ち筋を探すところ、大好きだよ」

「闇よ!」

「風よ!」


 アイオ様とジェイドが魔法を撃つと、さっと後ろに下がった。

 距離を取らずに数メートル先にいる。


 オブシディアンは剣などの接近戦の武器は持っていない。

 ルヴィニやアイオ様なら接近戦で一気にやられてしまう距離だけど、接近戦で戦う気はない。


 まあ、素人である私など容易に制圧はできるだろうけど。

 ただ、私が魔力を込め続けていることに気付いても気にしない。


 それだけの実力差がある。


「ふふっ、じゃあ、ミオちゃんの選択を見せてもらおうかな」

「性悪」

「“Nyx Umbra”(夜の帳)」


 オブシディアンの手に浮かぶ闇の球が一気に広がっていく。

 光源が侵食されるように消えていく。


「アイオ様! ジェイド! 気を強く持って!」


 声を張り上げたはずなのに、音が吸われ、二人の元へ声が届かない。


「結界……」


 杖を通さない形で自分の魔力だけで結界を発動させる――杖に貯めていた魔力を解き放たずに。

 発動先はわずかに確認できたジェイド。


 そして、完全に何も見えない闇の空間。手を四方に伸ばして確認するとすぐに何かに当たる。何も映らない真っ暗な鏡。


 オブシディアンが魔法で出した闇の世界。

 この効果が何であるか、わからない。


 ザシュッ


 風が吹いた。

 真っ暗な世界で、吹くはずのない風は刃となって左肩を襲った。痛みと共に、振れた肩にはぬるっとした感触があった。

 出血している。それも、かなり派手に。


 この空間を晴らすためにジェイドが放った魔法だろう。

 ただ、その魔法は味方を襲う凶器になっている。


「アイオ様は自己防衛してくれるといいんだけど……」


 おそらく、同じようにアイオ様にも風の攻撃がある。

 それに気づいたら、防御に努め、攻撃になるようなことはしないだろう。


 ぎりぎりでジェイドに結界を張ったけど、アイオ様の攻撃ならオブシディアンと同じで、一撃で壊れてしまうだろう。


 そういう意味では、結界は自身より上の相手ではあまり効果はない。


 シュッ   シュッ


 今度は左足に、背中に、風の刃が当たる。杖を床について、痛みで震える左足をなんとか支えるように立つ。

 最初に比べれば軽傷ではあるけど、続く痛みにきつくなってきた。


「う~ん。あんまりおもしろくない結果だったかな。自分よりも、アイオよりも、あっちの風の子を守るとはね」


 闇が晴れていく。

 私を呼ぶアイオ様の声が聞こえるのに、顔を上げるのも辛い。

 左手に杖を持ち、右手を自由に……ずきずきと左手が痛む。


「まだ、未熟だけど……未来の神子だからね。大切なんだよ」

「あはっ、その未来の神子様の攻撃で、そんな状態になってるのに?」


 こつこつと私に近づく足音が聞こえ、顔を上げる。

 私と違い、二人は闇魔法により手足を拘束されていて動けない状態だった。


 見せつけるように捕らえる。実力差がある。


「悪趣味っ」

「褒めてくれて、ありがとう。嬉しいよ」

「はっ……アイオ様の真似のつもり? 全然似てないよ」

「ひっどいな~。大好きなんでしょ? だから、真似してあげたのに」


 にんまりと笑うオブシディアンが、私の顎を掴んで顔を近づけてくる。


「つまらないな~。もっと、絶望な顔を期待していたのに。暗闇の中、仲間に傷つけられて半狂乱になって暴れればいいのに……アイオは自分の防御に徹するだけだし? ミオちゃんなんか、自分じゃなくて他の子を守って……面白くないんだけど」


 あと5センチ。

 近づけばキスしてしまいそうなほど、息がかかる状態で憎々し気に私を見下ろすオブシディアン。


 似ていないと言ったけど、本当は似ている。5年後の、ゲームのアイオ様に。


 軽々と持ち上げられ、不安定な体勢のまま、オブシディアンの胸元を触る。

 鎖骨の当りに、固い感触がある。


 ちらちらと戦闘中に見えていた、オブシディアンに埋め込まれた赤い石。


「ここ、だね……」

「うん? ああ、これが気になる? なんなら、ミオちゃんも飲んでみる?」


 私が赤い石に触れたことに、にやぁっと嫌な笑顔を浮かべる。


「……きつかったよ」

「これを飲めば楽になるよ」


 オブシディアンが私の口に禍々しい赤い石を咥えさせようとする。


「逝きなよ……浄化」

「は?」


 杖に貯めていた魔力を解放し、右手から浄化をかける。

 オブシディアンの赤い石に触れた指先を伝い、一気に魔力を注ぐ。


「ぐあっ……」


 ダンっと体が床に落ちる。

 すでに肩や足から血を大量に流していて、床に体が投げ落とされたとしても、たいして苦痛に感じない。


「ぐっ……」

「きつかったって言ったでしょ? 溜めた魔力をずっと解放せずに、隙をうかがってたから……でも、まあ、うまくいったかな」


 苦し気に胸を抑えているオブシディアンの姿に満足して笑う。

 アイオ様が闇魔法から解放されてこちらに走ってきているのが見える。


 がくりと膝をつくと、影が映る。オブシディアンが立ち上がった。

 もう少し苦しんでてもいいのに……精一杯溜めたけど、足りなかったか。


「やるねぇ。まあ、あっちも決着が着いちゃったみたいだし、引くよ……次こそ、殺してあげるよ」


 どろっとした赤い瞳が少し黒に変化したオブシディアンが顔を抑えながら、しゅんっと消えた。

 残念。アイオ様が倒す前に、逃げてしまった。


「ミオさん!」


 アイオ様が駆け寄ってきたので、何とか立ち上がろうとしたけど、体が重い。


「作戦、通り……アイオのおかげです」

「何言ってるの! すぐに治療を!」


 ひょいっと抱きかかえられた。


 うぇ!?

 まさかの、お姫様抱っこ!? 


 まさかの状況に頬が緩みそうになるのを手で隠そうとした瞬間、ピコンと聞き慣れない音が聞こえた。


〈ミッションが達成されました。神の御座所に帰還します〉

 

「え!? あ、アイオ様! ごめん、またっ!!」

「え?」


 視界が光り輝き、白く塗りつぶされていく。眩しさに目を閉じる。

 再び、目を開いた先は、神と会話をした神秘的な空間だった。



『成功したようじゃな』

「……なんとか、ぼろぼろですけど」

『そのようじゃ……自分で治せるか?』

「……神様ですよね? 治してくれないんですか?」

『理がある。だが、其方の選択によっては少しは力を貸せるのじゃ』


 相変わらず、融通が利かない。

 痛みはそのままだけど、血が流れ出るのは止まったこの状態で、簡単には直してくれないらしい。


 ただ、ここに帰ってきた。

 ミッションに成功して――水の神子は、サフィロスは生きる。ルヴィニも……私は、やり遂げることが出来た。


 世界を救うため、改変をすることが出来た。

 これで、新しい未来が、始まる。



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