7.魔獣
ルヴィニと共に行動をし始めて、3日目。
目の前にイーハンの町が見えてきた。
初日は二人とも徒歩で、ルヴィニは乗ってきた馬を引いていたけど。
昨日からルヴィニが馬に乗せてくれるというので、後ろに乗って移動している。
ルヴィニとの関係は、距離感が掴めないのは変わらない。ただ、少しは仲良くなった。
余計なことを言わないように気を付けつつ、他愛無い会話を繰り返している間にわかったことがある。
普段はおっとりしているというか、のんびりしている。
仕事モードとオフモードの差が激しい。
余計なことを言いそうになると目を細めて、にっこり笑って仕事モードに切り替わる。
こうなると、若干声が低くなることもわかった。
ふ~んとか、ふふっと始まったとき、声質が違ったら注意。
その時には、口を閉じて、何も言わないでいると「いい子だね~」と頭を撫でてくる。
中途半端に口を開くなということなのだろう。
それ以外では、ほわほわと笑っていて、「ご飯、何食べる~?」とか、「鳥が飛んでるよ~、何の鳥だろうね」とか、楽しそうに話しかけてくる。
「ねぇ、イーハンでゆっくりする?」
「いいえ。ちょっと気になる場所があるので、イーハンに寄ったらすぐに向かいます」
「気になる場所?」
ゲームでは、敵アイコンがある場所には、魔獣、屍兵が現れる。
夜は、お互いに別々のテントを張って、野宿をしている。
一人のとき、こっそりと地図の確認をしているのだけど、敵アイコンがイーハンの町から西の方角に出た。
「……ここから西北西に魔獣が出た可能性があるので」
少し迷った後、告げた。ゲームでは魔獣はランダムで発生する。
魔獣は放置すると、穢れを周囲に広げてしまうので倒しておきたい。
「魔獣? わかるの?」
「ある方法を使えば、把握できます」
「ふ~ん。倒せるの?」
そこはわからない。私自身は強いタイプではない。
でも、それでも何とかなるように考えてはいる。……多分、大丈夫なはず。
「君、動きは鈍いし、魔法もまだ扱えないよね」
ルヴィニは魔力を使えないと言っていたけど、使い方はわかるらしい。
私が魔法が上手く使えないと言ったら、移動中や休憩に中に教えてくれている。
ただし、頑張ってはいるけど、水がぽたぽたっから、蛇口でじゃーくらいになっただけ。
攻撃としては使えない。
魔力を込めて念じることで魔法使える。
イメージが大事と言われていたけど、難しい。
「ルヴィニ。魔獣は自然発生する場合とそうじゃない場合があります」
「ふ~ん?」
これは、ルヴィニが知るはずのない情報。
ゲームでの情報だから、当然だろう。
その声色にぞくっとした。
わかっていて、情報を与えているのだけど、怒ってる? いや、呆れてる?
「君はそんなこともわかる手段があるんだ?」
「……信じるか、信じないか。それは、この際どうでもいい。あの魔獣は放置したくない、してはいけないんです」
「なら、直接向かえばいいでしょ? どうしてそうしないの?」
「食料の備蓄が少ないから」
自分一人で食べる訳にもいかず、ルヴィニにも半分ずつ分けていた。
だから、食料がない。
今日、イーハンの町で買わないと夕ご飯が無い。
だから、すぐに購入して、魔獣の元へ向かいたい。
「あっははっ……僕に食料渡したせい? 考え無し過ぎない?」
先ほどとは違い、今度は本当の意味で笑っている。
いや、笑いながら怒るのも器用だけど、少しずつだけど彼の笑いに隠された感情もわかるようになってきた。
「一人で食べるのも、戸惑いがあったので」
「そっか、そっか。うん、そうだな~。じゃあ、その魔獣の区別の仕方と、放置できない理由を教えてくれれば、協力してあげるよ。特別にね」
ルヴィニは馬の手綱を引いて、目の前の町から、進行方向を変える。私が向かいたいと言っていた方向だ。
「ルヴィニ? 食料がないんだってば!」
「きみがしてくれたように、僕のを分けてあげる。きみに分けても1週間分はあるよ。それで、距離はどれくらい?」
「西北西に……ちょっと、距離確認します」
ルヴィニの後ろにいるので、彼からは見えない。それを利用して地図を展開して、確認する。
やはり、昨日の位置から、魔獣が北方向へ移動している。
「たぶん、半日くらい走らせた先です」
詳しい距離はわからない。この世界の単位とか不明。
ただ、昨日の馬での移動距離からおおよそ半日くらいだと判断した。
「へぇ~、それは楽しそうだね! ちょっと急ぐよ」
ルヴィニが馬のお腹を軽く蹴ると、馬のスピードが上がった。
「道がないんだから、ちゃんと案内してよね?」
「は、はい!」
目印の無い草原を進んでいくので、方角がずれたら、都度、修正を伝える。
相手が動いていることもあるので度々修正を伝えつつ、向かう。
夕方近くなって、目的の場所へとたどり着く。
一定距離に近づくと馬も存在を感じたのか、近寄るのを嫌がっている。
「行ってきます」
「僕を置いてくの?」
「これは私がするべきことだから」
いつでも杖を取り出せるようにしながら、近付くと相手もこちらに気付いたらしい。
狐型の魔獣だった。体全体が黒い炎が揺らめくように、実態が不安定に揺らめく。
胸の当りに赤い石が煌めいている。大きめの犬くらいのサイズだ。
「面白いね~、今まで見た魔獣とは違うね」
「あれが……教団が産み出す魔獣です。時間経過とともに、獣とか……万物を取り込んで、弱点を覆い隠し、手が付けられなくなりますけど……まだ、取り込んで間もないので、不完全な状態……って、ルヴィニ!? 危ないよ?」
ゲームでは、あの状態の魔獣は出てこなかった。
ただ、攻略本のおまけに書かれていた生まれたばかりの魔獣の絵と同じだから、多分間違いない。
しかし、普通にルヴィニが付いてきている。馬は、先程の場所に待たせているらしい。
「僕がやられる前に君がやられると思うよ?」
確かに、弱いけどね。
でも、魔獣なら私でも倒せる……たぶん。戦闘力には振ってないけど、何とかできるように考えてある。
杖を取り出して、魔力を込め始める。
「けっかっ……うわっ!」
結界を展開しようとした瞬間に、こちらに魔獣が突進してきたので、慌てて避ける。
しかし、避けても、襲い掛かってこようとしている。
「えいっ!」
杖を振る――けど、感触はない。空気を切った。
その後も、何度か振り払うように殴ろうとするが、ひょいひょいと避けられ当たらない。
「くっ……」
杖での打撃攻撃は全然当たらないから、聖獣召喚しようと魔力を込めた。
「うわっ!?」
杖を構えたのを隙と判断した魔獣により、反撃を受けて、爪によるひっかき傷を負う。
一応、避けた。掠った程度なのに、それでも、すごく痛い。
致命傷ではない。そもそも、まだ魔獣として未熟なはずなのに。
それでも全然相手にならない。こんなはずじゃなかった。
混乱と痛みで足がもつれる。
「やっ……」
魔獣を避けようとしたけど、恐怖で足が上手く動かず、躓き、転んだ。
目の前に迫ってきた魔獣が大きく口を開けて迫ってくる様子に、心臓がばくばくと鳴り出す。
心臓の音がうるさく、目の前に迫りくる恐怖にぎゅっと目を瞑って、衝撃に備える。
「ほんとっ、危なっかしいね」
目を開くと、ルヴィニが私と魔獣の間に立って、私を庇っていた。




