64.再出発
翌日。
「さて、じゃあ、出発するか」
「そうだね。カライス、遅れないようにね」
「はい! 大丈夫です。ミオ、アイオ! そっちも気を付けてね」
サフィロスとルヴィニ、カライスちゃんが向かう先はショウドウ。
私とアイオ様は風の神器が封じされた山へと出立した。
急ぐということと、他国への牽制として、私とアイオ様は聖獣・オリオンに乗って旅立った。
「お二人とも、羨ましそうにしてたんだけど」
「うん。乗り心地は馬とそう変わらないと思うけど」
「ルヴィニ様も乗ったことないんだね」
「カライスちゃんも一緒のことが多かったし、目立つからね」
隠密行動にはオリオンは不向き。
ただ、今は宣伝効果が求められているから逆に隠す必要はない……多分。
「ミオさん、どうして一人で行きたがったの?」
「アイオ様……それをわかってるなら、着いてこないでくださいよ」
「呼び捨て、ね? 戦闘能力低いから、みんな心配してるし。無駄だよ」
水の洞窟に入った頃は信用されてなかったんだけどな。
アイオ様がこちらを希望するとは思わなかった。
「戦わなきゃいいんですよ。逃げれば……風側にとって、神器をほいほい見せてくれるわけないですよね。わかると思いますけど」
無理やり罷り通る、それが許される訳はない。
ただ、最初からそのつもりで動いている。
「ミオさん、ぼくならすでに牢を勝手に抜け出した脱獄犯だから、元々ショウドウにいくことは出来ないよ?」
「あっ」
そうだった。
私とアイオ様は脱獄犯なので、そもそもショウドウに行けないのか。
「納得した?」
「いや、まあ、はい」
そう言われてしまうと、私が脱獄させたので文句も言えない。
多分、交渉をもって、そのうち無かったことにするんだろうと勝手に認識していた。
「それに、借りは返したいんだよね?」
「何かありましたっけ?」
「助けてもらったから。その分、守るよ」
うん?
助けたことあった? 水の洞窟でも、たいして役に立ってない。
そもそも、私はアイオ様を助けたくて。ここにいるんだけどな。
「……聞きたいことがあるんだけど、いいかな」
「なんでしょう?」
「兄さん……いや、オブシディアンに、何があったか教えて欲しい」
真剣な瞳のアイオ様に少し悩む。
何があったか。
転機は、4年前。
水龍が水の大陸の魔力を吸い上げたのと同じように光の大陸の魔力を吸い上げていた。
一度目はそこの詳細は不明。
二度目は、アクア・レガリアによる水竜の記憶で確認した。
これでわかるのは、一度目はこの時点で水龍は討伐され、アクア・レガリアに触れることはなかった。
二度目は、オブシディアンを倒し、養生のためにアクア・レガリアのある地にいて、アクア・レガリアに触れた。
一度目のカライスちゃんの記憶でも、ゲームでも、あのオロチという名の水龍の存在はなかった。
「知っているんだよね?」
「知らない方がいいこともありますよ」
「カライスにはお姉さんのことを伝えるように言ったんだよね?」
「……よくご存じで」
カライスちゃんの姉の件を出されると反論が難しい。
アイオ様はアクア・レガリアに触れているため、彼が今まで生きた軌跡を私は知っている。
彼は4年前に修行として水の神子の元に預けられた。
これに水龍の記憶を合わせれば、闇の神子様とオブシディアンが、水龍と先代の水の神子を強襲するにあたり、彼を安全な場所へと預けたのだと察せる。
「アイオ様はどこまで気付いてますか?」
「……わからないよ。兄さんは、従者だけど。ルヴィニ様とは違って、オニキス兄様から離れることなんてない……だから、きっと……交戦したんだよね?」
「はい。私の憶測も交えるとノアとオブシディアンと闇の神子様の三人で。これは、おそらくノアによる改変でしょうね」
「つまり、彼女のせいで、兄さんは……」
「ええ。彼女の介入により、闇の神子様は生き残りました」
「は?」
読み取った、一度目の世界と二度目の世界の差異。
ゲームに登場する仮面の使徒。あれは、サフィロスの仮面と類似し過ぎている。
神子様が正式な場で身に付けることが慣例の仮面。
神子様を神秘的な存在とするには、素顔を晒すよりも良いのかなと思うけど。
ゲームでの彼は、十中八九、闇の神子様の死体だったのだろう。
「私とノアの知る未来、教団の使徒になっていたのは、闇の神子・オニキス。それを改変しようとしたノアにより、オブシディアンが犠牲になった」
問題は、足手纏いであるノアがいたことにより、繰り返し戦っても勝利を得ることはなく、最終結果がオブシディアンを犠牲にする。
ゲーム世界では、水龍を倒して、倒れた闇の神子様。
これにより、光の大陸の魔力の吸い上げは大きな被害はなかった。
現在、あの水龍は負傷して、吸い上げる魔力は減っているけれど、それでも継続していた。
闇の神子様が必死に魔力を送り、吸い上げられた魔力を補充し続けてはいるようだけど、綻びはできているし、人力での補充がいつまでも続けられるとは限らない。
私の言葉に、アイオ様の魔力が揺らいでいる。
「……兄さんと兄様。どちらかが、犠牲になった?」
掠れた、くぐもった声。ぐっと握った拳、唇を噛んで悔しそうに呟いた言葉。
じっとアイオ様を見つめる。真実を知りたいと願ったのはアイオ様だ。
それが残酷な事実であっても、伝えるべきだろう。
「ええ。そういうことです……ノアは勝てるという予測をしていたと思いますけどね。そのために、自分が将来使う強化アイテムをオブシディアンに使わせている。それでも、足手まといがいたせいで失敗した」
「ああ……だから、ミオさんは離れたんだ?」
バレてる。
いや、仕方ないんだよ。魔法も運動もまだまだ戦力外。
流石に敵本陣に足手まとい二人。
ノアの過去の行動を知っていて、その行動は間抜け過ぎる。
「ミオさんは上手くいってるんだね?」
「……たまたま。間違った知識で、ノアの二の舞になるところだったのも事実です。だから、せめてこのわずかな時間でも、情報を入手したい」
「僅か? どういうこと?」
「ずっといられるなら、良かったんだけどね」
水の神子の暗殺阻止のミッション。
サフィロスとルヴィニが教団のアジトを潰す。失敗することは考えない。
それなら、私がこの世界にいる時間はわずかだろう。
「なんでもありません。まずは、目的を……アイオ様、本当に行くんですか?」
「行くからね!」
意思は固いらしい。
仕方ない……かな。
ショウドウどころか、風の大陸にいられなくなる可能性があるんだけど、本人に自覚あるんだろうか。
「オリオン無理ない範囲でよろしく」
「きゅう!」
魔力を使用して爆速の移動は疲れるからね。
目的地まで、一気に進もう。




