61.現状確認
「これからどうするの?」
ルヴィニの問いに、ゆっくりと頷きを返す。
きちんと伝えないといけない。
「サフィロスに神器を渡したら、私は別行動をとるよ。少し目的が変わった」
「ふ~ん?」
ルヴィニの面白そうに唇を上げた。
私は全てを話すことはない。
すでにノアがやらかし、オブシディアンに情報を与えたことで、事態が悪化しているからね。
この世界を滅びないように。自分のするべきことがある。
「ルヴィニ。ノアと同じ轍を踏むことは出来ない。だから、私は今後も情報を絞る。私に都合のいいことだけ伝えると思っていい」
「……僕らを信じないってこと」
ゆっくりと首を振る。
信じたい。信じている。
だけど、成すべきことのために、全てを伝えることは出来ない。
「……ルヴィニ。その枷、サフィロスも自由になるんでしょ? 神器があって、たぶん、聖獣も手に入れたはず。それでも、まだ、私はこの世界にいる」
「そうだね。まだ、暗殺される可能性が消えてないってことでいいの? 本当に?」
ルヴィニの疑問に目を瞑り、考える。
情報の与えすぎは良くなくても、話しておくべきだろう。
「二度。すでに世界は滅んでいる。その二度とも、先に死んだのはルヴィニだよ。ルヴィニが敵側になり、サフィロスをそれを止めるために命を落とした」
私の視線に、ルヴィニは驚きもせずに笑った。
頷いたということは、ある程度ルヴィニも予測していたらしい。
「そう……やっぱり、あの寂しがりは僕が死んだ後、生きるのを諦めたんだ」
「まあ、そうだね。私、今、結構重要な事をいったんだけど」
「二度、滅んでるって? そうなんだとしか思わないよ。時を戻す存在が普通にいるなら、それくらいおかしくない」
それはそう。
多分、それでも無理をして渡した能力だったんじゃないのかな。
そのせいで、力がない神の足掻きが、今回なのだろうけど。
「ルヴィニはサフィロスの側にいてあげてよ。二人が揃っていれば、いくらでも回避できる。それなら、私は別行動できる」
「きみは臆病者だね。闇の神子とその従者の成れの果てを知り、怖くなったね」
ぴんっ。ルヴィニの腕が目の前に見える。
「いたっ」
おでこに痛みを感じる。中指で弾かれたらしい。
「ルヴィニ。手加減してよ」
「したでしょ。一緒に行動しないなら、納得できるだけの作戦を立てなよ。きみの我儘で動くことは認めない」
じわじわとおでこの痛みが体にしみてくる気がする。
感情で動いて、失敗をする訳にはいかない。
「足手まといになったノアのせいで、すでに犠牲が出た」
「それをどうして知ったの?」
「アクア・レガリアに聞いた。……ノアがオブシディアンに与えた知識のせいで、私の知る世界の5年前とは思えないほど、この世界はあちらに有利に進んでいる。アイオ様には悪いと思う……それでも、ここでオブシディアンと先代を倒す。そのための戦力はルヴィニとサフィロス。水の洞窟内での戦いのように足手まといがいる状態では意味がない。万全の状態で風の神殿とそこから繋がる教団のアジトを潰してほしい」
「ふ~ん? まあ、納得はできるね」
二人に死んでほしくない。そのためには、二人が共に行動していればいい。言葉にせずにルヴィニを見る。
ルヴィニはつまらなそうにしつつも、少し離れ、腰を落とした。
一応、別行動を認めてくれるようだ。
「私は風の神器の様子を見に行く」
「相手が空間転移の使い手であるのに、きみがのこのこと一人で行動すれば狙われるよ」
「それなら、手負いの先代、そして……カライスちゃんの姉に止め刺せるよね?」
「そっちに三人で向かう可能性はあるんじゃない?」
「ない。空間転移をする場合、一人より二人、人数が増えれば魔力消費はかなり大きいはず。水の洞窟には水龍がいたからつれてきたけど……魔力切れを起こす可能性を考えれば、ない。それでも、ノアの知識を得たオブシディアンは、私の知識を欲するから、一人で来るのは否定しないけどね」
私が囮になるのであれば、その間に他の二人を倒す。
まずは教団内部での戦力を潰す。この場合に必要なのは神子を殺すことができる戦力を潰すこと。
「それはおかしいでしょ? 知識が欲しいならきみよりもあれを狙うはず」
「必要な情報はすでに聞いてるのかもよ? 闇水晶……もう、何代も前の神子が遺した失われた秘宝の場所を教えるくらいには、ノアは信頼していたんでしょ。そして……そのせいで狂った」
救おうとして動き、大事な人を失った。
その関係は私も近いのかもしれない。
私は水側で動いたけど……闇側で動き、すでに失敗している。
じっとルヴィニを見る。
その強さは知っている。神子に引けも取らない。
いや、枷を外したら、先代神子よりも上だった。
「なに?」
「悪いけど、再び、ルヴィニの枷をつける協力はしない」
外したときにはすぐにつけ直すべきと考えたけど。
それは風側との関係悪化を防ぐため。知識を得た後だとそんな余裕があるとは思えなかった。
「巻き込んだのはサフィロスだけどね。きみが鍵だって言ったら?」
サフィロスが枷を外した後、私に協力させて、枷を再び付けた。
仕組みは知らない。
でも、外した人間しか付けられないのだとしても……私は、協力はしない。
「ルヴィニ。幼い頃ならともかく、今、本当に枷をしないと抑えられないの?」
アイオ様が覚醒した瞬間も魔力を上手く扱えてなかったけど。
サフィロスなんか、枷に関係なく、魔力を自由に、かなり好き勝手に扱っているみたいだった。
ずっと外に出せない状態だったはずのルヴィニだけど、暴発を気にする必要はないくらい安定している。圧は感じるけど。
「風側と揉めるね」
「いや、もう揉めてよ。さっさと教団の拠点を潰さないと、予想以上にあっちの動きが早い。ここでずるずるしていることは出来ない」
「その後の予定は?」
それを聞かれると痛い。
私が暗殺を阻止し、この世界から消えるのに対し、ルヴィニ達はこのままこの世界に残る。
風側と揉めた場合の行動を考えていないと、窮地に陥いる可能性があることは理解できる。
「この世界を救うための行動としては、土の大陸の土台を整えたいところかな」
元々、ゲームの設定上、風と土は滅びやすい。
事前の補強はしておきたいし、土の神子が死ぬ可能性がないようにしておきたい。
逆に、光の大陸は動きが読めない。
ノアの改変による影響をもろに受けるのが、光と闇の大陸。
特に、闇の神子のメンタルは心配なところではあるけれど……むしろ、そちらには私が行こう。
ノアと対峙する可能性もあるけれど、ノアが暴れている分、教団からの脅威は少ない気がする。
「まあ、先に、風の神殿と教団の動きを止めて、サフィロスの安全を確保する。それだけでもかなり世界は変わる」
「実際、サフィロスが暗躍してた訳ではないんでしょ?」
「それはそう。ルヴィニが死に、サフィロスが相打ちでルヴィニを止めた上で、おそらく死体も奪われることなく焼いたんじゃないかな。ただ、先代とか、教団の動きは放置したままだから、元凶放置だけどね」
これについては、仕方ない部分でもあると思う。
教団の存在自体、まだ動きが無かったころだからね。
「サフィロスともきちんと話はするよ」
「そう。まあ、気になる部分もあるけどね。僕は納得したことにしてあげる」
「ありがとう」
これで、別行動をすることは問題ない。
あとは、サフィロスとも話をして……覚悟を問わないといけない。




