60.小休止
「ミオ!」
「え? あ、ごめん。ぼぉっとしてた?」
「少しね……アクア・レガリアに回収できた?」
どうやら、意識が一瞬飛んでいたくらいですんだらしい。
体感では結構時間が経ったけれど。
でも、少しというからには、不自然ではあったかな。
「うん。かなり、膨大な魔力が込められてる。ただ、ちょっと私の方の杖にも流れたっぽい」
おそらく、アクア・レガリアは水の神器だからだろう。水龍は光の魔力も有していたが、それが私の杖にも宿っているように感じる。
「そう。まあ、きみが強化されるのはいいんじゃない?」
「ルヴィニ……暗くなるし、今日はここで休もう。アイオ様が心配だし」
ぐったりしているアイオ様。
魔力消耗のせいだと思うけど、顔色が悪い。
テントを用意し、休ませる。
苦しそうにしているけれど、ルヴィニが簡易な治療であればできるというので、手伝う。
微熱のはずなのに、汗がすごく、とても苦しそうにしている。
アイオ様の汗を拭きながら、ルヴィニをちらっと見る。
「アイオ様。大丈夫?」
「2,3日は様子を見るしかないよ。ただ、魔力暴走というほど酷い状態ではないし、安全に上級に覚醒した方じゃないかな」
魔力消耗と精神的な疲労はあるけど、危険な状態ではないと聞いて安心した。
今のところ、魔力を無理矢理こじ開けた後遺症などは感じないという。
ただ、魔力がちゃんと回復するのかも、数日かけて見極めるという。
「暴走せずに、覚醒できたから良かったのかな……兄であるオブシディアンのことがあるし、心配だけど」
「でも、少しは君の知る未来を変えられたんじゃない?」
「……ルヴィニ。そのことだけど、話したいことがある」
私が何度かアイオ様の辛い過去を変えたいとは言っている。
とくに、魔力を暴走させて風の大陸から追放処分を受けるという未来は消えた。
でも、その情報も気を付けないといけない。
「何? 合流してからでもいいんじゃない?」
「そうだね……食事にしよう。何か作るよ」
水の洞窟では、なかなかゆったりと食事が出来なかった。
ここはゆったりと食事をしたいので、鍋にしよう。
鳥肉があるから、鳥なべにしよう。白菜やねぎをきざんで、鍋に入れ、沸騰したら一口サイズに切った鳥もも肉を入れる。
「一応、塩と醤油にお酒で味は合付けてるけど、足りなかったら胡椒とかで味付けして」
「うん。……おいしい。料理上手いよね」
それはこの世界の食べ物の多くが、自分の世界のものであるおかげだろう。乙女ゲ―の世界観は助かる。
まあ、野菜の味とかは元の世界の方が美味しいんだけどね。
風の国は水の国も文化も入っていて、普通に醤油とか味噌もあるのがありがたい。
ルヴィニは胡椒を追加しながら食べてる。う~ん。私としては柚子胡椒とか欲しいな。
「アイオの分はどうする?」
「食べやすいように、おじやを作るよ。卵も非常食用に作ってたおにぎりもあるし」
「僕のは?」
「今、食べてるじゃん」
「魔力使うとお腹すくんだよね」
それはあるかも。
魔力を使うようになって、なんとなく食事量が増えている気はする。
まあ、おじやが食べたいというなら、少し多めに作ればいいか。
「外してるとお腹すくんだよね。僕、今日は頑張ったでしょ?」
腕を見せて、普段は腕輪が付いているところを見せつけてくる。
確かに、ルヴィニが最終的に本気でやって、撃退してくれたからね。功労者でもある。
「わかったよ。ルヴィニのも作るよ」
アイオ様のために少し具材も取っておき、残った汁にご飯と溶き卵を入れる。
ルヴィニにおじやをついで、渡す。
「ちょっとアイオ様に渡してくるね」
「うん」
出来たおじやを持って、テントに入る。
苦しそうにしているけど、私が近付くと目を開いた。
「食事持ってきたので、食べれますか?」
「あ、うん……いただくよ」
ゆっくりと起き上がったアイオ様に食事を渡す。
「おいしいね」
「それはよかったです」
「……ごめんね。役に立てない上に……こんな状態で」
「いえ……むしろ、兄が敵にまわったのに、守ってくださりありがとう」
精神的にも体力的にも大変だったのはアイオ様だ。
私も一緒に戦ったとはいえ、戦力外だからね。
「ミオさん……兄さんがごめんね」
「アイオが謝ることじゃないよ。それを言ったら、原因になったノアは私と同じ世界の人間だし」
「それこそ、ミオさんは悪くないよね? 身内でもないでしょ?」
「まあ、そうですね。でも、アイオ様に幸せになってほしいと思ってるので。それが出来なかったことに謝罪させてください」
「またアイオ様って呼ぶ」
少し唇を尖らせて、こちらをじっと見てくるアイオ様。
いや、それは気を付けてはいるけどね。
推しに対して、つい出てしまうのは許して欲しい。
「この世界に来た理由、アイオ様にあるから。だから、傷ついて欲しくなかった。でも、すみません……私は、私の立場では、オブシディアンを放置できない」
「うん。それでいい……僕も、兄さんにこれ以上罪を重ねて欲しくない」
「サフィロスと同じだね」
「え?」
思い詰めた表情のアイオ様に、サフィロスの名前を出して気を引く。
ルヴィニが相手側に落ちたときにサフィロスがとった相打ちになってでも止める。
同じ行動をさせる訳にはいかない。
だから、先に止めておく。
「アイオ様……相打ちになっても、そんな考えは捨ててくださいね?」
「どうして?」
「邪龍が復活し、討伐するとき……神子とそれに近い実力者がいるだけで、討伐が楽になるからです。オブシディアンを止めるために、アイオ様が犠牲になったら……闇側の戦力が足りなくなります」
「ふふっ……そっか。そうだね。そのためにミオさんはここにいるんだもんね。僕だけでする必要はないか」
少し肩の力が抜けたようにくすくす笑うアイオ様にほっとする。
一人で突っ走ることは止めてくれそうだ。
和やかな雰囲気になって、ゆっくりと食事をしている。
素直だなと思う。
5年前というだけでなく、この後の出来事でアイオ様は変わったんだろう。
「体調が整うまで、ゆっくり寝てくださいね」
「そうするよ。……おやすみ」
アイオ様は食べ終わった後、すぐに寝てしまった。
食器を持って、テントの外に出る。
ルヴィニが鍋を洗っていた。
「アイオ、どうだった?」
「うん。食事は出来てたよ。すぐ寝ちゃったけど、体調は良くなさそう」
「いや。話が出来るくらいに回復したなら大丈夫そうだね」
ルヴィニも少し安心したように笑う。
鍋を洗い終えて、隣に座った。
「少し話をしようか」
ルヴィニの真剣な表情に頷く。ちゃんと話をしないといけないよね。




