59.真相③
『ここでよいか?』
風の大陸までたどり着いた。
陸に降ろされた。アイオ様はまだ寝ている状態だ。
アイオ様が回復するよりも早く、風の大陸へと戻ってくることが出来た。
「助かったよ。じゃあ、お別れだね」
「ルヴィニ」
「ミオ、辛いならアイオと向こうにいなよ」
「……わかってるよ。必要なことだって……それに、自我が無くても、水の大陸と光の大陸、さらには風の大陸に危害を加えた存在だ」
『うむ、その通り。今代の導き手よ、そのような顔をする必要はない。世界を救うため、この先もお主は死を越えていくことになる』
水龍の言葉に、頷きを返す。
頭ではわかっていても、口の中に苦いなにかが込み上げてくる。
「誰かを救えば、誰かが犠牲になる……すでに、それが起きている。だからこそ、不安要素を残せない。私は――私のために世界を救いたい」
『それでよい』
ルヴィニが剣を構え――すっと水竜の頭と胴がズレる。
「アクア・レガリア……水竜の魔力を集めて」
水の大陸を滅ぼすほどの膨大な魔力を。せめて、これから先の水の神子と共に戦えるように。
光輝く魔力の粒を神器に集めていく。
「ん? あれ?」
最後の魔力を集めたと思った瞬間に、光に包まれた。
真っ暗闇の中にある光る神殿。
その真ん中にいる少女は、8歳くらいの私の姿をしていた。
「誰?」
「*****よ、話がある」
「え?」
聞き取れなかった。
名前だと思われるけれど。
「……そうか。体と精神で名が違うのだったな。ずっと、呼びかけていたが、応えなかったので場を整えた……*****ではなく、ミオでよいのか?」
幼い姿であるのに、その表情は変わらず……感じるのは威圧。
神様と会った場所を模したような場だ。
青い光を纏う、目の前の少女。
よく見るとおでこには、神器アクア・レガリアに刻まれた文様が浮かんでいる。
呼びかけに覚えは無いけれど。
杖を持っていたと気に何度か、キーンという音を出していたのが、呼びかけだったのだろうか。
「アクア・レガリア?」
「その通りだ。今代の導き手よ」
「……それは、ノアでは?」
「否――あの者が導き手であったのは、前回だ」
前回?
ごくりと唾を飲み込む。
神様が選んだ導き手は今回二人という認識だったけど。
「それが告げることですか?」
「そうだ。神より遣わされ、この地に神器として存在するようになった。以来、神の干渉は受けぬ存在となった。だからこそ知る事実を――せめて、少しでも可能性を上げるために」
「神から生み出された存在だけど、神からの力は受けないってことでいいですか?」
「そうだ。神が選びし存在であろうと、その特異な力は神器であるわれらには通じぬ」
なるほど?
でも、私は普通にアクア・レガリアを扱えていた気がするけれど。
「通常の使い方の範囲であれば、問題はなかったのでな。あと、積極的に*****が力を貸していることが大きい」
神様と同じで私の心を読める感じかな。
視線を送ると頷きが返ってきた。
すでに亡くなっているけれど、意識が全くない訳ではないらしい。
「それで、何度か、この世界は滅びている?」
「此度で三度目となる。一度目は滅びの運命を辿った。そこで神が介入し、時間を戻し二度目が始まる。導き手としてノアという少女が選ばれ――一度目以上にひどい滅びとなった。だが、神にはその者を排除しやり直す力は残っていなかった」
すでに二回ほど世界を滅んでいた。
そのことは誰も把握していない。ただ、神器だけが知っているのか。
そして、排除できないから、そのまま私を送ったということかな。
二度目の方が酷いってことは、そこが基準になって動いてるのか。
「それで、何を伝えたいの?」
「水の神子の死の真相を伝えよう。おおよそは勘付いているようだがな」
そう言って、青い球体がふわふわといくつか飛んできて、手で触れた瞬間に弾ける。
同時に、頭の中に記憶が映し出された。
カライスちゃんと彼女に似た女性がルヴィニといるシーン。
先ほどの先代の水の神子からカライスちゃんを庇い、負傷するルヴィニ。
濁った眼のルヴィニとサフィロスが争い、サフィロスがわざとルヴィニの剣に貫かれて、そのまま相打ちになる二人。
その二人の死体に縋り泣き、アイオ様が決意する。
映像が終わった。心に重いしこりが出来た気がしてしまう。
理解できてしまう自分も嫌だった。
予想通り。
ルヴィニが死んでしまったことで、サフィロスも生きる意思を失ったようだった。ルヴィニが罪を重ねないようにというだけでない。一緒に死ぬために戦っているように見えた。
「サフィロス、神子としてはまずい選択なんだろうけど……」
何と言うか、納得感もあった。
ルヴィニがサフィロスが最強だと考えていたように、殺すなら、彼の感情を利用するのが一番だろう。
だから、この結果くらいしか……わかるけど、悲しかった。互いに、他に生きる理由になる存在がいない。納得できてしまう、自分も嫌だった。
「どうか、阻止を――もはや、神には繰り返す力はない」
私が3回しかチャンスがないのも、力が無いからなのか。
最初に考えていたよりも、さらに厄介な状況か。
「もちろん。それが、私の目的だからね。あと、この世界が二度目に何が起きたのかを知りたい」
「われが知ることは少ない。だが、一度目との決定的な違いはすでに起きている」
「……オブシディアンの死」
「本来、闇の神子が死に、教団の使いとなる。それが一度目との違いだが、この違いは大きい。教団の動きが加速した二度目は――神子も、代わりの者も全て死んだ。邪龍が復活する前に、大勢は決まっていた」
なるほど。
現神子も、攻略対象も死んだのか。
オブシディアンの空間転移が厄介すぎると思う。
あれを暗殺に活かしたら、魔力が高い神子様もかなり厳しいだろう。
さらに、戦闘能力も高い。
私がここにいるのも、先代の水の神子とオブシディアンを倒して、脅威を無くさないとだめということだろう。……多分。
「われが知るのは、われに触れた者の記憶。他の神器を集めれば、更なる過去を知ることができよう」
「私は、水の神子の、サフィロスの暗殺を阻止した時点で、この世界から去ることになる。神器の記憶は私以外には引き継げないの? さっきの断片的な内容もだけど、情報が足りない」
「知ることを恐れぬのだな。情報を得ることは、痛みも伴うぞ」
「それでも、私には必要なことだよ。すでに、アイオ様が兄を失ってしまったことは変えられなくても、まだ、変えられることもある」
この世界にいられない間、ルヴィニに頼むことも出来る。
だからこそ、少しでもいいから、一度目、二度目の滅び、そして、ゲームとの違いを精査しておきたい。
「全てを頭に移せば狂いかねん。そなたの神器に、われの知る事実を確認できるようにしておこう」
「えっと? 貴方の知る事実って?」
「われに触れた者たちの過去を全て」
「全て?」
「そうだ。3回、全て……だが、われが知るのはそれだけでもある。あまり、知ることは多くないのでな」
「……ありがとう」
神器を集めるか。
ただ、情報も必要ではあるけど、それだけで救えるわけでもない。
だけど、今までの甘い考えは捨てる必要がある。考えていた以上に世界は追い込まれている。ノアも動いていると考えるのは安易。むしろ、世界を滅ぼす第二勢力の可能性すらある。
ここから先、どう動くべきか。しっかりと考えないと。




