58.真相②
『運ぶのは構わぬ。お主が結界を張れば、それを咥えて運び、移動しよう』
「えっと……ここの水、だいぶ穢れてるけど、大丈夫?」
『うむ。問題はない』
「待った。結界は僕が担当するよ。ミオもだいぶ消耗してるから休んで」
「いや、ルヴィニ。それ、外したままでいいの?」
「アイオが倒れていて、いつまた襲われるかわからないんだから、このまま外しとくよ」
う~ん。いいのだろうか。
確かに、戦力を考えるとすでにボロボロな状況で、ルヴィニに枷を戻すことは自殺行為な気もする。
今更だけど、ルヴィニの魔力も大概なのでは?
「爆ぜろ」だけで、水の神子様の魔力防壁すら壊して、壁に叩きつけていた。実力差が明確だ。
「何、その顔?」
「いや、一応、心配してる。ルヴィニ……勝手に外しても、問題はないの?」
「無いと思う?」
「問題あるんだね?」
「言ったはずだよ。僕とサフィロスの腕は相互の魔力を相殺する。僕が外していれば、あっちも自由に使える」
「なるほど」
ルヴィニに杖を渡して、3人を包むように結界を張った。
その結界を水龍が握って、深く水中へと潜っていく。
洞窟自体が外の海へと繋がっている。
ぐんぐんと洞窟を抜けて、海の中を進んでいく。
この状況では襲われる心配もないだろう。
アイオ様がぐったりと倒れているが、何もすることも無い。
時間が出来たから、現状を整理しよう。
今、教団に命を狙われているのは『サフィロス』。
そして、本来使える力を封じられている状態だった。
神子襲撃が現実味を帯び、いつ襲われるかわからない状態であれば、ルヴィニの言う通りわざわざ封じる必要はない。
刺客が現れている以上、文句は言えないだろう。
「オブシディアン……覚えがないんだよね」
正直、ゲームでは出てこない実力者が多い。
サフィロスは神子だったけど、ルヴィニもオブシディアンも明らかに強い。先代水の神子よりも二人のが実力が上だろう。
「きみの情報、割と役に立たないよね。あれはアイオの兄であり、闇の神子の実弟の従者であることは間違いはないよ。ただ、死んでたのは知らなかったけどね」
『そのことなんじゃが……伝えておくべきことがある』
水龍から声がかかった。
「何か知ってるの?」
『断片的な記憶とでも言うか、よくわからぬ状態ではあるが、あ奴と何度となく戦い、その果てに、殺したのは他でもなく儂と主である故な』
「……話を聞きましょう」
水龍は光の大陸の力を吸い取っていた。
そこに幼い女の子、闇の神子、オブシディアンの3人が、水龍を討伐しに来た。流れはわかる。
『操られ、自我もない状態だったが、何度も戦ったのじゃ。どうしてなのかはわからない。だが、こちらが常に優勢であった。最後は、二人を逃すために、あ奴が残り、儂が殺したのじゃ。その後、主が回収し、儂らと同じように操られておる』
「……何度も戦った?」
『そうじゃ……どちらも瀕死にしたこともあれば、闇の神子を殺せたこともあった。じゃが、女児への守りは厳しく、手出しは出来ぬままじゃった。その女児が何かすると戦いの前に戻るのじゃ』
女児はノアだろう。
ノアが無事であれば、悪い結果になったらやり直すことができる。
ただ、それでも実力差があり、倒せる結果には繋がらなかったのか。
そして……ノアの時間逆行も万能ではない。
戦いを挑む前には戻れなかったのだろう。
おそらく、一度、起点にしたセーブ地点をずらせないなどの制約があり、結果として、オブシディアンを失ったのか。
「闇の神子から光の大陸でおかしな事象が続いているため、調査の間、アイオを預かってほしいと申し出があった頃かな。それ以降、彼も闇の神子も消息が不明ではあったけど」
「その情報、もっと早く教えてよ!」
ルヴィニの話だと、闇の神子が生きていることは確認しているが、迎えが来ていないため、そのまま預かっているらしい。
若干だけど、ゲームでの情報と異なる。
アイオ様は行方不明の長兄を探すために、水の神子様に助力を頼み、そこで従者となったはずだ。
闇の神子の情報は限りなく少ないけれど。
ゲームでも、水の神子と行動を共にする闇使いの仮面の男がいた。
声が違うことからの予測だけど――アイオ様の長兄が闇の神子だった。そして、その人が行方不明になり、教団側に堕ちた。
そこで闇の神子となったのがオブシディアン。さらに彼が亡くなり、アイオ様が継いだ。
辻褄は合う。――あくまで、今ある情報からの仮説だけど。
胸の奥に何とも言えない感情が生まれる。
「ノアが闇の神子一人で挑むはずだった流れに介入し、改変しようとしたかな……ただ、結果として、闇の神子様の代わりにオブシディアンが犠牲になった?」
おそらく、転生ヒロインも闇の民である以上、神子の一族の情報は得ていたのだろう。ただ、複数で挑めばという目論見が外れた。
オブシディアンには知っている情報を与えて、信頼関係があったとかだろう。彼を失うことになったようだけど。
「……狂ったのかな」
覚悟を決め、改変を試み――失敗した。
そのせいだろうか。
ノアの風の大陸の介入の仕方は歪。人を従えるだけで、信じあう関係を作ろうとしていない。
体全体に寒さを感じて、腕をさする。
信じていたものが敵となる。
今、私がルヴィニを失ったら?
サフィロスが神子だと発覚して、頭を掠める可能性。
ルヴィニが死に、敵となったら――サフィロスは戦えないんじゃないだろうか。
友達だと、あっさりと私を受け入れたサフィロスは、多分、すごく寂しがりだ。
水の神子としての公の立場を持つからこそ、わずかな個の部分に固執しているように見える。その象徴がルヴィニだ。
私個人としても、ミッションの核としても、ルヴィニを失う訳にはいかない。
ノアと同じ場所に堕ちる訳にはいかない。
「何が?」
「ノアは大切なものを失って、狂ったのかな? この世界の人と協力しようとしてなかった」
「……さあね。でも、きみは大丈夫でしょ? 仲間にだって情報は絞るし、信頼とは別の面で、しっかりと世界を把握しようとしてる」
「ルヴィニ……死なないと約束してくれる?」
「何のために、枷を付けないと思ってるの? そのつもりだよ」
ノアがオブシディアンに何を伝えているのかは不明。
ただ、オブシディアンは闇水晶を持っていた。
あれはゲームのキーアイテムにより、空間転移まで使えるようになっているオブシディアンは戦力としてはとても脅威だ。
彼が教団側に堕ちたことで、その知識も教団に渡っている。
5年前の時点で、動きが早かったのも影響を受けているのだろう。
私が知っている世界だから知識を活かせば……そんな甘い状況ではない。
「ルヴィニ。確認だけど、闇の神子様は生きているんだよね?」
「たぶんね。少なくとも、光の大陸への魔力供給が変わってない。それで、オブシディアンと戦った後のことは?」
『うむ……無傷とは言えぬのでな。この地で傷を癒しておった……儂は元が聖獣でもあるから、管轄外だそうじゃ』
ああ。
つまり、神子様達の死体については、治す手段があるけど、水龍は放置されていて、ここにいたのか。
考えていた以上に、複雑に世界が絡み合ってる。
「今、先代の水の神子とオブシディアン以外にあちらにいる駒、わかる?」
『二人には劣るが、先日、新しい者が出来たようだ。水の神官のようだった』
カライスちゃんの姉か。
さっきはいなかったけど、出てくる可能性があるなら……覚悟を決めないといけない。
まずは、サフィロス達と合流。
そして、間を置かずに動くべく気だろう。
あちらの戦力が回復する前に――暗殺阻止を確定させる。




