57.真相①
再び、アイオ様から爆風のような魔力が叩きつけられる。
目の前にいたオブシディアンが私から視線を外したのを確認して、「オリオン」と呼ぶ。
すでに私は興味の範囲外らしい。
爆風に煽られ、壁に激突しそうだった私をオリオンが救い、その場を離れる。
アイオ様の元へと向かう。
「アイオ様!」
「ミオさん……危ないからっ……」
どうやら、魔力が暴走しているだけでなく、すでに枯渇し始めたアイオ様は頭を抑えて蹲っている。
それでも魔力の波のようなものが襲ってくる。ただ、先程までの威力はない。
「落ち着いて、深呼吸しましょう。大丈夫です」
「でも……まだ……」
「アイオ様、落ち着いて。もう、魔力を使わないで大丈夫です。まず、乗ってください。空中から牽制しつつ、様子を見ます」
すでに、アイオ様は魔力切れの症状が起きている。
余裕そうにしている自称アイオ様の兄と戦うのは無理だろう。
アイオ様をオリオンに乗せていると距離を取っていたオブシディアンが近寄ってきた。
「ひどいな~、ミオちゃん。俺と遊ぼうよ」
「うるさい! アイオ様が大事だって言ってるでしょ」
寄ってきたオブシディアンに水球を撃って、目くらましにしつつ、オリオンで空中へと舞い上がる。
「僕は……何も、出来なかった」
「私が首を絞められて危なかったのを助けたのはアイオ様ですよ」
息も絶え絶えな状態になっているアイオ様を連れたまま、オブシディアンの様子を窺う。
まだ、こちらに警戒をしていて、ルヴィニと戦っている女性側を助けようとはしない。
「オリオン、頭上を旋回しつつ、攻撃できる?」
「きゅ!」
私の魔法では、牽制にはなってもダメージが与えられることはない。
杖で、デバフをかけつつも、この膠着状態を崩すことはできない。
「……はぁ……っ……」
「アイオ様、辛かったら寄りかかって構わないので、振り落とされないようにお願いします」
「うん……」
オリオンが縦横無尽に動き回りながら、雷撃で攻撃をする。
私はタイミングを見計らって、デバフをかけたり、この空間のギミックを変動させるスイッチを切り替えたりして、できるだけ有利になるように立ち回る。
ちらっとルヴィニを確認するが、あちらも決め手に欠けている。
接近戦しかできないのが痛い。
「ミオ!」
私が視線を送っていることに気付いたのか、ルヴィニから呼ばれる。
「オリオン!」
「きゅう!」
ルヴィニの元へ向かおうとすると、下から闇の槍がこちらに射出される。
合流は阻止したいようだけど、針でないのは失敗だろう。
一発だけなら防げる。このまま進めと、念じながらオリオンの腹を軽く蹴る。
「結界!」
ばりんっと大きな音を立てて、結界が壊れる。
一撃に耐えてくれたおかげで、こちらに当たることなくルヴィニの元へとたどり着く。
オリオンから降りると危険なため、横に降り立った。
オブシディアンとは距離があっても、容易に覆されるため、警戒は必要。
「ミオ」
「なっ……んぐっ!?」
呼ばれたため、ルヴィニの方に視線を送ろうとした。
その瞬間、唇に冷たく固い感触が当たり、変な声がでた。
ルヴィニの左腕の腕輪が私の唇にあてられていた。
「“ελευθέρωση(解放)”」
私が抗議する前に、ルヴィニが身に付けてた腕輪が外れた。
ぼわっと炎が舞い上がるように、ルヴィニの魔力が周囲に広がる。
いきなり外していいの!? というか、勝手に外すのまずいんじゃなかったの!?
「持っておいて……」
「え? ちょっと!」
外れた魔石と金環を渡された。重い。
いきなりの展開についていけずに、呆然としたまま受け取る。
ルヴィニはすでに敵側の方へと走り出していた。
「爆ぜろ」
ルヴィニの一言で、炎が爆発した。
「へ? け、結界!」
ルヴィニの攻撃による爆心地は、敵対する女の目の前。
爆風で相手が吹っ飛ぶのは構わないけど、こちらにも爆風とともに建造物の破片とか、飛んできた。
慌てて、結界を張って、自分とアイオ様への被害を防ぐ。
気付いたら、ルヴィニが破壊したせいで、周囲はぼろぼろになっている。
あちこちから水が噴き出したり、上から流れ落ちたりと、惨憺たる有様だ。
「ちっ……これは、撤退かな~」
オブシディアンの声が遠くに聞こえた。
場所を確認するとだいぶ、こちらからも爆心地からも遠い。
どうやら、オブシディアンは攻撃から逃れた。
だけど、女性の方は攻撃がしっかり入ったようだ。
洋服はボロボロになっている上に、気絶しているのか、ぴくりともしない。
「やれやれ、これじゃあ使い物にならないかな」
オブシディアンが女性の横に現れ、脇に抱える。
女性の方をよく見ると腕の角度とかもおかしい。
「そう言わずに、もうちょっと付き合いなよ。漸く本気を出せるんだしね」
ルヴィニがすごい速さで斬りかかるが、オブシディアンの姿が消える。
「オリオン! 上昇!」
「ちぇっ……いい反応するよね。ざ~んねん」
オリオンに指示を出し、その場から離れると、私がいた場所にオブシディアンが現れた。
どうやら、空間転移には多少のログがある。ぎりぎり助かった。
思った場所に何度も飛べるのは脅威だけどね。
「じゃあ、またね~、ミオちゃん」
静寂。
どうやら、本当に撤退したらしい。
先ほどまで感じていた重たい魔力の圧が消えた。
「終わった?」
「多分ね」
ルヴィニのいる場所に降り、ぐったりと私にもたれかかっているアイオ様をルヴィニが下ろした。
床に寝かして、脈や呼吸を確認している。
「……アイオ様、どう?」
「魔力覚醒によるものだし、休ませていれば大丈夫でしょ。暴発というには威力も低いし、自分である程度コントロールは出来てたようだね。休ませれば問題ないよ」
「あれで? 大きなクレータ―できてるよ?」
「あれだけ魔力消費した後というのもあるだろうけどね。魔力回路をこじ開けたにしては、綺麗なものだよ」
ルヴィニがアイオ様の体に手を翳しながら魔力を送り込んでいるっぽい。
「よかった……また、襲撃来ると思う?」
「さあね。あの女の首がおかしな方向に曲がったのは確認したし、普通なら生きてないだろうけど……わざわざ回収したってことは、まだ使えるのかな?」
「……動く死体ではあるから。可能性はあるよね」
オブシディアンだけなら戦えただろうけど、わざわざ彼女を回収して撤退したということは、回復できる手段があるのだろう。
しかし、彼女が水の神子ではなかったこととか、説明が欲しい。
「ミオ、アイオは見ておくから、ポーション使って、怪我は治して」
「うん。じゃあ、ちょっと向こうで……」
オブシディアンの針のせいで、浅い傷が多数できている。
興奮状態だったから気にならなかった痛みがずきずきと痛む。
物陰にて、服を脱いで、ポーションを体にかけて回復する。
だいぶ、厳しい戦いではあった。
怪我自体は治ったとはいえ、突如襲ってくる倦怠感は体にくる。
「う~ん……あ、そうだ! 水龍は?」
『ここにおる』
中心にある深い水の奥から水龍が顔を出した。
『すまぬの……加勢してやれぬわが身を許して欲しい』
どうやら、水の中に隠れ、あの水の神子様からの命令に従わずに、じっとしていたらしい。
「いや、確認だけど。あの女性が主なの?」
『そうじゃ……生前は水の神子であった。子を宿していたが、産み落として、ほどなく亡くなった……じゃが、死体となった主を利用する者により……吾もまた服従させられておった』
「先代だね。21年前に現神子を産んだ後、すぐに亡くなったと聞いてる。肖像画も見たことはあるよ。だいぶ記憶はおぼろげだけどね」
戦闘中だと、考えないようにしていたけど。
ゆっくりと息を吐いて、改めて、情報を整理する。
あの神子様は21年前に死んでいる。
暗殺対象の神子様ではない。
ゲームでは彼女が敵対している水の神子様なわけだけど。
死んだ時期が明記されているわけでもない。死んだ水の神子様が二人いたとしても、おかしくはないのか。
私が選んだ水の神子様の暗殺阻止は、現・神子様であるし、思い描いていた人と別であっても、ミッションの成否は関係ないのも理解できるけど。
なんだろう。
すごく、脱力感。思ってたのと違う。
そして、戦闘前にルヴィニが「やっぱり」と言っていたということが気になる。
もしかしなくても、私の勘違いに気付いていた?
「ルヴィニ、いつから変だって気付いてたの?」
「最初から話は疑ってたけどね。別人かもしれないと思ったのは、もう一人の導き手も、水の神子を女と誤認してたからだよ」
「え? そんな話聞いてない」
「疑問が残ったから、そこを共有しなかったからね。文句はサフィロスに言ってね」
「え? あれ? もしかして、ねえ、私が勘違いしてたんだけどさ」
ルヴィニの話でもう一度整理する。
現神子様は21年前に生まれた。
ゲーム情報をもつ、私とノアが双方に勘違いしていたけど、現神子は男性。
そして、魔力量が桁外れという情報。
なんだろう。
今更、話を整理すると、ルヴィニが気安いながらも守ろうとしていた存在が頭に浮かんでくる。
「ルヴィニ……あのさ、サフィロスが神子様だったりする?」
ゲーム内での情報をもう一度、頭に浮かる。
点と点が繋がっていく。
公式の場では話しかけるな言われた理由。
ルヴィニとの信頼関係の深さ。
むしろ、性別を除いた情報のすべてがサフィロスを指している。
「そういうこと。君、暗殺があると言い張り、神子本人も知ってる素振りなのに、サフィロスに会っても反応しないから、こっちも戸惑ってはいたんだよ」
私、神子様本人に暗殺されますって、すでに伝えてるんじゃん!
ルヴィニも早い段階でわざわざ3人で会える機会作ってた!
いや、直接会いたいと言っても、叶えてもらえない状態にもやっとしたり、信用されようと頑張ってたわけだけど……すでに叶ってたよ。
「……ちょっと、色々と整理したい」
「後にして。アイオも心配だし、さっさとサフィロス達に合流するよ」
それはそう。
だけど、思いつめた表情で、剣を抜くのは何?
ルヴィニが視線を送る先にいるのは水龍だ。
「……悪いけど、あちら側にまわる可能性がある以上、見逃せない」
『うむ。最後まで迷惑をかける……やってくれ』
いや。確かにね。
わかるけど。
ちょっと待ってほしい。
「まった! ルヴィニ、気持ちはわかるけど待って! とりあえず、風の大陸まで、水龍に乗せてもらった方がいいと思う。オリオンで三人は厳しい。それに、知っている情報を聞き出してからでもいいはず!」
覚悟を決めているところに申し訳ないけど。
アイオ様が意識がない中で、オリオンを使っては厳しい。
私の訴えに、一人と一匹は呆れた顔をしたけど。
その意見が採用されて、水龍により運んでもらうことになった。




