53.水の洞窟⑤
魔力が尽きて、気絶してしまった。
その後、アイオ様とルヴィニでギミックを解いて、先に進んだらしい。
気絶した私を運んで……やらかした。
「重かったよ」
「いや、ごめん……」
ルヴィニの言葉に、頭を下げるしかできない。
魔力切れで、倒れるとか迷惑この上ない。
「ミオさん、嘘だからね。ルヴィニ様、身体能力化け物だから、全然平気そうだったよ」
アイオ様がフォローしてくれた。
だけど、ここまでの道のりだって、10㎞くらいはあるはず。
流石にその距離をずっと担いでもらったなら、申し訳なさすぎる。
「ごめん」
「魔力の使い過ぎで気絶するのは迂闊すぎる。限界を見極めるのは初歩だよ」
「うっ、あんなに魔力消費激しいと思わなかったから」
反省はしてる。
前よりも魔力の流れとか、感じられるようになってきたから、調子に乗っていた部分もあるのかもしれない。
それに、焦りもあった。
この場所の穢れは、ゲームの世界よりも悪化している。
その理由がわからないから、焦燥感がある。
だけど、それで迷惑をかけていたら本末転倒だ。
ぐっと拳を握って気合を入れると、ルヴィニが頷いている。
言葉にはしなかったけど満足気だ。
「それで、ミオ。ここから随分と雰囲気が変わるみたいだけど」
「うん。神殿様式に変わるんだよね」
鍾乳洞の自然洞窟から、人工物の神殿へ変わる。
奥へ続く道は、ギミックを解かないと進めないのは変わらない。
「なんだか、面倒な場所だね。上からの水が滝を作って通路を塞いだり、よくわからないスイッチがあちこちにある」
「ああ、うん。でも、ここはオリオンがいれば、何とかなるよ」
「ふ~ん? まあ、魔獣とかはいないみたいだし、任せるよ」
神殿内部は水路が繋がっていない状態で、不規則に水が流れ落ちている。
一定の法則で水が流れる仕組みになっていて、この水路の流れをスイッチで上下左右に変えたり、沈んでいる水路を持ち上げることができる。
要は、立体迷路みたいになっているだけで、正しい配置にすると水路が全てつながる。
地味に面倒ななぞ解きを強要され、大変なのだけど……飛べるなら関係ない。
「ここの仕掛けは頭に入ってるから待ってて。オリオン使えば、飛んでいけるから厄介な仕掛けも踏まない」
「手伝いは不要?」
「うん。ちょっと、行ってくる」
強制戦闘のトラップとか、一度水路を高くして通り抜けする場所は全て無視。
知識とオリオンを使い、完成させる。
「早いね」
「ここは本来なら大変なんだけどね」
「え? もう?」
ずごごごっと奥にある、祭壇へと続く門が開いた。
アイオ様がぽかんとした表情でこちらを見ている。
拍子抜けするほど、あっさりと攻略できたことに戸惑っている。
「少しは昨日の役立たずぶりを返上しないとね」
「オリオン召喚して、体調は? 魔力の使い過ぎで気持ち悪いとかはないね?」
「大丈夫、行こう」
あの門の先はすぐに最後の広間、アクア・レガリアが安置されている祭壇がある。
「この先、危険は?」
「わからない。ただ、祭壇は水が張ってある部屋。最低でも膝くらいまで水に浸かる。基本、歩いての移動は厳しい」
水の中には魔獣もいる。水面に降りて戦うのは得策ではない。
「水の最大は?」
「地下水路に繋がってるから、かなり深い。この場所と同様に、水位も上下するから――注意が必要」
最後のステージ。祭壇の間。
移動手段が板に乗って、スイッチを押すと水の流れる方向に板が移動する。
ここと同様にオリオンで飛んでいく方法が取れればいいのだけど。
定期的に射線上の物を凍らせる光線が四方から射出される。
狙われるのは動く、水面上の物体。
オリオンは、ただの的になる。
ただ、光線を上手く、水面にあてることが出来ると下の水面が一部が凍る仕様。
現実では、どうなっているだろう。
「私の知識ではあの鯱が我が物顔して、泳ぎ回る。板を乗り継ぎながら、戦うので結構面倒だったんだけど……鯱を倒してる。中を見ないと、判断できない」
この先はどうなってるか、本当にわからない。
私の知識が役に立たない。
もちろん、ボスがいない。
何事もなく、神器を入手できるのが一番。
だけど、そうはならない予感がする。
「明らかに穢れが蔓延している状態で、危険がないとは思えないけどね」
「だよね」
「とにかく、水面が多く、足場が少ない。こちらが動きを封じられる可能性が高いってことだね」
ルヴィニの確認に頷く。
実際のところ、水の中で魚系と戦うのは避けた方がいい。
だけど、移動する板に乗って移動するのも、ぐらついて危険だろう。
「えっと、入口からミオさんが浄化して、先に魔獣を掃討したらどうかな」
「妥当だね。少なくとも、穢れがある状態で奥に進むより、入口でミオを守りながら、足場を固める方が間違いは起きないね」
「わかった。やるよ」
浄化をすることは問題がない。
3人で一通り作戦を立てた。
基本は、私が浄化。その護衛にアイオ様。
ルヴィニは前線で、魔獣が近付かないように処理。
「行こう」
祭壇のある広間に入る。
厳かで神秘的な神殿の様式だけど、穢れが酷い。
予想していたよりもひどい。
空中の靄もだけど、水が紫に濁っている。
さらに、中央にいるボス。
大きな蛇のような体躯。蛇ではないことがわかる角と鬣。――水龍。
さらに喉元には赤い石も見える。
教団により、魔獣とされてしまった存在。
「気のせいかな……黄色い、雷のようなものを纏ってるように見えるんだけど」
「水と光の魔力が強いね。あの聖獣、オリオンと属性は変わらないんじゃない?」
ごくりと唾を飲み込む。
ルヴィニの言葉をそのまま受け取るなら……元、聖獣だった存在。
「水に落ちれば、感電するだろうね。攻撃が通るかも怪しい」
ルヴィニの言葉に頷きを返す。
近距離で攻撃して、ダメージが入れるのは難しい。
失敗すれば、水に落ち、感電。
さらに、水に引き込まれれば、最悪は溺死。
戦うのは無理だ。
「作戦変更を提案する! 討伐は諦めて、神器の奪取を目指す」
明らかに、戦うのは危険。
ここまでひどい状態だと穢れを浄化するにも、時間がかかり過ぎる。
戦うにしても、もっと優位になる場所でないと厳しい。
「妥当だね。だけど、どうやって奪取するの?」
「よく見ると、四方の隅の部分が凍ってる。あれは、凍らせる光線が数十秒かに一度出てるはず」
説明しているうちに、ひゅんっと目の前で四つの光が交差するように射出された。
このステージのギミック。
あの水龍に対して効果はない。
ただ、存在はしてる。
「それで?」
「あれが出る瞬間に、オリオンを召喚する。杖を咥えて、持ってこさせる」
空中で狙われるのは厳しい。それでも、ずっとではないなら、可能だろう。
「最低で1回。下手すると3回くらいは光に狙われるよ?」
「わかってる。結界で弾く。ルヴィニ……その間、私は無防備になるんだけど」
「ふふっ、いいよ。きみはオリオンに集中しなよ。僕が守ってあげる」
アイオ様に視線を送る。
こくりと深く頷いた。異論はないらしい。
祈りを込めるように、杖を握る。
私は、ここで止まらない。
あの未来を覆すために、水の神器を手に入れる。




